辞令とは?効力・種類・書き方・トラブル事例と対応策を解説

辞令とは?効力・種類・書き方・トラブル事例と対応策を解説
目次

異動や出向などの際に企業が従業員に交付する辞令。
実は、出し方や書き方に決まりがあります。

「これから新しく人事に携わる」という場合は、トラブルを招かないために、辞令を出すタイミングや注意点を覚えておきましょう。

今回は辞令を出す際のルールや注意点、よくあるトラブル事例、対応策について、詳しく解説いたします。



辞令とは

辞令とは、雇用主が従業員に対して

・異動
・出向
・配属
・昇給、減給
・採用
・退職

などの人事についての決定を伝える文書です。

多くの企業でみられる辞令ですが交付について、国などで特に定められている文書ではありません。

「必ず交付しなければいけない」という法律はありません。

一般的な業務命令よりも重要な内容の場合、本人へ正確に伝え、なおかつ社内へ周知するために使われています。

誰がいつはじめたものなのか、定かではありませんが、日本だけでなく海外でも辞令の交付習慣がみられるそうです。


内示・発令・任命とは何が違う?

辞令に似た言葉に、内示や発令、任命という言葉があります。
これらの意味を間違えてしまうと、トラブルを招く恐れがあるため、事前に違いを覚えておきましょう。


内示とは

辞令が発令される場合、社内にも情報が交付されます。
このように公の場へ内容が伝わる前に、対象社員や上司など、近い人間にだけ情報を伝えることを「内示」と呼びます。

内示の段階では、辞令内容は正式な決定ではなく、非公式な情報です。
そのため、内示された内容は他言禁止というルールがあります。

内示を受けた社員は、公式に発表されるまでの間、必要な手続きや異動・転勤の準備を進めるのが一般的です。

企業によって違いますが、辞令書が出される1~4週間程度前に内示されるケースが多くみられます。


発令とは

発令は、辞令を正式に出すタイミングで使われます。
辞令書に発令日が書かれていますので、該当の日に辞令を発令しましょう。

異動辞令の発令、採用辞令の発令といった形で使用され、発令をもって公的発表となります。

辞令の内容は、人事部などから書類や社内メールなどで全社員へ交付されるケースが少なくありません。

担当者は、速やかに内容を共有できるように、準備を済ませておきましょう。


任命とは

任命は、従業員が特定の役職へつく際に使われます。
昇進辞令書を作成する際に、「○○部○○長に任命します」といった形で使用される例が多いでしょう。

観光大使に就任する、といった場合にも任命という言葉が使われます。
この場合は辞令ではなく、任命書が作成されます。


辞令の効力

辞令交付するかどうか、という点については、特に定められた義務はありません。
一方で、発令された辞令内容は、一定の拘束力を持ちます。

これは、企業と従業員が労働契約を結んでおり、企業側に人事命令権があるからです。

就業規則や労働契約書に異動や転勤がない、と書かれている場合は別ですが、労働契約締結時に異動や転勤について同意し契約を結んでいる場合は、異動辞令または転勤辞令を拒否できません。

・就業規則に「会社の異動命令は、正当な理由なく拒否できない」などと定められている場合
・労働契約の内容に「業務内容や就業の場所は、会社の命令により変更することがある」となどと定められている場合

上記のように定めがある際に辞令を拒否した場合、降格や解雇といった処分を受けるケースもあります。


辞令にはどんな種類がある?

具体的には、さまざまな種類があります。
どのようなタイミングでどの辞令を交付するべきなのか、主なケースを解説いたします。


採用辞令

採用辞令には、新規採用や第二新卒の採用、中途採用時に交付されます。
新規採用の場合は、入社辞令と呼ぶ場合もあります。

新卒者向けの採用辞令には、入社日や配属先、給与、試用期間、就業時間、年次有給休暇、社会保険など、重要事項をきちんと明記
しておきましょう。


昇給辞令

従業員に昇給を通知する辞令です。

給与辞令と呼ばれることもあり、等級変動や昇格などのタイミングで、昇給後の金額を記載の上、発令します。

昇給にはいくつかの種類があります。一般的な昇給の種類は以下の通りです。


「自動昇給」年齢や勤続年数に応じた昇給
「定期昇給」毎年決まった時期に行われる昇給
「普通昇給」技能や能力向上など、一般的な理由で行われる昇給
「特別昇給」特殊な業務や役割を果たしたという理由による昇給
「考課昇給・査定昇給」勤務態度や個人の成績に応じた昇給
「臨時昇給」時期を問わず、企業の売上に応じて行われる昇給


