【徹底解説】働き方改革関連法の概要や改正点、対応方法や施行スケジュールなど

【徹底解説】働き方改革関連法の概要や改正点、対応方法や施行スケジュールなど
目次

2018年の働き方改革の成立以降、企業ではより柔軟性の高い働き方ができるよう、既存の社内規則やルールなどを変更し対応する必要が出てきました。

しかし、企業経営者や人事労務担当者の中には「そもそも働き方改革関連法とはどのような制度なのか?」「企業はどういった対応をしていくべきなのか?」という疑問をもつ方も多いと思います。

また、2023年4月から中小企業でも「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率」が引き上げられることになりました。

そこで本記事では、働き方改革関連法の概要や改正点、企業対応の仕方や罰則規定、活用できる助成金について解説します。2023年からの時間外労働の賃金率改訂についても触れますので、参考にしてみて下さい。


働き方改革関連法案とは?

それでは、まず働き方改革関連法案がどのような内容なのか確認していきます。主な概要はもちろん、施行された背景や制度の柱となる考え方、働き方改革の対象となる法律も把握し、自社の労働環境を改善できるよう取り組んでみましょう。


働き方改革関連法の概要

働き方改革関連法の正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」であり、
2018年5~6月に可決及び成立した法律です。

主に労働法に関わる8つの法律の改正を目的としており、2019年4月より順次施行されています。


施行された背景

働き方改革が施行された背景には、日本の現状での社会問題や労働環境での課題が深く関わっています。大きな問題としては「少子高齢化での労働人口減少」が代表的です。高齢化はアメリカ、ドイツ、フランスなどの先進国でも進んでいる社会問題です。

しかし、日本ではそれらの国よりもさらに高齢化が進んでおり、現在では「超高齢社会」と呼ばれるほどになっています。

さらに、少子高齢化から派生して起きている「労働世代の仕事と育児や介護の両立の課題」「長時間労働の慢性化」「有給取得率の低迷」といった問題も施行された背景になっています。

今後はこうした様々な事情を抱える労働者それぞれに、働きやすい環境を提供する必要があります。そのため、「企業のダイバーシティ経営の実現」という課題も同法律が施行された理由になります。


働き方改革において対象となる8つの労働関係法とは?

前述したように働き方改革は8つの労働法を改正する法律です。具体的には下記の法律の改正がされましたので、確認しておきましょう。

  1. 労働基準法(労基法) 
  2. 労働安全衛生法(安衛法)
  3. 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)
  4. じん肺法
  5. 雇用対策法 
  6. 労働契約法 
  7. 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法) 
  8. 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)

なお、改正された法律には、違反すると罰則が発生するものもあるため注意が必要です。企業経営者や人事労務担当者も、これらの法律の概要はしっかりと把握しておくようにしましょう。


働き方改革を構成する3つの柱

働き方改革は労働者の働き方の「選択」を増やし、前述した様々な問題を解消するためのものですが、その達成のために主に3つの目標が設けられています。具体的には下記の事項が該当しますので、制度の狙いもチェックしておきましょう。



1.長時間労働の是正
日本では長時間労働が多く、過労死や障害などを被るケースが増加しています。さらに、有給取得の低さや休日の少なさも課題となっています。そのため、働き方改革において時間外労働の上限規制や、労働時間の把握義務を定めるなどの対策が取られるようになりました。

2.正規と非正規雇用者の格差の解消
さらに、日本では正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差が社会問題となっていることから、不合理な待遇の禁止を定める規定も定められました。これにより、事業主は待遇差の理由について説明義務を負わなければなりません。また、企業内の規定においても不合理な待遇差解消のための取り組みが必要です。

3.多様な働き方(ダイバーシティ)の実現
育児や家事、介護などにより定時で働くことが難しい方々のため、より多様な働き方を支援する目的で、フレックスタイム制の清算期間の延長や高度プロフェッショナル制度の規定が定められました。


施行スケジュール

働き方改革は2018年に成立した法律ですが、施行は2019年4月以降から企業規模に応じて順次適用される形になっています。大企業と中小企業で施行スケジュールが異なる制度もありますので、下記の内容を確認して対応を検討しましょう。


