ポータブルスキルとは|主なスキル一覧や人事が着目するメリットを解説
わたしたちを取り巻く環境は日々刻々と変化を続けており、過去に重宝されてきた専門知識であっても、技術革新等によってその価値を失うおそれが生じています。
これからの人事を考えた際、どんな人材が自社に利益をもたらすのかを判断するためには、どのような職場においても重宝する能力「ポータブルスキル」がより重要になります。
この記事では、人事の現場で注目度が高まるポータブルスキルとは何か、主なスキル一覧・着目するメリットなどに触れつつ解説します。
ポータブルスキルとは?主なスキル一覧や人事が着目するメリットを解説
ポータブルスキルとは、特定の業種・職種に従事する人が持つ専門スキル以外で、業種・職種が変わっても持ち運びが可能な職務遂行上のスキルのことをいいます。
厚生労働省によると、ポータブルスキルは大きく「仕事のし方(課題スキル)」と「人との関わり方(対人スキル)」の2要素に分かれ、以下のように一覧で細分化されています。
仕事の探し方 | 現状の把握 | 取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析の仕方 |
課題の設定 | 事業、商品、組織、仕事の進め方などの取り組むべき課題の仕方 | |
計画の立案 | 担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方 | |
課題の遂行 | スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえでの障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方 | |
状況への対応 | 予期せぬ状況への対応や責任の取り方 | |
人との 関わり方 | 社内対応 | 経営層、上司、関係部署に対する納得感の高いコミュニケーションや支持の獲得の仕方 |
社外対応 | 顧客、社外パートナー等に対する納得感の高いコミュニケーションや利害調整・合意形成の仕方 | |
上司対応 | 上司への報告や課題に対する改善に関する意見の述べ方 | |
部下マネジメント | メンバーの動機づけや育成、持ち味を活かした業務の割り当ての仕方 |
※出典元:厚生労働省|ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)
これらの要素を具体的な能力に置き換えて考えると、以下のような能力がポータブルスキルに分類されるでしょう。
・リサーチ力
・課題発見力
・プランニング能力 など
ポータブルスキルは、ビジネスや現場の種類を問わず、すべての働く人に求められる「社会人基礎力」と言い換えることもできます。
過去には、人材サービス産業協議会が、職業紹介事業に従事するキャリアコンサルタントや営業担当者・管理職向けに「ポータブルスキル活用研修」を実施したこともあります。
ポータブルスキルを扱うポータブルスキル研修は、その後もビジネススキル研修の一種として、ビジネススクール等で講座が開かれています。
転職市場が活発化する日本において、高度なポータブルスキルを持つ人材は、どの企業でも引っ張りだこになる「優秀な人材」と言えるでしょう。
アンポータブルスキルとは
アンポータブルスキルとは、ポータブルスキルとは反対の意味合いで用いられ、他社に持ち運べないスキルが該当します。
例えば、経理業務に限らず「企業の数字」を理解する上で、簿記の概念を理解していることはポータブルスキルに当てはまるでしょう。
しかし、企業において経理業務をどう進めるべきかという「社内ルール」は、それぞれの企業によって違いますから、アンポータブルスキルとなります。
アンポータブルスキルは、一つの企業でキャリアを構築するには重要なスキル例かもしれません。
しかし、中長期的に転職も見据えてキャリアアップを目指すのであれば、アンポータブルスキルの習得だけにこだわらない方が賢明です。
ポータブルスキルの習得は早いうちに
ポータブルスキルは、アンポータブルスキルの習得も含め、複数の職場で応用できるスキルです。
よって、現在働いている職場を何らかの理由で離れることも想定しつつ、20代・30代前半など比較的若いうちに獲得しておきたいところです。
社会人になって早期にポータブルスキルを習得しておくと、その分だけ得た能力を活かせる機会が増えるため、キャリアアップにつながりやすくなります。