それぞれのケースに合った辞令を発令しましょう。

ただし昇給は、法令で定義されているものはありません。上記「昇給の種類」についても、企業ごとの給与・昇給に対する考え方(方針、ポリシー)によって決定されます。

自社の昇給種類と違うことは十分ありますので、その点ご注意ください。


昇進辞令

昇進辞令は、これまでとは役職や地位が上がる時に交付されます。
昇給辞令と合わせて受け取るケースが多くみられます。


昇格辞令

昇格辞令は、等級制度や役割制度などの人事制度を施行する企業において、能力や勤務態度等に応じて従業員の等級が上がった場合に交付されます。

昇進辞令は肩書が変わる際に発令されますが、昇格辞令の場合は、肩書が変わらない場合もあります。

等級アップは、昇給や将来的な昇進につながる重要な辞令です。
期待の言葉を書き添えて、従業員に嬉しい気持ちを届けましょう。


減給辞令

給与が下がることを伝える辞令です。給与辞令と呼ばれる場合もあり、等級変動や降格などの際に発令されます。

業務内容や業務の責任の程度が同一なのに、減給を行う場合は、労働基準法第91条(減給の制限)の適用をうけることがあるので、注意しましょう。


降格辞令

人事制度に基づき、従業員の勤務態度や勤務成績が評価基準に達しない場合に、人事制度上の等級や役割基準が降格となることがあります。

このような事由で等級が下がった場合、降格辞令が発令されます。昇格と同じく、肩書は変わらないケースがあります。

地位や役職が下がる場合は、降格辞令ではなく降職辞令を発令しましょう。


復職辞令

従業員が病気やけがなどを理由に長期休職した後、職場へ復帰する際に復職辞令を発令します。心身の状態を確認後、再度勤務できると判断できた場合は、復職辞令を作成しましょう。


異動辞令

異動辞令は、この後紹介する出向や転勤、転籍などを理由に人事異動がある場合に発令します。経理部から総務部など、部署異動がある場合に異動辞令が出されるケースもあります。

出向辞令や転勤辞令については、この後詳しく紹介いたします。


出向辞令

出向辞令は、現在所属している企業から親会社や子会社、グループ企業などへ従業員を異動させる命令です。

所属企業に籍を置いたままの在籍出向と、関連会社へ移籍する転籍出向があります。

在籍出向は、就業規則に定めがあれば従業員の同意は不要とされています。所属企業の労働契約と異動先の労働契約、どちらの条件を採用するのか、といった点を決定しておく必要があります。

転籍出向は事実上の転職になるため、従業員の同意が必要です。従業員は、異動転籍先で新しく労働契約を結ぶことになります。


転勤辞令

従業員へ転勤を命じる際、転勤辞令を発令します。
本社から支社へ、支社から本社へなど、企業内で勤め先が変わる例です。

全国に支社がある場合は、引っ越しを伴うケースもあるでしょう。
この場合も辞令は企業からの命令のため、拒否できません。


配属辞令

従業員を各部署、各部門へ配属させる際に発令される辞令です。
新入社員研修が終わった後、配属先を決定するという場合に発令されます。


配置転換辞令

配転辞令とも呼ばれます。
勤務地や職種、業務内容などを、長期変更する場合に発令される辞令です。


退職辞令(または退職通知)

退職とは、解雇以外の理由で職を辞す場合を指します。

「定年退職」就業規則で決められた年齢の従業員が退職
「早期退職」企業都合で退職者を募集し、希望した場合の退職
「自然退職」従業員の死亡や行方不明、長期間休暇から復職できない場合の退職