大企業と中小企業の定義

施行スケジュールを確認する前に、まずは大企業と中小企業の定義について確認しておきましょう。

大企業と中小企業の定義は下記の様になっています。

【中小企業の定義】 

  1. 資本金の金額または出資金総額
       ・5,000万円以下の小売業・サービス業
       ・1億円以下の卸売業
       ・それ以外は3億円以下の業種  
  2. 常時使用する労働者数
       ・50人以下の小売業
       ・100人以下のサービス業・卸売業
       ・それ以外は300人以下の業種

上記①または②のどちらかを満たすのが中小企業です。それ以外は大企業です。


働き方改革関連法の施行スケジュールについて

続いて、働き方改革関連法の施行スケジュールについて解説します。



<施行スケジュール> 

  1. 時間外労働の上限規制 → 大企業:2019年4月~ 中小企業:2020年4月~ スタート 
  2. 勤務間インターバル制度の導入 → 大企業、中小企業ともに2019年4月~ スタート 
  3. 年次有給休暇の確実な取得 → 大企業、中小企業ともに2019年4月~ スタート 
  4. 労働時間の客観的な把握 → 大企業、中小企業ともに2019年4月~ スタート
  5. 「フレックスタイム制」の拡充 → 大企業、中小企業ともに2019年4月~ スタート
  6. 「高度プロフェッショナル制度」の導入 → 大企業、中小企業ともに2019年4月~ スタート
  7. 月60時間超残業に対する割増賃金引き上げ → 中小企業のみ2023年4月~ スタート
  8. 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保 → 大企業:2020年4月~ 中小企業:2021年4月~ スタート
  9. 産業医・産業保健機能の強化 → 大企業、中小企業ともに2019年4月~ スタート


働き方改革関連法の改正点やポイント

続いて働き方改革関連法の9つの改正ポイントについて具体的に解説していきます。

  1. 時間外労働の上限規制(労基法) 
  2. 「勤務時間インターバル制度」の導入促進 
  3. 年次有給休暇の確実な取得(時季指定) 
  4. 労働時間状況の客観的な把握
  5. 「フレックスタイム制」の拡充 
  6. 「高度プロフェッショナル制度」の導入 
  7.  月60時間超の残業に対する割増賃金引き上げ 
  8. 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保 
  9. 産業医・産業保健機能の強化 


改正点① 時間外労働の上限規制(労基法)

まず改正された点として時間外労働の上限規制があります。これまでは特別条項付きの36協定を結んでいれば、繁忙期などの時期に1日8時間・週40時間までという法定労働時間を超えて、上限なく労働者に臨時で働いてもらうことができました。

しかしながら、法改正により時間外労働の上限は月45時間、年間で360時間以内という原則的な上限が設けられました。

ただし、業務では予想外のトラブルやクレーム対応といった臨時的な仕事も発生します。そのため、労働者と特別条項を結べば、下記のような上限まで労働してもらうことが可能となります。

  • 時間外労働は年間で720時間以内 
  • 時間外労働と休日労働の合計時間が100時間未満 
  • 2ヵ月~6ヵ月の時間外労働と休日労働の平均がすべて80時間以内 
  • 時間外労働で月45時間を超えられるのは年6回まで

なお、時間外労働の上限は一部の業種に関して2024年3月末まで猶予されています。

例えば自動車運転の業務である物流会社のドライバーもその一つであり、年間の時間外労働が960時間まで認められています。しかし、それでも上限規制によってドライバーの走行距離は短くなり、収入減になるという問題(『物流の2024年問題』)も懸念されています。

時間外労働で大きく収入を得ていた業種や仕事については、新たな形で収入を確保できる仕組みを構築することも今後は不可欠でしょう。


改正点② 「勤務時間インターバル制度」の導入促進

続いての改正点は「勤務と勤務の間に一定のインターバル(休息時間)を設けなくてはならない」制度である、「勤務時間インターバル制度」の導入です。こちらは法律での義務ではありませんが、「努力義務」として導入が促されています。

