リスキリングとは?意味や導入事例、リカレント教育との違いについて解説

リスキリングとは?意味や導入事例、リカレント教育との違いについて解説
目次

リスキリングとは「スキルを学び直す」という意味の言葉です。DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進しようとしている企業に「最も頭の痛い課題は何か」と尋ねたら、多くの日本企業が「人材不足」と答えるでしょう。

特に中小企業の場合は人材不足が深刻です。リスキリングはDX人材の不足を補うための新しい人材戦略なのです。

本記事ではリスキリングの意味や導入事例、他の人材育成手法との違いについて解説します。



リスキリングとは?

リスキリングとは、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを習得させる人材戦略を意味します。

リスキリングの語源は英語の「Re-Skilling」で、直訳すると「スキルを学び直す」といった意味です。

経済産業省はリスキリングを以下のように定義しています。

「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」

「獲得する/させる」と併記されているのは、学ぶ側と学ばせる側の両方の視点が入っているからです。今までは人材育成というとそれを実施する企業側の視点が主でしたが、やはり社員が自分から積極的に学ぶ姿勢がなければ身になりません。よって、あえて併記する形となっています。

また、日本政府は現在進行形で日本企業におけるリスキリングに力を入れています。岸田総理大臣は2022年5月5日にロンドン・シティで行った講演において以下のように述べています。

「政府として、既に3年4,000億円のパッケージを導入していますが、今後更に教育訓練投資を強化して、人的資本の蓄積を推進することで、労働移動、雇用流動化を積極的に支援していきます。特に兼業・副業の推進とともに、リスキリングに力を入れます。 
今後はDXと同じようにリスキリングも日本企業の間で推進されるようになるでしょう。

【参考】ギルドホールにおける岸田総理基調講演/首相官邸


リスキリングが注目されている理由・背景

日本国内でリスキリングが注目されている理由には、いくつかの背景があります。なぜ今学び直しが求められているのかを認識しておきましょう。


DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進

リスキリングが注目されている大きな理由に、国策としてのDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進が挙げられます。DXとは、デジタル技術によって生活をよりよい方向に変化させることです。

企業がDXを推進するには、デジタルに詳しい人材やDXを牽引できる人材が求められます。しかし、中小企業を中心とした多くの日本企業では、そのような人材が足りていない場合があります。

また、今後はデジタル技術の革新によって一部の職種が人材余剰となり、その反面デジタル人材はさらに不足する可能性もあります。

そこで、自社の人材が新しい業務に対応できるようになるためのDX教育として、リスキリングが注目されています。


リスキリングに関する宣言の発表

2020年の「世界経済フォーラム年次大会(ダボス会議)」では、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言されました。

また、今後について「第4次産業革命により、数年で8000万件の仕事が消失する一方で9700万件の新たな仕事が生まれる」との予測もされています。第4次産業革命とは、AIやIoT、ビッグデータの活用によってもたらされる産業革命のことです。

このような宣言を受け、リスキリングは日本に限らず世界的に注目されています。

※参照:リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流(経済産業省)


少子高齢化による人材不足

国内外で注目されているリスキリングですが、特に日本では少子高齢化による労働人口の減少もリスキリングが求められる要因となっています。

将来の人手不足への対策として、内部人材の学び直しによる中長期的な人材確保が挙げられます。

また、リスキリングによって社内のDX化が推進されると、リモートワークのような柔軟な働き方にも対応できるようになります。従業員が働きやすい環境を整えることによって、より人材を確保しやすくなるでしょう。


リスキリングとリカレント教育、アンラーニング、生涯学習との違い

リスキリングと似た言葉にリカレント教育、アンラーニング、生涯学習があります。しかし、これらは全く別の言葉です。このセクションではリスキリングと3つの言葉の違いについて解説します。


リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングは現在就業している職業に必要性のあるスキルや知識が変わった場合に、新しい知識やスキルを学習していくことを指します。

一方で、リカレント教育は基本的には離職が前提であり、一時的に職を離れて大学などでスキルや知識を学習することを指します。「リカレント」とは「循環する」という意味です。「働く→学ぶ→働く→学ぶ」のように働くフェーズと学ぶフェーズを繰り返すのが特徴です。この点において、就業しながら同時に学習していくリスキリングとは異なります。


