オンボーディングのやり方を6つのステップで解説!具体的な成功事例もご紹介
「採用人数を増やしても、すぐに人が辞めてしまう」
「良い人材を採用したのに、いまいち活躍していない」
経営者や人事担当をしている方なら、一度はこのような悩みを経験したことのある人も多いでしょう。採用をしても、すぐに社員が辞めてしまったり、入社時に期待していた活躍をしないのはなぜでしょうか?それは「会社の雰囲気に馴染めていない」からかもしれません。
本記事では、新入社員の離職を防止し、持っている力を発揮して活躍する人材を育成する「オンボーディング」について解説しています。
社員の生産性に課題をもつ経営者、人事・採用担当者の方はぜひ参考にしていただければ幸いです。
オンボーディングとは?
オンボーディングは、社員の離職防止に効果のあるプログラムですが、具体的にどのようなものでしょうか。まずは、オンボーディングの意味や概要を理解していきましょう。
社員が組織に馴染むための教育プログラム
オンボーディングとは、一言でいうと「社員にいち早く組織に馴染み、即戦力として活躍してもらうための教育プログラム」です。
「オンボーディング(on-boarding)」の語源は「船や飛行機に乗っている」という意味の「オンボード(on-board)」から生まれた言葉。
本来は、飛行機や船の乗組員に対していち早く即戦力になるためにサポートを行うと言う意味です。
それがいつしか人事用語として定着し始め、新入社員の離職防止や即戦力化にするための教育プログラムを指す言葉になりました。
従業員が組織に馴染めないために、期待されたパフォーマンスを発揮できないのは、会社としても大きな損害であり改善すべき課題です。
そこで、オンボーディングを継続的にしていくことで、企業にとっても効果的な施策になるでしょう。
新人研修との違い
オンボーディングとよく混合されがちなのが「新人研修」です。新人研修は、新卒社員や中途採用者に対して行われる研修のことです。研修内容としては、会社の企業理念や配属部署の業務内容を習得してもらいます。また、新人研修は数日間から長くても数週間であることが多く、短期間で修了してしまうものがほとんどです。
一方でオンボーディングは、新規採用した社員だけに「馴染んでもらう」のではなく、既存の社員も対象にアプローチしていきます。
また、オンボーディングの実施期間は、1ヶ月から1年にわたるものが多く、新人研修よりもスパンが長いのが特徴です。
このように、新人研修とオンボーディングは似ているようで全く異なる目的であることを理解しておきましょう。
顧客におけるオンボーディング
オンボーディングは多くの場合、新入社員を対象とした言葉ですが顧客に対するオンボーディングも存在します。
顧客におけるオンボーディングでは、企業が提供する商品やサービスに慣れ、使いこなせるようになるまで支援するプログラムです。
顧客が継続的に自社の商品を利用してもらう為には、オンボーディングは欠かせません。
今回は、新入社員に対してのオンボーディングがメインになるので、詳しくは解説しませんが、顧客対応にも用いられる用語であることを理解しておきましょう。
オンボーディングが日本でも注目されている背景
近年、オンボーディング施策の重要性が注目されている理由の一つは、一向に減少しない早期離職率の高さです。
厚生労働省が2020年10月発表した「新規学卒就職者の離職状況」によると、2017年3月に大学を卒業した新入社員の3年以内の早期離職率は平均32.8%(前年比+0.8%)でした。また、高校を卒業した人の早期離職率は平均39.58%(前年比+0.3%)です。
このように3年以内の早期離職者は、3割〜4割近くを推移しています。
※『厚生労働省:新規学卒就職者の離職状況(平成 29 年3月卒業者の状況)』
注目されている理由の二つ目は、日本の生産性の低さです。
人口減少時代において企業が成長するためには、一人当たりの労働生産性を上げることが不可欠です。
ただ、日本の生産性はOECD加盟国の中でも決して高い方ではありません。
OECD加盟35カ国の中では日本は21位にあたり、米国を始めとするG7各国の中では最下位となっています。
※総務省|平成30年版 情報通信白書|生産性向上の必要性
「早期離職の防止」および「生産性の向上」この二つを背景に
新入社員が早期に会社に馴染み、自分の能力を発揮して会社に貢献できるように育成する「オンボーディング」が注目されています。
オンボーディングを導入する4つのメリット
オンボーディングを導入すると、新入社員だけでなく企業側にもメリットがあります。ここでは、企業視点からオンボーディングのメリットについて解説していきましょう。
人材採用にかかるコストの削減につながる
リクルートが行った調査によると、2019年度に実施された新卒採用者における平均採用コストは、一人当たり93.6万円でした。
また、中途採用の平均採用コストは一人当たり103.3万円です。
参考:『就職白書2020(株式会社リクルート:就職みらい研究所)』
これだけのコストをかけて採用しても、早期離職をしてしまうことで費用が無駄になってしまいます。