インターバルの時間は11時間が推奨されています。厚生労働省の基準の見直しで、過労死の要因が「勤務間インターバルがおおむね11時間未満」とされたためです。充分なインターバルを取れるように労務管理は行いましょう。

なお、勤務時間インターバルを導入する際には、必要に応じて始業時刻を後ろ倒しにできる体制も整えておくことが大事です。

9時始業で23時まで残業した場合、勤務間インターバルは翌日の始業までに10時間しか取れません。そのため、始業時間は1時間遅らせて10時開始にする必要があるのです。


改正点③ 年次有給休暇の確実な取得(時季指定)

ワークライフバランスを進め長時間労働を是正するため、年5日の有給休暇取得も法改正により義務化されました。

従来では労働基準法の規定どおりに有給休暇を付与、そして残日数の管理のみを行うだけで済みました。しかしながら、企業側で労働者に有給休暇を取得させることまで責任を持つ必要が出たのです。

なお、対象となるのは年に10日以上の有給が付与される労働者です。こちらは罰則規定もありますので、労働者側から有給休暇申請がない場合でも、必ず企業側から時季を指定して有給休暇の取得を促し取得させましょう。こうした義務制度は「年次有給休暇の時季指定義務」として規定されています。


改正点④ 労働時間状況の客観的な把握

続いて法改正により、労働時間の「客観的な把握」が義務化された点の解説です。

労働安全衛生法の改正により「労働者の労働時間を適切に把握することは使用者の義務である」と明記されたため、企業側で労働時間の把握を行うことが必要となりました。

なお、対象となるのはすべての労働者ですので気を付けましょう。一般社員はもちろんのこと、管理監督者、事業場外みなし労働時間制の適用者、裁量労働制の適用者、派遣労働者や短時間労働者、有期契約労働者なども該当します。

把握の義務を怠ることでの直接的な罰則等はありません。しかし、把握を怠り残業時間が上限を超えてしまうと、時間外労働の上限違反となり罰則が発生しますので要注意です。


改正点⑤ 「フレックスタイム制」の拡充

「フレックスタイム」の制度変更も新たな改正点の一つになります。「フレックスタイム」は1ヵ月等の期間内における労働時間をあらかじめ定め、その時間を満たせば始業や終業の時刻を労働者が自由に決められるという制度です。

企業によっては、就業していて欲しい時間帯を決めておく「コアタイム」を設けている場合もあります。

これまでは当初定めた実労働時間に過不足が発生した時、時間不足の場合は欠勤控除・時間超過の場合にはその分の残業代支払いが「1ヵ月以内」という清算期間で定められていました。しかし、改正により清算期間を「3ヵ月以内」まで延長することが可能となったのです。

これにより、労働者側からすれば勤務時間の自由度が高まりました。しかし、事業者側からすれば労働時間の管理が煩雑となりますので、3ヵ月にする場合にはより厳正に労務管理を行う必要があるでしょう。


改正点⑥ 「高度プロフェッショナル制度」の導入

高度プロフェッショナル制度の導入も働き方改革関連法の改正ポイントの一つです。高度な専門知識があり、かつ、一定の年収要件を満たす労働者を高度専門職と呼びます。

高度プロフェッショナル制度はこうした高度専門職に就く労働者に対して、時間外労働の上限規制や深夜の割増賃金の規定からは外し、労働成果に対して報酬を支払う制度になります。

対象となる労働者は「職務内容が明確で合意をしている」ことが条件で、さらに年収では1,075万円以上である必要があります。

さらに対象業務は「高度の専門知識、技術または経験を要する業務」であり、「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない業務」とされます。

主には金融開発や証券アナリスト、コンサルティング事業や研究開発などの業種が該当します。


改正点⑦ 月60時間超の残業に対する割増賃金引き上げ

中小企業での月60時間を超える時間外労働に対して、割増賃金率が引き上げられたことも大きな改正点となります。これまで中小企業の場合には、60時間超の労働時間部分については、25%の割増賃金率に据え置かれている形でした。

