厳しい介護の現場で、社員のモチベーションを上げた「水の取り組み」とは?
社会福祉法人葉月会亀寿の郷 施設長
平野 仁さま
こんにちは、ヒトクル事務局です。
4人に1人が高齢者という超高齢化社会を迎えている日本で、直面している問題が介護スタッフの人材不足です。しかし労働に見合わない低賃金、人間関係で揉める職場環境などを理由に、介護職を辞めてしまう人はいまだに後を絶ちません。
そんな課題を抱える業界で、毎年3~4人が育児休業を取得し、女性職員の4人に1人が、3人以上の子育てをしているという特別養護老人ホームがあります。今日は別名「子宝の郷」とも呼ばれている、社会福祉法人葉月会 亀寿の郷(きじゅのさと)の施設長平野仁さんにお話を伺いました。
福利厚生の充実、1時間単位で利用できる有給休暇
~働きやすい環境づくりのために、行っている取り組みはなんでしょうか?
この施設は、平成6年に開設していますが就業規則、給与関係は社会福祉協議会に従って作っているので、待遇はもともと良い方だと思います。しかしそうはいっても、この業界は離職率も高く、厳しい世界。働きやすい環境づくりで、職員が定着する環境づくりを、積極的に行っています。
・契約社員の正社員登用
年齢・能力によって随時登用をしています。今年度は3人正社員に登用しました。
・福利厚生費の充実
3年前から以前は正社員だけだった福利厚生費を契約社員にも支給し、食事会や社員旅行をするようになりました。これによって、職員間の親睦が深まり、皆で助け合う風土が強くなったと思います。
・1時間単位で取得できる有給休暇
子供の学校行事のときなど気軽に取りやすいと好評です。また今は、育児だけでなく、介護やお孫さんの用事などで取得される方も多いですね。
・定年後も70歳まで働き続けられる制度
「水の取り組み」を通じて、職員の自信と意欲が向上
~モチベーションを上げる取り組みは?
4年前から「科学的な介護」を進めていくために始めた「水の取り組み」というものがあります。
高齢者は、水分をとるとトイレに行きたくなり、そのたびに人の手を借りなくてはいけないので、遠慮して水分補給をしない傾向にあります。
でも、ご存知の通り人の体は水分が60%、高齢者の方でも50%は水分です。
この水分補給を積極的に取るようにしたのが「水の取り組み」です。
具体的には、入所者が1日に1500ccの水分補給をするように働きかけました。もちろん、介護士は大変です。水分をとったら、その分トイレに行きたくなるので、そのたびに介添えが必要です。
その取り組みをしている最中に、インフルエンザが流行したので3か月間面会謝絶をしたことがありました。3か月後、久々に会った入所者のご家族の方が「顔色が良くなった」「以前より元気になった」と多数の方から声がありました。
これは、水分補給をすることによって脳が活性化したことが要因となっています。またもう一つの要因は、水分補給をすることでトイレに行くことが増え、歩くことが多くなります。車いすの方も、立ち上がることが多くなる。それによって、身体機能が向上したことです。
この取り組みによって、介護士が自分たちが行ったことがしっかり結果に結びついたことで、自信を持つようになりました。
また、この取り組みをするにあたり施設内で入浴委員会や給食・口腔改善委員会など8つの生活支援向上委員会を作りました。
他施設でも行っているこういった取り組みをマニュアル通りに進めるのではなく「当施設はどうしていくのか」を自分たちで考えて進めていってほしかったからです。
この委員会は5~6人でチームになっていますが、少人数のためみんなで意見を出して、勉強をしなくてはならない。傍観者のような気分ではいられないわけです。
そこで出た良い意見は、きちんと取り上げて施設内で共有しています。
この委員会は、正社員も契約社員も関係なく取り組んでもらっていますが、当初は反対の声もありました。しかし、今では自分が言った意見が施設全体を変えていくことができる、という仕事へのやりがいに繋がっているようです。
ゆりかごから墓場までの介護。どう人間と向き合うか、が大事。
~3月いっぱいで退職されるとのこと。平野さんが、今まで伝えてきたことは何でしょうか?
私がよく職員にあげている詩があります。これを読んで、いつも慈悲の心(母親が子供をいつくしむような心)でお年寄りを見るように伝えています。
相手は「モノ」ではなく「人間」なのです。いずれは、自分も同じように老いていく。そのことにきちんと向き合い、楽な方に流れずに自分の生きがいとして、介護を選んでくれる人が増えていってくれたら、と願っています。
スタッフの方に聞いてみました。
~どういうところが働きやすいですか?
八木理恵さん 社歴/16年2か月
私は、1人目の子供が2歳の時に入社したのですが、入社してすぐに2人目を出産。代理の職員を準備していただき、快く産休を取らさせていただきました。今では、4人の子供を育てながら働いています。
周りも同じ立場の主婦の方が多いので、お互い協力しあっています。この施設は、地域とのつながりを大事にしていて、利用者さんもリピーターさんが多く、期待もされています。そういったことも、働きやすさややりがいに繋がっています。
(取材日/2017年3月16日)
取材協力
社会福祉法人葉月会亀寿の郷
藤枝市岡部町内谷1334-4
事業内容/特別養護老人ホーム
HP/http://hadukikai.jp/kijyunosato/index.html
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