リスキリングとアンラーニングの違い

アンラーニングとは「un-learning」と書き、直訳すると「学習棄却」となります。その名の通り、古くなった知識やスキルを捨て、新しく学び直すという意味です。

棄却という言葉が示すように「不要になった知識やスキルを忘れる」というニュアンスが強く、既存の知識を土台として新しい知識を再構築するリスキリングとは少し異なります。


リスキリングと生涯学習の違い

生涯学習とは生涯にわたって知識やスキルを獲得していく活動全般を指します。しかし、生涯学習という言葉は日常生活において個人で自発的に行う学習というニュアンスが強いです。リスキリングはあくまでも仕事に必要性の高いスキルや知識について、企業と社員の関係性の中で行う学習なのでその点は異なります。


リスキリングに対するよくある誤解

リスキリングは最近注目されてきた概念なので一部で誤解をしている人も多いようです。ここではリスキリングに対するよくある誤解について、「デジタル時代の人材政策に関する検討会」のレポートを参考にご紹介いたします。

※デジタル時代の人材政策に関する検討会
リクルートワークス研究所 石原直子氏の内容(要約)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf


リスキリングは一部のデジタル人材の問題だ

これは正しくありません。リスキリングは一部の人の問題でもないし、デジタル人材だけの問題でもないのです。

このような誤解はリスキリングがDX人材の育成という触れ込みで伝わっているため起こるのだと考えられます。確かにリスキリングはDXの人材育成に関する教育手法です。

しかし、DX自体は一部のデジタル人材だけに関係するわけではなく、全ての企業人に関係します。なぜなら、DXは企業の価値創造の全てのプロセスを変革する試みだからです。

日本の企業に勤めている人でDXが関係ない人はいません。よって、リスキリングも全ての人を対象としていると考えるべきです。


DXの時代においても、デジタルスキルよりソフトスキルの方が重要だ

確かにDXの時代においてもこれらのソフトスキルは重要でしょう。しかし、それはDX教育をやらなくていい理由にはなりません。検討会のレポートでは、下記のように提言がなされています。

もちろん、ソフトスキルはDXの時代かどうかに関わらず重要。だが、「ソフトスキルの方が重要」と言っているのは「デジタルを理解しない」「デジタルの詳細がわかっていない」ことからの「逃げ」の可能性がないか考えるべき。ソフトスキルだけが高くても、デジタル技術を実際に扱えなければ、生み出せる価値は限定的?


リスキリングを導入するメリット

リスキリングの導入にはどのようなメリットがあるのでしょうか。主に以下の4つが考えられます。


生産性の向上

これはリスキリングのメリットでありDXの推進のメリットでもあります。DXの最も大きなメリットは生産性の向上です。ITツールが使いこなせるのと、全くITの知識がないのとでは生産性が全く違います。

例えばデジタル化の中には定型的な単純作業のような業務を自動化するRPAという施策があります。これを使えるか使えないかによって生産性は全く変わってきます。なぜなら、使えない場合は人間がやらないといけないからです。

定型的な単純業務は人間よりも機械のほうが圧倒的に向いています。機械はミス無く一定の品質の作業を疲れずに24時間実行し続けられるからです。

また、近年急速に拡大したテレワークはITツールの導入と利用が必須です。自宅から会社のメンバーと情報共有するには従来のメールや電話などの手段では不十分だからです。デジタル化ができていない企業にテレワークはできません。


自社メンバーのスキル向上

多くの企業はDXの推進をIT企業に外注しています。しかし外注ではコミュニケーションコストもかかりますし、社内に全く詳しい人がいない場合は、その手法が正しいのかどうかもわからず、業者の言いなりになってしまいます。したがって、DXを推進するには社内の人材育成もしなければなりません。

リスキリングによって社内の人材育成をすれば、少なくとも委託する業者の妥当性は判断できるでしょう。そのままリスキリングを続けて社員のスキルがアップすれば、社内の人材だけでDX推進ができるようになります。内製化したほうがノウハウも蓄積されますし、迅速な改革や意思決定が可能になります。


会社の成長性の向上

社員のスキルが現代の需要に適応できれば、そこから新しいビジネスが生まれることもありえます。市場環境の変化に応じてリスキリングを繰り返すことに慣れれば、変化に強い会社となり、事業の持続可能性が高まるでしょう。