なぜポータブルスキルが重要なのか
多くの企業における採用活動のトレンドは、自社で末永く働いてくれる人材を発掘する方向から、自社の状況に応じてフレキシブルに必要な人材を獲得する方向へと変化しています。
続いては、人事・採用の観点から見て、なぜポータブルスキルを持つ人材が重要なのか解説します。
転職経験者が評価される時代になった
終身雇用・年功序列が幅を利かせていたかつての日本では、一つの職場で長年勤めあげることが美徳とされており、定年退職を想定したキャリア構築が一般的でした。
しかし、こういった「一昔前の制度」は失われつつあり、日本を代表する企業の一つ「トヨタ自動車」でさえ終身雇用の限界を訴えています。
その背景には、AIなどテクノロジーの急激な進化に伴い、新たなサービス・ビジネスモデルが登場していることなどがあげられます。
企業が生存戦略を見直すことを強いられているのと同時に、企業で働く従業員も、自ら身の振り方を決めることを強いられています。
企業に何かあったときのリスクを想定し、転職を経験することは、不確定な時代のビジネスパーソンには不可欠な要素です。
そして、企業が転職経験者を評価する指針として、どんな職場でも応用できるポータブルスキルに注目が集まっているのです。
ポータブルスキルを有する人材を採用すべき理由
ビジネスの世界において、活躍できるかどうかを判断する要素は、専門スキルばかりではありません。専門性が高い人材を多数抱えていても、経営戦略を達成できる行動に移せなければ意味がないからです。
ビジネスをどう進めるのが適切で、キーマンとどう関わってビジネスを成功させるのかを熟知していなければ、よい仕事にはつながりません。
また、円滑にアンポータブルスキルを習得する上でも、ポータブルスキルは役立ちます。
そのため、他の職場で習得したスキル以上に、どの職場でも応用できるポータブルスキルは重要なのです。
中途採用者にポータブルスキルがないとどうなる?
新しく中途採用者を迎え入れた際、もしその人材が自社で活躍するのに十分なポータブルスキルを持っていなかった場合、どのような結果が想定されるでしょうか。
以下、不十分なポータブルスキルを持つ人材を採用したケースと、自社で任せる職務に必要十分なポータブルスキルを持つ人材を採用したケースについて、比較しつつ解説します。
教育コストが大きくなる
仕事のし方・人との関わり方について十分なスキルを持たない中途採用者は、採用された自社でそれらを学ぶことになります。
すると、本来覚えて欲しい内容の仕事を任せる前に、ポータブルスキルから習得してもらうことになるため、その分教育コストが発生します。
しかし、すでに必要十分なレベルのポータブルスキルを備えた人材であれば、周囲と打ち解けるのも早くなり、本題にさっそく取り組むことができます。
結果的に、教育担当者の教育コストを減らすことができ、部署全体の負担も軽減されます。
ポイントを押さえた仕事ができない
プレゼンや会議における提案において、中途採用者の意見は、時折「新しい風」として期待されます。
しかし、単純に過去の経験だけをベースにした提案をしても、自社で応用できる内容ばかりとは限りません。
ポータブルスキルが十分でない人は、要領よく意見を伝えることに終始して、その「内容」の吟味には無頓着なことも珍しくありません。
これに対してポータブルスキルがある人は、プレゼン・会議における最重要課題にフォーカスして資料等を作成するため、新しい職場で受け入れられやすくなります。
モチベーションダウンのリスクがある
新しい職場で働き始めたスタッフは、最初こそ誰もが「この会社で早く戦力になりたい!」と強い思いを抱くはずです。
しかし、思うように活躍できない現実を目の当たりにした人の中には、希望を失って次の転職を考える人もいます。
ポータブルスキルが十分でない人は、ベースとなる能力の不足によって、割り切り・あきらめに至る確率が高くなります。
これに対してポータブルスキルがある人は、論理的に不調の原因を把握し、改善に結び付けるための努力を惜しみません。
具体的なポータブルスキル一覧
厚生労働省が提唱するポータブルスキルの要素は、そのまま理解しようとしても、採用活動に当てはめるのは難しいでしょう。
具体的なポータブルスキルは、以下の7つに大別されます。
ポータブルスキル | 概要 |
---|---|