これらの事由で退職者がいる場合は、退職辞令を発令しましょう。


辞令に記載するべき内容・書き方

辞令には、必ず記載するべき内容があります。

トラブルを未然に防ぐためにも、従業員へ辞令の内容をただしく伝えるためにも、記すべき項目を覚えておきましょう。


辞令に記載するべき内容

辞令には、

・昇給や採用など、辞令を交付する理由 
・辞令が効力を持つ発令日 
・辞令を交付する部署や人物 
・出張や異動、転勤などの場合は期間や勤務地 
・発令番号

このような情報が記されています。

辞令を読むだけで、何を命じられたのか一目でわかるように、短く分かりやすい言葉で記載しましょう。


辞令の書き方

辞令書の作成を命じられたら、基本の構成に従って文書を用意します。
主となる書き方を事前にチェックしておきましょう。

辞令を作成する場合、

・発令番号 
・交付日 
・発令対象者の氏名や部署、役職 
・発令者である企業や人物の役職、氏名 
・辞令の内容 
・辞令が効力を持つ日時

このような順番で記載すると、読みやすい辞令になります。

受令者の名前には「殿」を付けましょう。内容は、

「○○を命ずる(命じます)」
「○○を任ずる(任じます)」

などの言葉で言い切ります。

数が多い場合は、テンプレートを活用するとスムーズです。
便利なテンプレートですが、事務的な辞令書になりやすいというデメリットがあります。

良い辞令の場合は、なぜ昇格や昇級という結果につながったのか、以下のような形で短く記すと、モチベーションアップにつながります。

「より一層の精進を期待します」 
「貴殿の活躍を切望しています」 
「貴殿の勤務評価は極めて優秀でした」 
「仕事熱心な姿に信頼を寄せています」

悪い辞令の場合は、受け取った人への影響を考えて、気遣いある言葉を選びましょう。

仮に、本人が望まない異動の場合、「能力を社業の発展に貢献いただけるよう切望しています」
このような一言があるだけで、自分の力を新天地で生かそう、という気持ちが生まれます。

従業員の力では覆せない辞令だからこそ、相手の気持ちに立って内容を検討してみてください


辞令を交付する方法

企業が辞令内容を従業員へ知らせる行為を、辞令交付といいます。

該当の従業員以外に、辞令の内容を伝える場合も交付という言葉がよくつかわれます。

辞令にはいくつかの交付方法があります。
どのような形で従業員へ交付するのか、事前に検討しておきましょう。


口頭で伝える

辞令の内容を口頭で伝えられるケースです。
口頭での申し伝えはトラブルが考えられるため、内示は口頭で、後ほど別の形で交付されるケースが多くみられます。


従業員へ手渡し

辞令書を直接従業員へ渡すケースです。
中小企業などでは、企業の経営者などから渡される例もあるでしょう。

辞令を渡しながら励ましの言葉をかけたり、おめでたい内容の場合はお祝いの言葉をかけたりできる点がメリットです。


掲示板や社内メール

社内の掲示板や社内報、社内メールなどを通じて交付するケースです。
自分だけでなく、社内中へ辞令の内容が伝わるため、良い辞令の場合はモチベーションアップにつながります。

昇給程度の内容であれば、給与明細に印刷して渡す場合もあります。


辞令交付式を開催

入社式の一環として、配属先の辞令交付式を開催するケースです。
大企業を中心に、入社を祝うセレモニーとして執り行われています。

会社の式典のため、従業員はフォーマルな服装で参加します。
おめでたい内容の辞令を交付する際に実施しましょう。


辞令を出すタイミングと流れ

辞令には出すタイミングと流れがあります。
適したタイミング、流れを見てみましょう。


辞令を出すタイミング

辞令は、出すタイミングについても決まりはありません。

国家公務員に辞令が出される7月、下期に向けて体制を見直す10月に辞令が出される例が多いでしょう。

・新入社員研修が終わり、配属先が決定する時期 
・昇進試験や昇格試験の結果が出る時期 
・決算などで忙しい時期以外 
・人事異動のタイミング

など、自社に合ったタイミングで発令してください。


辞令を出す流れ


辞令を出す際にどのように進めていくべきか、流れをチェックしておきましょう。

1:内示
辞令交付の1~4週間前に、該当の従業員へ辞令内容を内示します。
遠方への転勤など、早めに準備が必要な場合は、より早く内示して構いません。
家族構成や居住地などを考慮しながら、内示日を決定しましょう。