しかし、オンボーディングを行うことで、人材採用にかかるコストを削減し離職率を低下させることができるのです。
他部署とコミュニケーションがとりやすくなる
多くの企業では、直属の上司や教育担当者だけに新入社員を任せてしまっていることも少なくないでしょう。
オンボーディングは、教育担当者だけでなく企業全体で新入社員をサポートするのが目的です。
そのため、他部署とのコミュニケーションが取りやすくさまざまな人間関係を構築する機会が増えます。
新入社員が、一人で悩みを抱えることなく相談しやすい環境を企業側が作りあげることで、早期離職を防止できるのです。
中途社員が早期に会社に貢献する
中途採用の社員は、ある程度のスキルを持っているため企業にとっては、非常にメリットがあります。
しかし、企業文化や会社の雰囲気に馴染めないことで、スキルを活かせない中途採用者も多いのが現実です。
オンボーディングは、こうした中途社員を早期に戦力化することで、会社にとって大きな利益をもたらします。
また、中途社員にとっても早期に自分のスキルを認められることで、会社にも愛着が沸き離職防止にも繋がります。
組織体制が改善され風通しの良い会社になる
オンボーディングは、古くからの組織体制を改善し風通しの良い会を作るためのきっかけになります。
例えば、年功序列の体制が強い企業では年齢が上もしくは、勤続年数が長い人の意見が採用されやすく若い人や新入社員の意見が反映されにくい組織体制であるとします。
こうした、組織体制は意見が偏りやすく社員のエンゲージメントも低下してしまうでしょう。
社員のエンゲージメントとは、従業員の企業に対する信頼度や貢献意欲を示します。
オンボーディングは、こうした企業の足枷となっている悪い組織体制を改善し、風通しの良い会社へと導いてくれます。
※【エンゲージメント】注目される背景や高めるメリット・施策について
オンボーディングを導入する際の注意点
オンボーディングを導入する際の注意点について解説していきましょう。
施策・実施までに時間がかかる
オンボーディングを成功させるためには、入念な計画とコンテンツ作成が重要です。
そのためには、時間やコストもかかるでしょう。
特に人事担当者であれば、プログラムやコンテンツ作成などの業務が発生します。
また、実施しても課題や改善点が出てきて新たな見直しが必要になってきます。
オンボーディング導入当初は、ある程度のコストと時間がかかることを把握しておきましょう。
社員全員に認知してもらう必要がある
オンボーディングは、新入社員だけでなく既存の社員にも協力してもらわなければ成り立ちません。
既存社員がオンボーディングの目的やメリットを理解していなければ、主業務がある中でわざわざ時間を割いて意欲的に取り組むことは難しいでしょう。
そのため既存社員に対してオンボーディングのメリットや有効性を訴求する必要があります。
教育担当者によって育成制度にバラつきがある
オンボーディングは、社内で一貫したマニュアルを共有し行えることがメリットです。
しかし、教育担当者によってサポートにばらつきが出てしまう場合があります。
こうした課題は、マニュアルの改善や見直しを検討しましょう。
また、新入社員と教育担当者との相性に問題がある場合は、配置換えや複数人でのサポートに切り替えるなどの対応も必要です。
オンボーディングを行う6つのプロセスを解説
オンボーディングを導入するには、主に6つのプロセスに分けて考えます。
ここでは、オンボーディングを行う際のプロセスについて見ていきましょう。
1.目標設定
オンボーディングを行う前にまずは、目標の設定を行いましょう。具体的には、以下のように目標設定を行います。
● いつまでに
● どのようなスキルを
● 誰に対して行うのか
オンボーディングは、直接利益に関係のない業務なので、つい先延ばしにしてしまう企業も多いです。明確な目標を設定することで、早期の実施を目指しましょう。
2.課題・問題点を洗い出す
目標が決まったら次は、企業が抱えている課題・問題点を洗い出します。例えば、既存の社員に業務上や職場内で困っていることを聞き取り調査します。
ここでポイントなのが、できるだけ「若手の社員の意見を吸い上げること」です。オンボーディングは、早期離職を防止して企業への定着率を向上させることが目的になります。
そのためには、新入社員の感覚に近い勤続年数の浅い若手社員の意見が大切です。また、人事担当者が考える課題と現場が思う課題は、必ずしも一致するとは限りません。
まずは、現場での声に耳を傾けることで、より意義のあるプログラムやコンテンツを作成できるでしょう。
3.社内環境の整備
オンボーディングを実行するには、社内での情報共有やコミュニュケーションが必要不可欠です。スムーズな情報共有を行うためには、共有・伝達ツールをあらかじめ整備しておきましょう。
また、オンボーディングに有効な施策として、1on1(ワンオンワン)やメンター制度などが挙げられます。
1on1(ワンオンワン)とは、上司が部下の成長支援を行う個人面談のことです。メンター制度とは、経験豊富な知識を有した社内の先輩(メンター)が、後輩(メンティー)に対して行う支援活動のことです。