リサーチ力 | 膨大な情報の中から、必要なものを選んで整理する能力 |
課題発見力 | 課題となるものを自らの環境から見つけ出し、その解決に結び付ける能力 |
プランニング能力 | 現状を踏まえて改善に向けた計画を立てる能力 |
実行力 | 課題解決に向けて具体的な行動を起こす能力 |
問題解決能力 | 業務中に発生した問題につき、適切に解決する能力 |
コミュニケーション力 | 社内外の人材と、円滑にコミュニケーションをとる能力 |
管理能力 | ヒト・モノ・カネを適切に管理(マネジメント)する能力 |
以下、上記スキルについて詳しく解説します。
リサーチ力
職場では、たくさんある情報の中から、業務遂行に必要な情報を拾い集めることが求められます。
例えば、職場でクラウド会計ソフトを導入しようと考えた際、まずはどんなソフトがあるのか調べることになります。
その際、自社で採用する基準を設けた上でリサーチしなければ、どのソフトが自社にフィットするのかを判別することはできません。
この「基準」を設ける力がリサーチ力であり、あらゆる職場で求められる能力の一つですから、応募書類や面接でチェックすることが大切です。
課題発見力
より良い仕事を実現するためには、現状を把握した上でいったん立ち止まり、現職で何か解決すべき課題はないか考える感性が必要です。
人間関係の複雑さに起因する課題など、自分の努力だけでは100%解決に至らない可能性のあるものもありますが、少なくとも自分の職域で解決すべき課題がゼロということはありません。
営業担当者であれば、成績が出ていない同僚の分も稼ぐ方法はないか考えるなど、視野を広げて課題を発見できる能力は企業にとって貴重なものです。
プランニング能力
課題を発見した後、その課題を解決するためには、筋道を立てて考える必要があります。
そこで重要なのがプランニング能力で、課題解決に向けた計画を立て、結果を評価して次につなげるサイクルを構築できれば、課題解決へのルートを具体的にイメージできるでしょう。
事業計画に沿って、課題解決を遂行する上でも、人事担当者は応募者のプランニング能力を確認する必要があります。
面接の際は、PDCAサイクルなどのフレームワークを使って応募者の経歴と実績を洗い出しつつ、プランニングの観点から疑問点をまとめましょう。
実行力
実行力とは、実際に課題解決を進める際、より効率的・効果的に作業を進める能力のことです。
業務効率化につながるツールの導入・開発や、業種や職種に限らず作業コスト分析などを進められる人材は、どのセクションでも重宝されます。
採用の現場においては、職務経歴書の実績などを確認して、必要な能力があるかどうか判断することになるでしょう。
問題解決能力
ある計画を立てた後、計画通りに物事が進むケースは少なく、計画実行にあたっては何らかのイレギュラーを想定しなければなりません。
問題解決能力があれば、想定外のトラブル発生につき、早急に原因を分析して最善の対処をすることができます。
一つの問題解決方法・原因の把握に固執せず、問題の深部を掘り起こす力があるかどうか、採用担当者は応募者を判別できるような質問事項を用意しておきましょう。
コミュニケーション力
個人事業主など、基本的に問題を一人で解決しなければならない一部のケースを除いては、周囲との連携が重要です。
素直に協力を仰げる人格や、周囲と歩みをそろえて行動できる協調性も含め、コミュニケーション力は信頼関係の醸成に不可欠と言えます。
採用担当者の立場から、コミュニケーション力をチェックするのであれば、面接時のやり取りで以下のポイントを確認するのがよいでしょう。
・意思伝達に問題はないか(言いたいことがきちんと面接官に伝わっているか)
・論理的に説明できるか(筋の通った説明ができているか)
・好感が持てる人物か(話していて不快に感じる部分がないか)
・調和性があるか(面接官とのやり取りをさえぎるようなコミュニケーションをとっていないか) など
管理能力
どの部署においても、職場で経験を積んだ先には、ヒト・モノ・カネのマネジメントに携わる機会が与えられます。
特に、人材配置や教育の最適化が実現できている部署は、そうでない部署に比べて生産性にも違いが見られます。
採用担当者が管理能力を確認する上で重要なのは、職務経歴書に記載されているマネジメント経験です。
単純に役職に就いていたかどうかだけを確認するのではなく、どれくらいの規模感の職場で、どのような実績をあげたのか、定量化されている情報をチェックするようにしましょう。