2:辞令書の作成
従業員へ内示し、合意を得たら辞令書を作成します。
先ほど紹介した辞令書の書き方を参考に、発令日までに準備を済ませましょう。

辞令交付式を開催する場合は、辞令書を作成するタイミングで、会場の準備やプログラム作成なども、合わせて進めておきましょう。


3:発令・交付
従業員へ正式に辞令を発令します。

その他従業員へのメールや掲示板などを通じて、辞令内容を伝える場合は、発令日当日~10日前までを目安に交付しましょう。

異動辞令などの場合、お礼を用意したり、お別れ会を開いたりといった準備が必要になるケースもあります。現在の職場から離れる社員の辞令は、早めに交付するのがおすすめです。


辞令を出す前に気をつけること

辞令を出す際、気を付けて進めないと、思わぬトラブルを招いてしまう可能性があります。
スムーズな内示、発令、交付につなげるために、注意点を抑えておきましょう。


就業規則を確かめておく

就業規則に異動の対象範囲が記載されていない場合、効力を発揮できない恐れがあります。
配置転換や異動、転勤、出向など、考えられる辞令内容について、きちんと記載しておきましょう。

入社時に就業規則を読み合わせるなど、企業の考えを伝えておくとよりスムーズです。

必要な情報を間違いなく記載して、従業員が納得して辞令を受け取れるようにしましょう。


情報漏洩対策をしておく

経営陣の交代など、辞令の内容が企業にとって大きな機密であるケースがみられます。

主要なポストに関連する辞令などの場合は、内示情報が外部に漏れないようにするために、

・内示に関連する書面やデータを残さない 
・従業員へ口外禁止の期間をあらかじめ伝えておく 
・口外した場合はコンプライアンス違反により処罰される旨を伝えておく

といった配慮が必要です。

1回の情報漏洩が、企業へ大ダメージを与える場合もあります。
辞令に関連する部署の人間は、特に注意して情報を取り扱いましょう。


辞令に関連するルールを決めておく

辞令発令に関連するトラブルを未然に防ぐなら、企業のルールを事前に作成し、周知徹底しておきましょう。

・内示の内容を知らせる相手 
・内示方法 
・内示内容を口外してはいけない期間 
・口外してしまった場合の処罰内容

このような項目について、ルールを策定してください。

内示を知らせる相手はできるかぎり最低限に、従業員の家族から情報が洩れる可能性もあるため、転勤などで家族への説明が必要な場合の口外禁止も徹底しましょう。

内示は他の人に聞かれない会議室などを利用する、書面やデータの記録は残さないなどの配慮で、漏洩を防ぎましょう。

口外してはいけない期間、万が一口外してしまった場合はどのような処罰があるのか、事前に伝えておくと従業員の気持ちが引き締まります。

企業の価値を守るために、スムーズに辞令を発令するために、ルールを整備しておきましょう。


拒否されるケースも考えておく

企業には人事命令権があり、従業員は辞令を拒否できません。
ですが、内示の段階でどうしても合意できないケースもあります。

異動命令は、使用者が持つ人事権(社内の労働者の扱い全般に関する使用者の権限)として、広く認められています。

ただし、人事権を濫用した異動命令は、無効となります。具体的には、以下の条件にひとつでも該当する場合、人事権の濫用として無効になる可能性があるため、注意が必要です。