現代はVUCAの時代などと言われます。VUCAとはVolatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字を取った言葉です。「現代は変化が激しく、リスクが高く曖昧である」といった意味です。

昭和の時代は「この道一筋30年」といった言葉が成り立ちましたが、令和の時代ではそれは難しくなっています。いま花形のように扱われている職業が10年後には全く需要が無くなっているといった事態が起こりえるのです。

リスキリングを通して変化の激しい時代に対応するスキルを身につければ、社員個人としてもそれを抱える企業としても強力な武器となるに違いありません。


社員の自律性の向上

リスキリングは社員のマインドを変化させるメリットもあります。総務省が発表した「平成28年社会生活基本調査」によると、日本人の労働者が学習・自己啓発・訓練に割いている時間は平均で6分という結果が出ています。

これは全員が6分ずつ勉強しているというわけではなく、大部分の人の学習時間はゼロであり、まとまった学習時間を取っている人が少ないためこのような数値が出ているのです。日本の労働者は勉強する人が少ないということが言えるでしょう。

つまり、社員にリスキリングを導入できれば、それだけで他社を引き離せる可能性があるのです。今まで全く勉強しなかった社員がリスキリングによって勉強について意識し、自発的に勉強をし始める可能性が高まるからです。日本の一般的な社員は大多数が勉強していないのですから、自社の社員が通勤時に学習を始めるだけでも大きく差が付くでしょう。

※【参考】平成 28年社会生活基本調査/総務省


リスキリングの導入ステップ

リスキリングと言っても何から始めたら良いのかわからない企業は多いでしょう。特に中小企業はノウハウも人的資源も限りがあり、苦労していると思います。そこで、ここではリスキリングの導入方法を5段階の手順に沿って解説します。


1.習得するスキルを決める

まず、どんなスキルを習得すべきか決めます。事業領域や職種に応じて習得すべきスキルは異なるからです。リスキリングを行うには従業員が現在どのようなスキルを持っているのか、そして今後どのようなスキルが必要になるのかを可視化し、スキルのギャップを把握しなければなりません。そのためにスキルマップやスキルデータベースの作成をおすすめします。

流行っているスキルというだけで選んだり、習得する本人の希望だけで選んだりするのはおすすめしません。会社の業績や業界全体のデータを分析した上で、どんな人材の必要性が高いのかを考え、現状の社員本人のスキルも考慮した上で決定しましょう。


2.リスキリングの方法を決める

どのような方法でリスキリングを実施するか、プログラムと教材を決めます。教材は自社で作る場合もあれば、外部のコンテンツを利用する場合もあります。

例えばブログやYouTubeなどのWebメディアの中にはかなり網羅的にスキルについて発信しているサイトが存在します。そのような無料で閲覧できるコンテンツを活用するのも一つの手段ですが、発信に際してファクトチェックがなされているのか、内容にエビデンスはあるのかを確認した上で利用しましょう。

無料コンテンツの発行元が信頼できないならば、コストはかかりますが、書籍などの有料の媒体を使ったほうが良いでしょう。

【関連記事】リスキリングとは?リスキリングが注目される背景と主なリスキリングサービス10選を解説 - Utilly(ユーティリー)


3.社内の理解の促進

リスキリングの方法を決めたら、社内にアナウンスし、実施にうつります。しかし、その際に新たな知識の習得に心理的抵抗を覚える社員が必ず存在するものです。実施に移る前に、そのような抵抗感ある社員を説得し、理解してもらう必要があります。

確かに会社としてのリスキリングの必要性やメリットを強調するのも大事です。しかし、社員個人のキャリア観や考え方もよく聞いて、個人としての新しい可能性も提供できることも時間をかけて説明しましょう。


4.リスキリングを実施する

プログラムと教材が決まったら取り組んでいきましょう。ただし、どの時間に実施するかは慎重に考える必要があります。

例えば、就業時間外に実施のノルマを課すのは著しくモチベーションを下げるため避けたほうがよいでしょう。リスキリングは社員自身が納得し、自発的に学習しなければあまり効果が上がりません。

就業時間内の一定の時間を学習に充てるようにすれば、賃金をもらいながらスキルを高められるので、社員も前向きに捉えるようになります。決める際には社員に納得したうえで臨んでもらうために、社員の意見を十分に聞いた上で決めましょう。


