【ヒトクル取材】異業種から保育園の園長へ。プロ意識とモチベーション向上のために、慣習にとらわれない新たな取り組みを実施。
社団法人こひつじ会 小百合保育園 園長 渡辺司さま
現政権の働き方改革の方針のもと、保育士の待遇改善の声が聞こえるようになってきました。
しかしながら、園児を預かりながら思い切った改革がなかなかできないまま、保育園を運営している施設もまだまだ多いのが現状です。
そんな中、半年ほど前に異業界から保育園の園長を迎え、新しい取り組みを始めているのが沼津市の「社団法人こひつじ会 小百合保育園」です。
本日は、業界では珍しい異色の経歴を持つ渡辺司園長にお話を伺いました。
塾の先生から、専門学校・大学の講師へ。常に2足のわらじを履いていた
~今までの経歴について教えてください~
大学を卒業して、塾の講師になりました。翌年から空き時間を利用し、コンピューターの専門学校に通い教員資格を取得し教員になりました。昼間は専門学校でコンピューターを教え、夜間は進学塾で数学を教えていました。
当時ではまだ稀少な資格を取得していたこともあり、20代後半に大学からオファーがあり非常勤講師に就任しました。専門学校と大学を兼務し、さらに塾の講師も勤めました。1つのフィールドに執着せず、要望があれば未知の環境でも積極的に自分を試す。そんな性格からか常に2足3足のわらじを履き、教員から校長そして経営にも携わるようになり、複数の団体から理事を依頼されるようにもなりました。
しかし、多忙は確実に健康を蝕み2年前にストレスから病気を患い、大学の講師以外はすべての職を辞することになりました。
どんなに頑張って成果を出しても、病気で一瞬にして台無しになってしまう、周囲の期待に応えられないことを非常に後悔しました。
ですので、これからは身の丈にあう無理しない範囲で、人の役に立つことをしよう、と考えたのです。
そんな時に、理事を務めていた小百合保育園の前園長から引退するので、と後任探しを依頼されました。
保育園の園長という仕事は、他業種の施設長と比べても責任の重さと報酬が釣り合わず、なかなか適任者が見つかりません。園長の資質についてもあれこれ考えていると、私自身に最も可能性があるのではないかと思うようにもなりました。それが園長になったきっかけです。
人間形成に関われる未就学児を教えたかった
~どのような想いで園長を自ら引き受けられたのでしょうか?~
理由は2つあります。1つ目は、人間形成に関わる教育をしたかった、ということです。
今まで、私は中・高・大学生、そして幅広い年代の社会人まで教えてきました。
そこで思ったことは、技術は教えることはできたけど、人間形成には関われなかった、ということです。すでにある程度成長した年齢だと、人間性の根本の部分を変えるのは難しいんです。
幼児期は、人間形成において一番大事な時期です。そこに自分が関わることができたら、と強く思いました。
2つ目は、ちょうどこのお話しがあったとき、安倍政権が幼児教育に力を入れる方針を出した時期でした。古い慣習が残るこの業界が、これから変わっていく、ということも追い風になりました。
想像以上の責任の重さと、それに見合わない対価をなんとかしたい
~就任されてから驚いたことは何でしょうか?~
絶えず思っていることは、やはり責任に対しての、怖さです。大学生では生死にかかわることはほとんどありませんが、子供たちは普段の日常生活の中でも、ふとしたことで事故につながる。そういうプレッシャーを常に感じています。
また、あまりに保育の内容が多岐にわたっていて、驚きました。研修が非常に多いのですが、追いつきません。その割に待遇が悪い(笑)
でも、この業界特有な考えなのでしょうが、「社会福祉」という考えが根底あるので、みんな待遇のことは大きな声では言いにくいんでしょうね。もっと正当な対価を支払うべきだと思いました。
そのためには、保育士も「プロ意識」をもたなくてはならないと思っています。プロは自分の仕事に対しての正当な対価を把握しています。その意識が誇りや自信となり精神的な支えにもなるのだと思います。
小さい園だからこそ、いい意見はどんどん取り入れたい
~新たな取り組みについて教えてください~
定期的に職員会議をしているのですが、その中でみんなの意見を聞いて、よいアイデアはどんどん取り入れて迅速に実行します。小回りが利くことこそが小規模事業体の良さだと思っています。
