【育児介護休業法改正】2024年5月に可決した2025年の変更点をわかりやすく解説

【育児介護休業法改正】2024年5月に可決した2025年の変更点をわかりやすく解説
目次

1992年に施行された育児休業法は、1995年に育児介護休業法へと改正され、その後も時代の変化に伴い改正されてきました。

2024年5月には、新たに2025年4月から段階的に施行される改正案が国会で可決しており、基本的に全企業がその影響を受けることになります。

この記事では、育児介護休業法改正について、2024年9月時点での最新情報を踏まえ解説します。

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2023年~2024年における育児介護休業法改正の主要トピック

記事執筆時点で確認できている、今回の法改正における主要トピックは、概ね以下の3つにまとめられるでしょう。


2023年4月:男性が育休をどれだけ取得しているか

2023年4月に改正された法改正により、大手企業は男性の育休取得率の開示を義務付けられました。

具体的には、常時雇用されている従業員の数が1,000人以上の企業が該当し、次のいずれかの指標を表向きに発表することが義務付けられています(年に1回)。

  • 男性従業員の「育休などを取得した割合」
  • 男性従業員の「育休など・育児目的での休みを取得した割合」


2025年4月~:多様な働き方などへの対応が求められる

2025年4月1日から、企業は以下の分野での対応が求められます。

  • 子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
  • 育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
  • 介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
     

※出典元:厚生労働省|育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要(令和6年法律第42号、令和6年5月31日公布)


新しいルールはいつから始まる?

2024年に公布された改正法が適用されるタイミングについては、基本的に2025年4月1日からスタートします。

しかし、本記事における次の段落の内容は、例外的に「2025年11月30日(公布の日から起算して1年6月)以内において政令で定める日」がスタートのタイミングになるため注意してください。

①-1|多様な働き方と働き手の意思尊重
①-5|仕事と育児を両面でサポートするためのヒアリング・配慮が義務化された


  • 改正内容と施行日

改正ポイント

改正内容

施行日

1.子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

1-1多様な働き方と働き手の意思尊重

2025年11月30日までで政令で定める日

1-2小学校に入るまで、残業が免除される

2025年4月1日

1-3看護休暇が取れるケースの拡大

1-4テレワークが努力義務となるケースが増えた

1-5仕事と育児を両面でサポートするためのヒアリング・配慮が義務化

2025年11月30日までで政令で定める日

2.育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化

2-1育休の取得状況の公表義務を持つ企業が増大

2025年4月1日

2-2行動計画策定時の状況把握・数値目標の設定が義務付けられる

2-3次世代育成支援対策推進法の期限延長

3.介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等

3-1両立支援制度等の個別周知・意向確認・情報提供と雇用環境整備の義務化

3-2介護休暇をもらえる人が増える

3-3家族を介護する労働者はテレワークが努力義務の対象に


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改正ポイント①:子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

改正法では、3歳から小学校に入る前の子どもがいる人に対して、事業主がテレワークや時短勤務といった働き方ができるよう環境を整えなければなりません。


①-1|多様な働き方と働き手の意思尊重

今回の法改正では、3歳から小学校に入る前の子を育てている人に対して、事業主が次にあげるような多様な働き方を進められるよう対応すること、労働者がそれらの中から選べる環境を整えることが義務付けられました。

  • 仕事が始まる時間などの変更
  • リモートワーク
  • 短い時間で働けること
  • 新しい休みを認めること
  • 保育施設の設備運営等

上記措置のうち、企業は2つ以上を選択して講じなければなりません。

また、これらに関しては、対象労働者に対して個別に知らしめ、どれを選ぶのかヒアリングすることも義務付けられています。


①-2|小学校に入るまで、残業が免除される

改正前の時点では、所定外労働の制限、いわゆる残業が免除される労働者が「3歳になるまでの子」を育てている人に限られていました。

しかし、改正法施行以降は、「小学校に入る前の子」を育てている人までが残業を免除されます。

子どもが小学校に入学すると、保育園時代に比べて仕事・子育ての両立が難しくなる「小1の壁」に突き当たる保護者は多い傾向にあります。

小学生になる前の子を持つ親が、仕事から離れ、我が子と一緒に過ごせる時間が増えれば、親としてもやがて来る学校生活に備えやすいでしょう。


①-3|看護休暇が取れるケースの拡大

ケガをしたり病気を患ったりした子どもの世話をするための休みは「看護休暇」といい、現行法においては、これまでも1年度あたり5日(条件に当てはまる子どもが2人以上の家庭は10日)を限度に休みを取ることが認められています。