5.習得したスキルを活用する

いくら新しいスキルを習得しても、活用する場がなくては意味がありません。例えばDXのスキルを習得したのに経営陣がDXをやる気がないといった事態になると、宝の持ち腐れになってしまいます。

リスキリングが完了したら、しっかりと予算と人員を割いてスキルを活かす場を作りましょう。


リスキリング導入時の注意点

実際にリスキリングに取り組むのは従業員であり、企業側がただ導入するだけではうまくいかない場合もあります。そこで、リスキリングを成功させるために意識しておきたい注意点を紹介します。


社員が自主的に取り組める環境を整備する

リスキリングの成功には、スキルを定着させるための社員の自主性が欠かせません。

学習へのモチベーションを維持してもらうために、リスキリング実施前の社内での説明も含め、導入後に社員が取り組みやすい環境の整備に努めましょう。

企業側が用意できる仕組みには、以下のような例があります。

・リスキリングによるインセンティブを用意する
・同じ学習をしている従業員同士の社内コミュニティを用意する
・業務の状況に合わせて柔軟に学習のタイミングを調整できるようにする

社員のモチベーションが下がりやすい要因を仕組みからカバーすることで、自主性を大切にしながら学習をサポートできます。


自社に合ったリスキリングを導入する

たとえ社員に意欲があり、良質なプログラムを通してスキルを習得できたとしても、自社に合っていないスキルであれば活用できません。

リスキリングの効果を得るためには、社内の状況や今後の課題に合った、必要なスキルを見極めることが重要です。
また、そのスキルがなぜ必要なのか、理由もあわせて社員に説明しましょう。リスキリングを行う社員が周囲からの理解を得られ、スムーズに取り組めるようになります。


リスキリングの導入事例

リスキリングを導入したという企業のプレスリリースが流れてくるケースが多くなってきました。ここではリスキリングの導入事例を3件ご紹介します。


キヤノン株式会社の事例

キヤノン株式会社は2021年の経営方針説明会において、非デジタル人材にDX教育を実施する方針を打ち出しました。キヤノンはもともと光学機器や事務機器などのハードウェアに強い会社でしたが、これらの市場が縮小傾向にあるため、デジタル領域の社員を増員し、成長分野に注力する意向を示しています。


JFEスチール株式会社の事例

JFEスチール株式会社は2024年度末までに600人のデータサイエンティストを社内で育成する方針を打ち出しています。DXの本質はデータの蓄積と活用にあるため、データを扱える人材を強化する方針です。

同社では従業員がもともと持っているリテラシーに差があることに注目し、現状のレベルに応じた4段階のリスキリングプログラムを策定しました。

この試みは2018年から始まった物ですが、2020年度末までにすでに350人のデータサイエンティストを輩出するなど、目覚ましい成果を上げています。


ヤマトホールディングス株式会社の事例

ヤマトホールディングス株式会社は、2021年にデジタル人材の育成を目的としたデジタル教育プログラム「Yamato Digital Academy(YDA)」をスタートしました。

社員のデジタルリテラシーを底上げするために、全社員向け・経営層向け・DX育成と3つの階層ごとにプログラムを用意しています。3年でグループ社員1,000名規模の受講が予定されており、全社を挙げたデータ・ドリブン経営の実現を目指しています。


まとめ

DX推進において多くの企業が抱えている課題は人材の不足です。ITやデジタル化の知識を持つ人材は少ないため、自社で育てる必要が出てきました。

そのための人材戦略として注目されているのがリスキリングです。新しい時代のスキルに対応することは社員個人にとっても企業にとってもメリットがあるので、ぜひ導入を検討してみてください。


ヒトクル編集部
記事を書いた人
ヒトクル編集部

「ヒトクル」は、株式会社アルバイトタイムスが運営する採用担当者のためのお役立ちサイトです。

「良いヒトがくる」をテーマに、人材採用にかかわる方々のヒントになる情報をお届けするメディアです。「採用ノウハウ」「教育・定着」「法務・経営」に関する記事を日々発信しております。各種お役立ち資料を無料でダウンロ―ドできます。

アルバイトタイムス:https://www.atimes.co.jp/