●新たな取り組み●
【保育面】
・何を優先するかをはっきりさせる
園長就任後すぐに保育室の大規模な変更をしました。全員で一同に食すランチルームを廃止し、各クラスが年齢にあったペースで部屋でランチを食べるように全面改良。食育が成長に欠かせない時期に「早く食べて」と時間で急かされ、給食を食べる子どもの姿をみることがなくなりました。
ランチルームがあると洒落ていて統制が取れているように見えますが、実際には時間に制約され犠牲になる子どもたちが多くいます。保育士も責任上急かしても食べさせないといけないという責務に駆られます。
何を優先するかがあいまいなため本来の目的が見失われていると思い、就任してすぐに改善を決めました。
・就学準備
年長園児向けの就学準備は今までも行っていましたが、単なる文字や数字の学習に留まらず、学びを通して個々の子どもたちが持つ個性や能力を把握し、文章で保護者に伝えるようにしています。
これは私の教員としての得意分野でもあり、子どもたちの良い部分を保護者に理解して今後に活かしてもらう意味もあります。
・園行事の2部制
運動会などの園行事を、乳児クラスと幼児クラスの2部制にしました。今までは狭い園庭に全園児と家族が集合していたので、非常に観づらい状況でした。また乳児は、体力的に何時間も行事に参加するのは大変です。そこで朝の1時間程度で乳児クラスの運動会を行い、そのあと入れ替えをして幼児クラスを行うようにしました。
これは保護者にもとても好評です。意外にもスタッフにも好評で、乳児の担任は、1部に集中して、2部は補助に徹する、など集中力の切り替えができるというメリットがありました。初めての試みである2部制に「大変そうだ」という懸念はありませんでした。それよりも、一生懸命準備して実行しているのにクレームが出ることを改善したかった。
【運営面】
・被服費の支給…年間7000円の被服費を全保育士支給。
・皆勤手当て…常勤のみだった皆勤手当を非常勤職員にも全員支給。
・給与…年功序列で年数に応じた昇給システムを廃止。査定を導入し給与や賞与に反映。
・不要なルールの廃止…職員から疑問に思っていることを聞き取り、必須でないことは徹底的に廃止する
プロ意識をもって働ける環境を作りたい
~最後に園長のDNAについて教えてください~
私たちが関われるのは限られた人数の子どもたちですが、個々の将来に大きく影響する人間形成を担っていると考えます。「いつか子どもが大人になり自分のアイデンティティについて考えるとき、この保育園のことを思い出してくれると嬉しい」です。
そのために、私は園長として、スタッフがプロ意識をもって楽しく働ける環境を作っていきたいと考えています。
渡辺さまにインタビューをしたあと、保育士歴30年、小百合保育園に14年お勤めの、平川主任にお話しを伺いました。
~渡辺園長に交代して、どんな変化がありましたか?~
業界の外の考えを伝えてくれる存在
今までもこの保育園は、待遇はそれほど悪くなかったと思います。でも、渡辺園長がきてからは従来にもまして、スタッフの意見を取り入れてよりよくしていこう、という気持ちを感じます。
また、保育士という職業は、みんな子どもが好きだから保育士になった方が多いので、あまり待遇については表立って言うということがなかったのですが、それについても新しい園長が、世間一般の様子を教えてくださいます。
■渡辺園長 経歴■
H2年 大学卒業後、学習塾に講師として勤務
H3年 塾講師と並行して、専門学校に入学
H7年 専修学校専門課程正教員免許を取得し、専門学校の教員となる
H9年 静岡英和女学院短期大学非常勤講師就任 専門学校主任教員
H12年 専門学校学校長に就任
H19年 静岡県立沼津技術専門学校 非常勤講師就任
静岡県立大仁高校 非常勤講師就任
静岡県専修学校各種学校教育振興会理事就任
全国個人立専修学校各種学校連盟理事就任
H22年 社会福祉法人 こひつじ会小百合保育園理事就任
H27年 専門学校学校長辞任 沼津技術専門学校講師辞任 各種理事辞任
現在は、小百合保育園園長 静岡英和学院大学非常勤講師
(取材日:2017年1月16日)
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