ポータブルスキルを構成する3つの能力
ここまで具体的なポータブルスキルを紹介しましたが、それらのポータブルスキルは主に「思考力」「課題解決力」「対人力」の3つの能力で構成されています。
3つの能力がどのような能力を指しているのか、わかりやすく解説します。
思考力
「思考力」は「論理的思考力」とも言え、自らの頭で物事を論理的に考えられるスキルです。思考力があると、業務上の課題解決にはもちろん、対人関係においても円滑なコミュニケーションに役立ちます。
例えば課題解決に必要な情報を取捨選択するのにも、相手の気持ちを想像しながらコミュニケーションを取るのにも、自分で考える力が求められます。
思考力はさまざまなスキルの土台となるため、ポータブルスキルの中でも特に重要なスキルと言えるでしょう。
また、十分なポータブルスキルを持つ人材は、思考力が高い人材であるとも言えます。
課題解決力
「課題解決力」は、課題となるものを発見し、現状を踏まえた計画を立て、適切に課題を解決できる能力を表します。
どのようなビジネスにおいても、よい仕事をするために課題を見つけることは重要です。また、業務上さまざまな問題が発生する可能性は常にあるものです。
自ら課題を見つけて解決に導ける能力は、企業の業種・規模を問わず重宝します。
対人力
「対人力」は、社内外の人材とのコミュニケーションや、部下のマネジメントを円滑に行える能力です。
ビジネスにおいては、他者との関わりが必要となる場面も多いものです。
対人力があると周囲の人を上手く巻き込めるため、業務をスムーズに進行できたり、一人ではできない仕事を成し遂げられたりします。
対人力は、社内対応・社外対応・部下マネジメントの3つの能力に分類できます。具体的に必要なスキルはそれぞれ異なり、相手に合った調整力が必要となります。
ポータブルスキルに着目するメリット
応募者のポータブルスキルに着目した採用を行うと、企業や部署にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。以下、主なメリットをご紹介します。
「本当に欲しい人材」の採用
採用活動では、ピンポイントで求める人材を採用するのが難しい傾向にあります。
詳細な採用ペルソナを構築しても、ドンピシャの人材が自社に応募してくれるとは限らず、ある程度は許容範囲を設けて人材を採用することも想定しなければなりません。
しかし、ポータブルスキルを持つ人材を獲得できれば、採用時点で即戦力に必要な実務スキルを備えていなかったとしても、将来的に化ける可能性は十分あります。
自社の事情を呑み込みつつ、成長を続けられる人材なら、やがては企業の「本当に欲しい人材」に成長してくれることでしょう。
教育の効率化
ポータブルスキルを持つ人材は、そうでない人材に比べて、社内教育に発生するコストが少ない傾向にあります。
新卒者と中途採用者を比較すると分かりやすいですが、中途採用者には基本的なビジネスマナーを教える必要がありませんから、その分カリキュラムを圧縮することが可能です。
ポータブルスキルも同様で、すでに企業側で必要なレベルを修めている人材は、そのスキルに関する教育を短縮できます。
強みを活かした配置の実現
一口にポータブルスキルといっても、得意・不得意は誰でも持っているものです。
ポータブルスキルに着目して人材を採用すると、その得意・不得意の可視化がしやすくなり、結果として人材の強みを活かした配置の実現につながります。
例えば、人事異動・人材評価の観点から、ポータブルスキルの習熟度に着目することもできるでしょう。
まとめ
ポータブルスキルに着目して人材を採用することは、転職市場の活況に伴い、多くの企業にとって重要なポイントになります。
どんなに前職で優秀であったとしても、同じパフォーマンスを自社で発揮してくれるとは限りませんから、できるだけ採用段階で可視化できるポイントに絞った採用活動を行うことが大切です。
応募段階で、欲しい人材をできるだけ多く集めたいのであれば、中小企業向け採用サービス「ワガシャ de DOMO」の利用が効果的です。
導入された企業の中には、2ヶ月半で20人以上の応募者を集めたケースもありますから、応募者増にお悩みの企業担当者様はぜひご検討ください。
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