①業務上、人事異動をする必要がない。
②不当な動機や目的の人事異動である。
③人事異動によって、従業員が通常受け入れるべき程度を超えて不利益を受けること。

辞令を出す前に、人事権の濫用に該当する可能性はないか、確かめておくと安心です。


不当な動機にならないように注意する


辞令の内容が不当な動機である場合、従業員から拒否されるだけでなく、裁判になる事例もあります。

・過酷な業務に就かせて自己退職を促す 
・退職してほしい社員を追い出し部屋へ異動させる 
・実績ある人材を関係のない部署や地方へ転勤させる

など、現在はあまりみられない例ですが、古い体質の企業の中には、このような辞令が出されているケースがあります。

従業員にとって不当だと思われる辞令内容の場合、訴えられる恐れが高いこと。

その結果、企業の信頼や価値が揺らいでしまう恐れがあることから、辞令内容には細心の注意が必要です。


従業員の家庭環境を調べておく

辞令を出す前に、従業員の家庭環境を調べておきましょう。

子どもの学校問題で転勤できない、病気や介護が必要な家族がいる、配偶者の仕事の事情といった理由がある場合、命令とはいえ辞令に従えない場合があります。

従業員に何歳くらいの子どもがいるのか。
病気や介護が必要な家族はいないか。
負担の大きいシングルファザーやシングルマザーではないか。
転勤が難しい配偶者がいるかどうか。

このような点を事前に調べた上で、辞令をどう出すか検討しましょう。


拒否されるケースも考えておく


企業には人事命令権があり、従業員は辞令を拒否できません。
ですが、内示の段階でどうしても合意できないケースもあります。

中には人事命令権の範囲を超えた、常識はずれの辞令もみられます。
このような場合は裁判の上、辞令が拒否される場合もあるでしょう。

辞令を出す前に、内容が通常引き受けられる範囲内であるかどうか、確かめておくと安心です。


トラブル事例と対応策

辞令関連のトラブルを避けるために、実際にあった企業のトラブル事例と対応策を覚えておきましょう。


実際にあった企業のトラブル事例

実際に裁判となった5つの企業のトラブル事例がこちらです。


事例1:東亜ペイント事件
該当の従業員は、勤務地を限定しない形で入社しました。
その後8年間大阪近隣で勤務した後、名古屋への転勤を命じられ拒否、懲戒解雇になった例です。

従業員の家族構成は71歳の母、28歳の妻、2歳の長女。

母は介護の必要がなく、妻は保育所で働き始めたばかり、該当従業員は大阪を離れたことがないため、辞令を拒否しました。

この例では、企業側の権利が認められ、(裁判で争われた会社の異動命令は、従業員が)通常甘受するべき程度だという結果に至っています。

母との同居、幼い子どもがいる、その地域に住んだことがない、といった程度の理由では、辞令を拒否できないという、わかりやすい事例です。


事例2:北海道コカ・コーラ・ボトリング事件
先ほどの東亜ペイント事件とは逆に、従業員が辞令によって著しい不利益を受けると判決を受けた事例です。

従業員には躁うつ病疑いの長女、脳炎の後遺症がある次女がいたこと。
隣接地に住む両親の体調が思わしくなく、面倒を見る必要があること。


このような事情を抱える中、帯広工場から札幌本社への転勤を命じられた例です。

単身赴任や転居が難しいことから、通常甘受すべき程度を著しく超えると判断されました。

病気やお世話が必要な家族がいる場合は、企業側の配慮が求められるようです。


事例3:新日本製鐵事件
新日本製鐵は、経営を合理化させるため従業員2名を委託先企業に出向させました。

3年間の予定でしたが、期間内に経営改善ができなかった、という理由で出向を3回延長した事例です。

このケースでは、就業規則に出向についてきちんと記されていたこと。
出向辞令は、従業員に同意を得る必要がないことから、通常甘受するべき内容だと判断されました。

出向の延長自体は問題ありせんが、3年で戻れると思っていた社員にとって、大きな負担になる場合があります。

延長の理由や感謝の気持ちを伝えておくと、裁判を未然に防げる場合もあります。


事例4:ネスレ日本事件
他県の工場へ配置転換をもとめた例です。
60人という大人数に辞令を出し、49名が退職。9名が配置転換に同意、残り2名が裁判で争うことになりました。