しかし、今回の法改正により、中小企業でも2023年4月以降から割増賃金率が50%になります。そのため、残業の多い中小企業では負担が大きくなりますので、残業時間の削減に取り組んでいく必要が出てくるでしょう。

こうした割増賃金での企業負担増を回避するためにも、前述したような労働時間の客観的な把握は不可欠になってきます。そのためにもしっかりと労務管理を行えるよう、様々な管理ツールや対策を準備しておきましょう。


改正点⑧ 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

同一企業内での雇用形態の違いによる不合理な待遇格差について、発生しないよう促す規定が定められた点も今回の法改正のポイントです。この施策は近年問題となっている正社員と非正規社員の不合理な待遇差を解消することが目的です。

そのため、「同一労働同一賃金」の制度が導入され、同一企業内で働く正社員と非正規社員の給与・報酬・その他福利厚生などに、不合理な待遇差を設けることは禁止とされました。これにより労働者も待遇に納得して勤務を続けられる効果が期待できます。

なお、同一労働同一賃金は待遇差があってはいけないということではありません。その待遇差が業務の内容、責任の程度、職務内容の変更や配置の範囲等から合理的に説明できれば、問題はないということも覚えておきましょう。


改正点⑨ 産業医・産業保健機能の強化

従業員の健康確保を行うため、企業に対して労働者の業務状況等の情報を産業医へ提供することを義務付けた点も改正点の一つです。

近年では特に、働き過ぎによる過労やストレスなどで、過労死や退職の増加が社会問題となっていることから本制度が定められました。

これにより産業医・産業保健機能が強化され、事業主は労働者が健康相談をしやすいように体制を構築する必要があります。また、産業医の面接指導対象者についても、従来の「時間外・休日労働時間合計が1月あたり100時間を超える者」から「80時間超で、かつ疲労の蓄積が認められる者」となり、範囲が拡大しました。

そのため、事業主はより労働者の健康にも気を配り、健康相談もできる環境を構築していくことが求められます。


企業が取り組むべき内容

それでは、働き方改革関連法案の改正のポイントも踏まえた上で、実際に企業が取り組むべき対策についても検討してみましょう。主に取り組むべき対策としては下記の様な内容が考えられます。


36協定や特別条項の締結

まずは働き方改革への対応として、36協定の締結が必須と考えられます。

現状ではほとんどの企業が1日8時間以上、週40時間を超えるケースが大半だと思いますが、まだ協定を結んでいない場合には締結しておいた方が良いでしょう。なお、36協定を結ばずに残業や法定休日に労働をさせた場合、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる可能性があります。

さらに、前述した時間外労働の上限規制もあることから、月45時間・年間360時間の上限を超えて労働をしてもらう可能性がある場合には、特別条項付きの36協定の締結を検討しましょう。

ただし、時間外労働の上限を超えることのできる月は「年6回」までに限られます。


労働条件の明示や書面等の交付

続いて労働条件の明示や書面等の交付です。こちらも以前より労働基準法で、労働条件の内容は明示し交付することが義務化されています。

しかしながら、前述したインターバル制度やフレックス制の拡充などを行うと、始業や終業の時間などは特に理解しにくくなります。そのため、明確に労働条件にも内容を記載しておく必要があります。

なお、法律上で明示しなければならない項目は、主に下記の様になっています。

  1. 労働契約の期間 
  2. 有期労働契約の場合には更新の基準 
  3. 就業場所や従事する業務 
  4. 始業・終業時刻 
  5. 残業の有無 
  6. 休憩時間や休日、2交代制等の場合には働き方に関する事項 
  7. 賃金の計算及び支払方法 
  8. 賃金の締め日や支払日 
  9. 退職や解雇について 


就業規則の変更や作成、届出など

さらに企業が対応すべき事として、就業規則の変更や作成などが挙げられます。特に残業に関する規定や就業時間については、働き方改革関連法の改正により、変更しなければいけない部分もありますのでチェックしておきましょう。

