パートさんが長く頑張っている会社がしている「たった一つ」のこと~相思相愛マネジメント(1)~
「たった一つ」のこととは?
本記事のタイトルを、「パートさんが長く頑張っている会社がしている『たった一つ』のこと」としました。
「え、たった一つ?」……って、思いますよね。でも、そうなんです。たった一つです。では、その「たった一つ」とは、いったい何なのでしょうか。
答えは、パート・アルバイトさんとの「相思相愛」な関係づくりです。
「相思相愛」とは、会社側つまり社長や上司など正社員と、働く側のパート・アルバイトさんが、会社の理念でありミッションのもと同じ方向を向きながら、互いに信頼しあい、「あなたに働いてほしい」「ここで働きたい」と思い合っている状況を指しています。
こうした状況を、雇う側である企業つまり社長や正社員、店長などが率先して「作っている」会社では、パート・アルバイトさんは、ご主人の転勤など不可抗力が生じない限り、ほぼ辞めません。そして、店長や正社員と一緒になって、明るく楽しく、共にお客さまのために、日々真摯に頑張ってくれているのです。
「相思相愛」こそが大事だと思うわけ
これは、理想論で言っているのではありません。求人広告会社に在籍し、20年以上にわたり人事マネジメントに特化して企業取材を続けてきた、私自身の実体験に基づいています。しかもその取材の多くが、女性を中心としたパート・アルバイトさんの、マネジメントに関するものでした。
取材はさらに、働くパート・アルバイトさんご本人の側にも、およんでいました。定着せず、戦力化できないのは、彼ら彼女たち働く側が、「辞めたい」と思い「頑張りたくない」と思うからにほかならないからです。であればその理由を、当人に聞いてみようと思いました。
こうして取材を続け、大量の事例に触れているうちに、「人がイキイキのびのび活躍している現場には、何か共通点があるようだ」と思うようになりました。「でも、それってなんなんだろう?」と考えているときに、まるで天から言葉が降りてくるかのように、ひらめいたのが、「相思相愛」だったのです。
具体的には、2006年のことでした。いまでは5冊になっている著書ですが、その、まだ2冊目を執筆しているときだったので、間違いありません。すごい発見をしたと思って、一瞬、身体が止まり、一方で心はまさに震えるようだったのを、昨日のことのように思い出します。
敢えて「採用」をテーマにしない理由
もちろん、一朝一夕に「相思相愛」の状況は作れません。でも、経営者や上司が、心から「相思相愛」の実現を望み、目指せば、かならず職場は変わってきます。本連載では、その考え方と実践方法を、丁寧にお伝えしていきます。
「相思相愛」な企業は強くて幸せです。信頼を基盤とした、安心・あったかな風土のなかで、社員一人ひとりが働きがいを感じ、「ここで」自らの人生を豊かにしていきたい、と思っている会社。
同時に、全員がお客さまのことを真摯に想い、お客さまとも相思相愛になれるよう、日々の仕事を積み重ねている会社。こんな会社で働く人は、経営者もマネジメント層も、一般社員もパート・アルバイトさんに至るまで幸せです。同時に、会社としても強い。つまり、業績が付いてきます。
ちなみに、パートさんやアルバイトさんの採用が本当に難しくなっているなか、敢えて採用ではなく「長く頑張ってくれること」、つまり定着・育成・戦力化を主題にしたのには理由があります。
第一には、もちろん、どんなに苦労して、お金をかけて採用しても、採用した人が「定着」せず、すぐに辞めてしまったら、その努力はすべて水の泡になるからです。
明るく楽しい少数精鋭な職場に人は集まる
第二に、パート・アルバイトさんが成長し戦力になってくれれば、仕事が効率化され、より少ない人員で仕事を回せるようになるからです。採用できないなら「既存の人員で足りるようにする」視点を持つ、というわけです。
さらに、パート・アルバイトさんが頼りになる戦力に育ってくれれば、お客さまのお名前や好みを覚えるなど、より良い接客・サービスができるようになります。つまり、少ない人員にもかかわらず、より高いご評価を、お客さまからいただけるようにもなるのです。
第三に、パート・アルバイトさんが「長く頑張ってくれる」職場では、実は採用もうまくいくようになるからです。このことも、多くの取材事例が証明しています。
「長く頑張ってくれる」職場とは、要するに働きやすい職場です。働きやすければ、既存のパート・アルバイトさんからの紹介が自然に起こります。また、「働きやすい職場」は自然と雰囲気が良くなります。
「明るく」「楽しそうな」職場には、応募が集まります。多くの求職者が仕事探しにおいて気にしているのが、職場の人間関係です。応募者の話を聞いていると「応募する前に、そのお店の様子を見に行く」という人が少なくありません。そんな「事前偵察」の目をくぐり、応募してもらえる職場は「働きやすく」、働く人がイキイキしているものなのです。
次回は、【実例】3K職場でも人が辞めない理由~相思相愛マネジメント②~で、相思相愛を軸とした雇用管理「相思相愛マネジメント」を実践している、実際の会社の例についてお伝えします。
早稲田大学卒業。1996 年に求人広告企業アイデムに入社。同社人と仕事研究所にて、「人とマネジメント情報誌」の記者・編集者を担当後、編集長を経て、2009 年よりアイデム人と仕事研究所所長。
この間、パート・アルバイト、女性社員の採用・戦力化、CS、ES、評価・賃金・教育制度、モチベーションアップ、マネジメントなどをテーマに、数多くの企業と働く人を取材する。また『パートタイマー白書』の企画・調査等に携わり、現場情報に詳しい。
2013年に独立し株式会社働きかた研究所を設立。企業に向けて「パート・アルバイトの採用・定着・戦力化」「女性社員の活躍 」等、コンサルティング活動を行う。他に、厚生労働省等各種公的委員会の委員、専門誌への執筆、講演も多数。米国CCE,Inc.認定GCGF-Japanキャリアカウンセラー。一般社団法人エチケット・サービス向上協会理事。著書に『パート・アルバイトの活かし方・育て方~「相思相愛」を実現する10ステップマネジメント~』『なぜあの会社には使える人材が集まるのか~失敗しない採用の法則~』(共にPHP研究所)などがある。
働きかた研究所
http://hatarakikata.co.jp