しかし、改正法では次表の通り、休みが取れるケースが増えます。

 

改正前

改正後

子どもの範囲

小学校に入るまで

小学校3年生修了まで

取得事由

  • 病気やケガ
  • 予防接種・健康診断
  • 感染症などによる学級閉鎖等
  • 入園(入学式)
  • 卒園式

改正前の事由に加えて上記を追加

また、除外できる労働者の条件が「週の所定労働日数が2日以下」のみとなり、引き続き雇用された期間が6ヶ月未満の労働者であっても、法律が改正されると休みを取れるようになります。


①-4|3歳未満の子を育てる従業員のテレワークが努力義務

自社で働く3歳未満の子を育てる労働者が子どもを育てるために休みを取っていない場合、事業主は「テレワークの措置を講じる」ことが努力義務になります。

仮に、措置を講じない場合であっても、当面は企業側に罰則はありません。

しかし、自社で措置を講じなければ労働者の離職リスクが高まることから、できる限り早めに措置を講じておきたいところです。

なお、育児休業とは、従業員が養育する子が満1歳(保育所に入所できない場合などは最長で満2歳)の誕生日を迎える前日まで、取得が認められている休みのことです。


①-5|仕事と育児を両面でサポートするためのヒアリング・配慮が義務化された

労働者または配偶者が妊娠・出産などを申し出た場合、事業主は面談等の措置を講じ、以下の対応を実施しなければなりません。

  • 労働者に対し、育児休業関連の制度につき情報を伝えること
  • 育休を取得したいかどうかのヒアリング

労働者一人ひとりに意向を聴取する際は、子や家庭の現況によっては両方を成り立たせるのが難しいケースも考えられるため、離職を防ぐ観点から働く時間帯・働く場所・サポートの利用期間の希望などをヒアリングすることが求められます。

また、労働者の希望を確認した後は、自社の状況に応じて業務量を調整したり、配置や労働条件を見直したりする必要があります。

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改正ポイント②:育児休業の取得状況の公表義務の拡大など

改正法によって、育休の取得状況を公表義務がある事業主が更に増え、次世代育成支援対策推進法が効力を持つ期限も延びることになります。


②-1|育休の取得状況の公表義務を持つ企業が増大

改正前は、毎年1回以上育休の取得状況を公表しなければならない企業の条件は、常時雇用する労働者の数が「1,000人を超える」企業でした。

しかし、法律が改正されると、この人数が「300人を超える」企業に変更され、結果的に公表義務を持つ企業が増大するものと考えられます。

今回の人数変更により、公表義務が課せられる企業の数が大幅に増えることが予想され、より多くの企業で育休の取得促進を進めたいという政府の思惑が見て取れます。


②-2|行動計画策定時の状況把握・数値目標の設定が義務付けられる

今回の改正では、次世代育成支援対策推進法の改正も盛り込まれています。

現行法において、事業主は従業員の仕事・子育てに関する「一般事業主行動計画」の策定と届出が義務、もしくは努力義務となっています。

しかし、具体的な内容・目標となる数値の項目に関しては、事業主側に委ねられている状況です。

この点につき、法改正後は次にあげる数値の項目を盛り込むことが必須となります。

  • 育休の取得状況(男性の育児休業取得率)
  • 労働時間に関する状況(フルタイム労働者の各月の時間帯・休日労働時間)


②-3|次世代育成支援対策推進法の期限延長

「次世代育成支援対策推進法」は、次代の社会を担う子どもの健全な育成を支援するため、国・自治体・事業主が次世代育成支援のための行動計画を策定することを定めた法律です。