なお、就業規則は労働者が10人以上の職場では作成・届出が義務となります。10人というのは正社員に限らず、パートやアルバイトの労働者も含まれますので注意しましょう。

また、シフト制で1日の出勤人数が10人以下であっても関係ありません。その事業所の労働者が合計10人以上いる場合は、出勤人数に関係なく作成義務がありますので覚えておきましょう。


勤怠管理や労務管理を適切に行う

勤怠や給与計算、有給休暇取得の推進などの勤怠管理や労務管理も大切です。特に今回の働き方改革関連法の改正では、時間外労働の上限規制が設けられました。

また、有給休暇の取得も義務化されましたので、企業側では適切に労働者の勤怠管理を行い、有休の日数なども把握・取得させる必要があります。

ちなみに、働き方改革関連法に違反することで発生する罰則は、全て企業が対象となります。そのため、労働者が勝手に残業をして上限を超過し違反した場合でも、罰則は企業が対象となり罰金も支払わなければなりません。労務管理は怠ることなく、しっかりと取り組むようにしましょう。


待遇差の是正や働く環境の整備

働き方改革では不合理な待遇差も是正が求められていますので、正社員と非正規社員の間に不合理な待遇差がある場合には、その点も解消するようにしなければなりません。

そのため、現状での正社員と非正規社員の賃金や福利厚生などに差がないか、改めてチェックを行いましょう。

また、様々な事情を抱える労働者のためにも、多様な働き方ができる環境を整える必要があります。必要であれば就業規則や社内ルールなどを変更し、労働者が働きやすい職場づくりを行いましょう。

非正規社員でも充実した福利厚生を受けられるようにすると、モチベーション向上の効果が見込めるためおすすめです。


働き方改革関連法の罰則

働き方改革関連法の改正点や内容について確認しましたが、違反するとどのような罰則があるのでしょうか。違反した場合の罰則の内容に関しても確認していきます。主には下記の様な罰則がありますので注意しましょう。


罰則規定① 時間外労働の上限

まずは時間外労働の上限を超える残業等で違反した場合です。これまで36協定による労働時間の延長は厚労大臣の指示によって、上限の基準が定められていましたが、特に超過した場合の罰則はありませんでした。

しかしながら、今回の改正で上限を超えてしまった場合は違反となり「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」となります。

ただし、労働者と使用者のあいだで「特別条項」を結べば「年720時間以内、複数月で平均80時間(休日労働込み)、月100時間未満(休日労働込み)」までは労働時間の延長が認められます。なお、特別条項は「臨時的に特別な事情がある場合」に限られますので注意しましょう。


罰則規定② 60時間超の時間外労働に50%以上の割増賃金

中小企業での月60時間超の時間外労働に対して、50%以上の割増賃金を支給する規定に違反しても罰則があります。これまでは大企業のみが対象となっていた同規定ですが、2023年4月より中小企業にも適用されることが決まりました。

これに違反すると「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」となります。なお、60時間を超える時間外労働を行った労働者に対しては、割増賃金の代わりとして有給休暇(代替休暇)を付与することも可能です。
ただし、その場合には労使協定を結ぶ必要がありますので覚えておきましょう。


罰則規定③ 有給休暇の5日取得

年に10日以上の有給休暇がある労働者に対して5日以上の取得が義務付けられましたが、こちらも違反すると罰則がありますので気を付けましょう。前述したとおり、労働者側から取得の意向がなくても時季指定で労働者に休暇を取得してもらう必要があります。

こちらも違反すると「30万円以下の罰金」となります。年次有給休暇を取得していない労働者は、特に長時間労働の比率が高い傾向にあります。しっかりとワークライフバランスを整えるためにも取得を促しましょう。


罰則規定④ フレックスタイム制度の清算期間延長

労働者自らが始業・終業時間を決定できるフレックスタイム制度についても、清算期間の延長で守るべき規定に違反した場合に罰則があります。働き方改革によって清算期間を1ヵ月超とする場合には、労使協定を締結し、届出を労基署に提出することが必要です。