この例では、2名に介護などの事情があったことから、通常甘受すべき程度を著しく超えると判断され、転勤辞令は無効になりました。

誰かに代わってもらうのが難しく、家族のために必要不可欠である介護は、辞令の通常甘受を著しく超えるケースが多いようです。


事例5:日本ステンレス事件
従業員3名へ期間を定めず子会社への出向を求めたところ、拒否され懲戒免職になった事例です。

子会社への出向自体は、配置転換と変わらないこと。
就業規定に出向や配置転換について、記されていたことから出向自体は甘受すべき程度の内容でした。

しかし3名中1名に親の介護が必要であったことから、この1名の出向については無効になっています。

ネスレ日本の例と同じように、
「出向先で親の介護を続けるのが難しい」という場合は、異動辞令を拒否できるケースがあります。

その他にも配置転換を拒否した結果、解雇になりその後裁判。
命令時の説明不足が指摘され、企業側に高額な支払いが命じられたケースもあります。

通常甘受すべき事由かどうか、従業員への説明は足りているか、迷った場合は弁護士に相談しておくと安心です。


トラブルが起きた時の対応策3選

トラブルが起きた場合も、企業の対応次第で解決できるケースがあります。
辞令を拒否された、難色を示された際にどうするべきか、覚えておきましょう。


対応策1:辞令交付の理由をきちんと説明する
慣れた職場や部署から転勤したり、異動したりするのは、従業員にとって大きなストレスになります。

望まない辞令内容の場合は、人事担当などから「なぜ辞令発令に至ったのか」を丁寧に説明しましょう。

「新しい環境で力を借りたい」
「あなたの実力に期待したい」
「いろいろ考えた結果最適な人材だった」

など、前向きな理由での辞令であると伝わると、受け入れやすくなります。
合わせて企業が考える当該従業員のキャリアプランを提示できると、より理解が深まるでしょう。

なぜ辞令を発令するのか、内示のタイミングで伝えておくと、心の準備をする時間が持てるためおすすめです。


対応策2:必要に応じて給与や手当を見直す
従業員が辞令に乗り気でない理由が、引っ越しや職場移動に関連する経済的問題、というケースが少なくありません。

このような場合は、従業員の負担が大きくならないように、給与や手当を見直しましょう。

・地価や物価が高いエリアに応じた給与や手当見直し
・家賃の一部負担や全額負担
・引っ越しにかかる費用の一部負担や全額負担
・寒冷地手当の支給
・転園手当や転校手当の支給
・単身赴任手当の支給
・単身赴任寮や家族寮の用意
・単身赴任先から土日に戻る際などの交通費支給

など、転勤に伴う費用面の負担が得られれば、内示への同意を得やすくなります。


対応策3:懲戒処分を視野に入れる
従業員が辞令に従わない場合、懲戒処分を視野に入れましょう。

雇用は継続するものの、辞令に従っている従業員との公平感を維持するため、減給や降格などの処分をする例です。

従業員の中には、懲戒処分になっても良いから、辞令を受け取りたくないというケースもあります。

なぜ拒否しているのか、じっくり話を聞いたうえで、どうしても折り合わない場合は懲戒処分を選択してください。

企業にとって、辞令が必要不可欠という場合は、退職勧告に踏み切る場合もあります。
辞令か退職か、従業員の声に耳を傾けながら、最善の形を選びましょう。


まとめ

「企業の業績を配置転換で伸ばしたい」
「従業員に幅広いスキルを身につけてもらいたい」
「頑張っている人を、給与や役職という形で人事評価したい」

など、さまざまな理由で辞令が出されます。

辞令は企業からの業務命令ですが、受け取った人が今後も気持ちよく働けるように、発令の際は最大限に配慮しましょう。

転勤に関連する辞令、降格などの悪い辞令の場合は、特に慎重に進めてください。就業規定と照らし合わせながら、間違いのない辞令を発令するのも重要です。

辞令内容が決まったら、幅広い面から従業員の新しい一歩をサポートしましょう。

ヒトクル編集部
記事を書いた人
ヒトクル編集部

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社会保険労務士法人ローム静岡 所長 杉本雄二 
監修した人
社会保険労務士法人ローム静岡 所長 杉本雄二 

求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。 
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。