職人育成の常識を破り、国内屈指のうなぎ屋へ成長した背景に迫る。

職人育成の常識を破り、国内屈指のうなぎ屋へ成長した背景に迫る。
目次

株式会社備長 
専務取締役 伊吹 隆さま

こんにちは、ヒトクル事務局です。

「 串打ち3年、裂き8年、焼き一生」という格言があるように
うなぎ職人として1人前に焼き場を任せられるまでに、何年もかかるのが業界の風習です。

そのなかで「このままの教育体制でいいのだろうか」という疑問をもち、よい文化は残しつつ社員の労働環境を整え、現代にあった職人育成をしている会社がありました。

1992年創業以来「ひつまぶし」の名代として、名古屋・東京・大阪・福岡に9店舗展開しているひつまぶし専門店の株式会社備長さまです。

今回は、株式会社備長の専務取締役伊吹 隆さんに、職人育成に対する想いについてお話しを伺いました。


昔ながらの職人の育成方法に疑問


ーうなぎ職人として1人前になるのに10年かかると言われていますが、御社は育成スピードが早いと聞いています。





当社の社長も職人なのですが、社長の修業時代はまさに、まだ昔ながらの教育方法でした。もともとこの業界では、「教えない」という教え方なんです。僕はまだマシな時代でした(笑)

それでも「こんなんじゃだめだ、やり直せ」と言われることはあっても、「どこが悪いのか」は教えてもらえません。
だから自分なりに一生懸命考えて、試行錯誤しながら覚えていきました。

僕もそうやって育ってきたので、その教育方法のすべてを否定する気はありません。ただし、昔ならまだしも現代の若者にそういったやり方で教えて、どのくらい付いてきてくれるでしょうか?

社長は、この「ひつまぶし」を全国に広めることを考えていました。より多くのお客様に、「日本の伝統文化」を伝えたい、と。
それを叶えるには、職人を育てることが必須です。

以前は、社長が数年かけて職人を育てて店を任せ、そして次の店をオープンしてそこでまた社長が数年かけて育てる、というスタイルでした。当然とても時間がかかりますし、職人が少ないから休みもあまり取れない状況でした。


教える相手をいかにポジティブにするか

ーいつ今のような教育体制になったのでしょうか?



店が増えるにしたがって「人を教えるのは、どうしたらいいのか?」「人を育てるってどういうことなのだろうか」とずっと考えていました。

そして、6年前に「育成プロジェクト」を立ち上げました。実は、まだ何も決まっていない状態でしたが(笑)、とりあえず大義名分として、そういったプロジェクトを会社として掲げることで、考えざるを得ない状況を作りました。


社長も、「人材育成」が重要だという考えでは一致していましたので、一緒に意見を出し合い、方向性を固めていきました。

職人を育てるのに「マニュアル」はないだろう、とか。でもマニュアルがないと、教える人の立場や経験によって言っていることがぶれるから、やっぱり必要だとか・・・。

だから、当社では「何を共通言語とするか」を決めて、職人に必要な一番根底にあるものは標準化しました。

また、従来の「否定」から入る教え方も改めました。教える相手をいかにポジティブにするかが大事だということを常々言っています。前向きに探究心をもって仕事をしていたら人は育ちます。

「お前はだめだ」と言われて5年仕事をするのと、「ここがすごく良いね」「こうすればもっと良くなる」と言われて5年仕事をする人、どちらが育つと思いますか?

これは火を見るよりも明らかだと思います。


労働環境の改善で、定着率が90%以上に

ー飲食店で週休2日というのも珍しいですよね。


今までは中途採用の7割が退職していました。このままじゃだめだ、と5年前新卒を採用し始めたときに、思い切って週休2日にしました。

周囲には「本当にそれで店がまわるのか?」と心配されましたよ。

実際、週休2日なのは新卒だけで、既存の社員たちはそれまで通り週1日ですから、正直反発心もあったと思います。でも「人が育ってくれば、いずれ自分たちにかえってくる」とそういう思いでいました。

今では、ほとんどの社員が週に2日休みを取っています。一番休みが少ない職人(焼き手)も、月で7日休みが取れるようになりました。

おかげで、ここ6年くらいはほとんど退職者がありません。おそらく1割も満たないくらいだと思います。


ー社員の評価制度について教えてください。


実は、うちの会社は売上予算というものがありません。だから数字で評価というものを一切していません。まずは労働環境を含めた待遇改善を進め、会社の経営理念である「日本の伝統文化の継承」、行動指針「職人の技とおもてなしの心の追求」に集中できる環境づくりを大事にしています。

要は、数字で測れないことを大事にしているわけです。

だから、おそらく他の会社である「最近売り上げが落ちているから、どうにかしなくては」とかいう話は一切なくて、
「最近●●のモチベーションが下がっているようだから、専務ちょっと話してきてください。」ということがよく話題にあがります。


「人を育てること」を追求し続ける

ー今後の課題について


やっぱり、いかに自分たちと同じ想いでやっていける人を育てていけるのか、につきます。
そのためには、「人を育てる」ということをさらに追及して進化させていくことが必要です。

うなぎ屋でこれだけ全国に展開している店は他にはあまりありません。だから、自分たちで考えて作っていくしかないわけです。
自分たちのやっていることが合っているかどうかが分かるのは、きっと10年後ですね。


あとは、飲食業界全体の評価を上げていきたいです。最近では飲食業=ブラックみたいな構図があるじゃないですか。そういう見られ方をされるのが悔しいですね。

だから、いい技術、技能を身につけて、多くのお客さまに喜んでもらって、皆さまからの評価を上げたいです。そうして社員の労働環境の水準を上げていきたいと思っています。


ー最後に、伊吹さんにとっての「職人の面白さ」は何でしょうか?


「飽きない」ということです。

いつまでも「完成」しない、「終わり」がないというか・・・でも終わってほしくないんです。ずっと追及し続けていける。だから面白いんです。

(取材日:2017年7月6日)


いかがでしたでしょうか?今回のインタビューで印象的だったのが、「職人を育てる」ことへの熱い想いです。昔ながらの育成スタイルから脱却するなかで、様々な葛藤や試行錯誤があり、またそこからさらにより良いものにしていく、という熱意が伝わってきました。

伊吹さん、このたびは、取材にご協力いただき本当にありがとうございました。

ヒトクル編集部
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ヒトクル編集部

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