しかし、これに違反した場合には「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」となります。フレックスタイムは特に労務管理が煩雑になるため、労働者ともしっかりとルールを確認し協定を結ぶことが大切です。就業規則にも規定を記載しておくようにしましょう。


罰則規定⑤ 医師による面接指導

医師の面接指導を行わない、または産業医を設置しないことによる違反も罰則となります。面接指導の対象者は下記の様になっていますので確認しておきましょう。

  • 時間外及び休日労働時間が1月あたり80時間超で、かつ疲労の蓄積が認められる者
  • 研究開発業務従事者で、時間外及び休日労働時間が1月あたり100時間を超えた者 
  • 高度プロフェッショナル制度適用者で、時間外及び休日労働時間が1月あたり100時間を超えた者

さらに産業医を設置しなければならない事業所は、下記の様になっています。

  • 労働者数が50人以上999人以下の事業所の場合は、産業医1名を選任 
  • 労働者数が1,000人~3,000人の事業所は、専属産業医1名を専任 
  • 労働者数が3,001人以上の事業所では、専属産業医2名以上を選任 

面接指導を行わなかった場合や産業医を設置しなかった場合、50万円以下の罰金となりますので、必ず産業医の選任や面接指導は行いましょう。


罰則の対象者や罰則がない法律について

働き方改革関連法に違反した場合の5つの罰則について解説しました。なお、こうした罰則の対象となるのはあくまでも「企業」であることに注意しましょう。そのため、例え自社の労働者が勝手に過重労働を行い違反した場合でも、罰則や罰金は企業に科されます。

そして、罰則がない法律についても注意しなければなりません。例えば高度プロフェッショナル制度については罰則や罰金はありませんが、ペナルティを受けることもあります。そうなると制度の利用自体ができなくなる可能性もありますので気を付けましょう。


罰則が適用されない事業や業務

働き方改革関連法には違反すると様々な罰則がありましたが、一部の業種では長時間労働の上限規制がない場合もあります。理由として、それらの業種ではすぐに上限規制を行い長時間労働の是正をすることが難しいためです。したがって、猶予期間が定められている、もしくは上限規制の適用自体がない業種も存在します。

具体的には下記の業種が該当しますので、確認しておきましょう。

  1. 建設業種:2024年3月末まで上限規制は適用なし 
  2. 自動車運転業務:2024年3月末まで上限規制は適用なし 
  3. 医師:2024年3月末まで上限規制は適用なし 
  4. 鹿児島県、沖縄県での砂糖製造業:2024年3月末まで時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2~6ヵ月平均で80時間以内という規制は適用なし 
  5. 新技術・新商品等の研究開発業務:上限規制の適用からは除外 

2024年3月末までは猶予期間となり上限規制がない業種が多くなっています。2024年4月以降からは、業種によって取り扱いが異なりますので確認しておきましょう。


活用できる助成金

それでは最後に、企業が働き方改革に取り組む際に活用できる助成金もご紹介します。働き方改革には時間やコストも掛かりますので、条件面などが合えばぜひ活用してみて下さい。主には下記の様な助成金があります。


働き方改革推進支援助成金

中小企業が労働環境を改善する際に活用できる助成金として「働き方改革推進支援助成金」があります。主には労務管理を行う際に必要な設備、ソフトウェアの購入費用などの一部が支給されます。

ちなみに2022年は、下記の4つのコースが設定されており、それぞれ適用のための条件や支給額、達成しなければいけない成果目標なども異なっています。

  • 労働時間短縮・年休促進支援コース 
  • 勤務間インターバル導入コース 
  • 労働時間適正管理推進コース 
  • 団体推進コース

これから労働時間の短縮や有給休暇や特別休暇の規定追加、勤務時間インターバル制度の導入などを検討している場合、適用できる可能性がありますので確認してみて下さい。


業務改善助成金

事業場内の最低賃金の引上げ目的で定められた制度が「業務改善助成金」です。

中小企業や小規模事業者等が生産性を向上させるための設備投資を行い、事業所内の最低賃金を一定程度引き上げた場合に、当該設備投資の費用が一部助成されます。対象となるのは生産性の向上になるコンサルティングや人材教育なども含まれます。