こうした制度を社内環境においてあらかじめ整備しておくことで、オンボーディングも実施しやすくなるでしょう。
4.プログラムの提案・作成
オンボーディングプログラムは、長期的に継続して行う必要があるので作成する際には長期的なスパンを考えた目標設定が必要です。
例えば、入社から1ヶ月後、3ヶ月後、半年後といったように段階ごとに区切ってプログラムを実施していきましょう。
また、作成する際には企業で抱えている課題や問題を参考に、新入社員が職場に早く馴染めるような提案も盛り込むことが大切です。
5.オンボーディングの実施
オンボーディングのプログラムが完成したら、人事担当者や教育担当者だけでなく実行するメンバー全員にプログラムを共有します。
始めのうちは、計画通りに実行できないことや、効果を感じられないこともあるでしょう。しかし、オンボーディングは長期的な目線で行うものです。
継続的に実行していくことで、効果は着実に現れるでしょう。
6.振り返り・プランの見直し
オンボーディングを実施していく中で、見えてくる課題や改善点が出てきます。それらを振り返り、見直して改善していくこともオンボーディングを成功させる鍵です。
あらかじめ、振り返るタイミングを決めておき、新入社員と教育担当者、双方の意見をまとめます。
良かった点や改善点を積極的にフィードバックしていくことで、プランのアップデートができるでしょう。
オンボーディングの成功事例5選
3ヶ月で営業の即戦力に!「サイボウズ株式会社」
企業向けのソフトウェアを開発・販売している「サイボウズ株式会社」は、ここ数年で社員数が急増しています。
特に、営業部には中途社員が入社しており、持っているスキルや性格も多種多様です。
IT企業でありながら営業部に従事する社員の約60%の社員は、非IT企業出身者です。そんな、異業種からの転職者にいち早く職場に慣れてもらうため、オンボーディングを実施しています。
入社後3ヶ月間行われる「オンボーディング研修」では、3ヶ月後に営業の提案独り立ちを目標に製品理解や提案パターンを習得し、スキルを高めます。
その他にも、新入社員だけでなく全社員を対象にした「サイボウズアカデミア」と呼ばれる社員の学びを支援するプラットフォームがあります。
サイボウズ株式会社では、3ヶ月で営業の即戦力と慣れるようなオンボーディングが魅力です。
教育担当者は全社員「日本オラクル株式会社」
毎年100人規模で、中途採用者を受け入れている「日本オラクル株式会社」は「社員のエンゲージメント率向上」を重要視している会社です。
2016年1月には『従業員エンゲージメント室』を立ち上げ、その一環としてオンボーディングにも取り組んでいます。中途入社社員に向け、5週間にわたる研修プログラムを実施。
また、現場に配属後も先輩社員が細かな質問を受ける役になることや、社員全員が教育担当者となることによって、新入社員をサポートしています。
専任のアドバイザーで個々にサポート「富士通株式会社」
「富士通株式会社」では、キャリア採用した社員にアンケートを実施したところ「入社当初、会社に馴染めなかった」との課題が浮き彫りになりました。そこで、入社後90日間のオンボーディングを実施し、専任のアドバイザーの個別サポート体制を確率しています。
個別のメンターがいることで、入社後すぐに即戦力として活躍できる環境が功を奏しています。
進捗状況をデータで可視化「株式会社メルカリ」
国内最大級のフリマアプリを運営している「株式会社メルカリ」では、独自の施策でオンボーディングを取り入れています。
具体的には、オンボーディングに必要な情報をオンボーディングポータルに集約し、新入社員が欲しい情報をいつでも閲覧できるようにしています。
その他にも、オンボーディングの進捗状況を感覚ではなくサーベイで可視化し、一目で分かるようにしました。さらに、定期的なオリエンテーションを開催し、人間関係の円滑化を図っています。
IT企業ならではの強みを活かす「LINE株式会社」
コミュニケーションツールを中心にさまざまなアプリを展開している「LINE株式会社」は、中途入社の割合がなんと9割。
キャリア採用が大半を占めるLINEでは、入社後いち早く成果を上げられるようにきめ細やかなオンボーディングを実施しています。
その一つが「LINE CARE」と呼ばれるオンラインサービスです。入社後間もない時期は、分からないことがあっても「誰に聞いたらいいのか分からない」といったハードルがあります。
そんな時に、LINE CAREでは気軽に聞ける相談窓口として機能しています。また東京のオフィスでは、対面での同様のサービスが受けられるカウンターを設置。社内でも好評で、中途採用のエンゲージメント率や定着率向上に繋げています。
まとめ
ここまで、オンボーディングのメリット・デメリットやプロセス、成功事例について解説してきました。オンボーディングは、新入社員がいち早く職場環境に慣れて、即戦力になってくれるメリットがあります。
また、離職防止や社員のエンゲージメント向上となり、企業成長にも繋がります。ぜひ本記事を参考に、オンボーディング施策を検討していきましょう。
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