こちらもコースが分かれており通常コースと特例コースが設定されています。助成額に関しては賃金の引き上げ額や賃金を引き上げる人数によって変わります。

POSレジシステムや特殊車両の導入、顧客・在庫管理システムなどの導入でも活用できますので、ぜひ条件を確認してみて下さい。


キャリアアップ助成金


非正規雇用の労働者を正社員として雇用した場合に適用される「キャリアアップ助成金」も働き方改革において活用できる助成金です。前述した正規雇用の他に、非正規雇用労働者の処遇を改善した際にも助成を受けることができます。

こちらも非正規雇用労働者の「正社員化支援」と「処遇改善」の2つそれぞれに複数のコースが設けられています。ぜひ自社に適用できそうなコースを選んでみて下さい。

なお、こちらは中小企業だけでなく大企業でも適用を受けられるコースがあります。助成額も条件やコースごとに異なりますので確認してみましょう。

適用を受ける際には「キャリアアップ計画書」を作成、就業規則に正社員転換についての規定などを定めた上で、管轄の労働局に提出します。


時間外労働等改善助成金

労働時間を減らす取り組みを行う中小企業や小規模事業者向けには「時間外労働等改善助成金」も働き方改革で受けられる助成金制度です。

中小企業は大企業と比べると労務管理の意識が低い傾向にあるため、労働環境の改善を目的につくられた制度です。こちらは下記の様な5つのコースが設けられています。

  • 時間外労働上限設定コース 
  • 勤務間インターバル導入コース 
  • 職場意識改善コース 
  • 団体推進コース 
  • テレワークコース

それぞれ支給対象となる取り組みが異なりますので確認しておきましょう。また助成額についてもコースによって違います。

成果目標の達成度合いに応じて金額は算出されますので、自社で受けたい助成金のコースを調べてみて下さい。


エイジフレンドリー補助金

高齢者が安全に働けるように職場環境を改善していく企業には「エイジフレンドリー補助金」の助成金制度もあります。

対象となるのは60歳以上の労働者を常時1名以上雇用していること、かつ、中小企業事業者であり労働保険に加入していることが条件となります。取り組みについては高齢労働者に配慮した安全衛生教育や、身体機能低下を補う設備・装置の導入などが補助金の対象となります。

補助金額に関しては高年齢労働者のために行った職場改善の経費の2分の1となっています。ただし上限額として100万円という規定がありますので注意しましょう。

当該補助金を受ける場合には、エイジフレンドリー補助金事務センターへ照会を行い、対象となる経費の確認を行うことも大切です。


人材開発支援助成金

労働者の職業訓練を行っている場合には「人材開発支援助成金」も活用できる可能性があります。

人材開発支援助成金は、労働者の専門的な知識や技能の習得を目的に行われるキャリア形成の支援制度です。対象となるのは下記の8つのコースとなります。

  • 特定訓練コース 
  • 一般訓練コース 
  • 教育訓練休暇等付与コース 
  • 特別育成訓練コース 
  • 建設労働者認定訓練コース 
  • 建設労働者技能実習コース 
  • 障害者職業能力開発コース 
  • 人への投資コース

こちらは訓練計画書を作成後に管轄の労働局へ書類提出する必要があります。その後、訓練終了後に労働局で審査を行い、支給が決定される流れとなります。自社の人材育成で教育訓練を検討されている方は、ぜひ一度確認してみて下さい。


働き方改革関連法は労務管理が何より大切!

以上、働き方改革関連法の概要や施行スケジュール、改正のポイントや企業が対応すべきことなどを中心にご紹介しました。8つの法律改正が絡むため非常に複雑ですが、大切なことはしっかりとした労務管理を行うということです。

対応するためには時間やコストも掛かりますが、その分労働者も働きやすくなるため、モチベーション向上も期待できます。ぜひ、本記事を参考にしながら、従業員が働きやすい職場環境の構築に取り組んでみて下さい。

ヒトクル編集部
記事を書いた人
ヒトクル編集部

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