この法律には、日本で進む急速な少子化を食い止め、次の時代を担う子どもが健やかに生まれ育つための環境整備を進めるという意味合いがあります。

本来は「2025年3月31日」までが期限だった法律ですが、今回の改正により「2035年3月31日」が新しい期限となりました。

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改正ポイント③:介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等

今回の法改正においては、家族の介護などを理由とする離職にも目が向けられており、従業員が仕事と介護のどちらかに注力せざるを得ない状況にならないよう、サポートするための内容が持ち込まれています。


③-1|両立支援制度等の個別周知・意向確認・情報提供と雇用環境整備の義務化

改正法において、介護を必要とする従業員への支援を強化するため、事業主には以下の取り組みが義務付けられました。

個別に周知し意向をヒアリングする

介護が必要になった従業員からの申し出があった場合、企業は個別に両立支援制度などの情報を伝え、従業員の意向を確認しなければならない

早い段階での情報提供

従業員が40歳など、介護に直面する可能性のある年齢に達した段階で、各種制度などの情報を事前に提供しなければならない

円滑な制度利用に向けた施策

従業員が介護休業を申請しやすい環境を整えるため、研修を行ったり相談窓口などを立ち上げたりする必要がある


③-2|介護休暇をもらえる人が増える

今回の法改正では、これまでよりも介護休暇をもらえる人が増え、働き始めたばかりの従業員でも介護休暇を取得できるようになりました。

介護休暇とは、介護が必要な家族をケアするために取得できる休暇の一つです。

一般的に、介護が必要な状態とは、怪我や病気などにより“2週間以上継続的に介護が必要な状態”を指します。

以前は、勤続6ヶ月未満の従業員は介護休暇の対象外となることがありましたが、法改正によりこの規定が廃止されました。


③-3|家族を介護する労働者はテレワークが努力義務の対象に

自社で働く労働者が、要介護状態にある家族を介護しているのに介護休業していない場合、企業はその労働者がテレワークを選択できるようにしなければなりません。

ただし、今回の法改正において義務の種別は努力義務となっており、実施できなかった場合の罰則は設けられていません。

しかし、将来的には義務化される可能性が高いことから、努力義務とされている段階からテレワークを選択できるよう準備を進めておくと、やがて完全義務化された場合の移行がスピーディーに進むでしょう。

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育児介護休業法改正への対応で企業価値を高めるメリットとは

育児介護休業法改正に伴う対応は、従業員にとっては働きやすさの向上に繋がりますが、企業にとっても取り組むメリットは数多く存在します。 




自社のイメージアップ

日本においては、古くから企業優先で物事を考える時代が長く続いてきたため、現代においても育児・介護を含む様々な事情での休暇取得を難しく感じている労働者は少なくありません。

そのような中、いち早く育児介護休業法改正に向けた動きを進めている企業には注目が集まりやすく、若年者の人材確保・自社に対するESG投資の活発化などが期待できます。


従業員の意識に良い変化をもたらす

育児介護休業法改正に向けた取り組みを進めることで、男女を問わず育児休暇取得が社内で一般的な選択肢になると、女性の従業員が仕事と育児を両立しやすくなります。

これまでは難しかった女性従業員のキャリア形成が実現すると、自社で長く働いて経験を蓄積してくれる人材が増えるため、自社の長期にわたる発展が見込めます。


離職率の低下

日本国内の労働人口減少に伴い、新しい人材を獲得するのが難しくなってきている現代においては、自社で働いてくれている人材が離職するのを防ぐための対策を講じることも重要です。

特に、優秀な人材が育児・介護を理由に職場を離れることを防げる環境が整っていると、ライフイベントに配慮しつつ長期にわたり働ける環境として、求職者・従業員目線で考えると魅力的に映るはずです。


従業員同士の連携が強化される

育児休暇・介護休暇を取得していない従業員は、取得した従業員をサポートする形になるため、自然と他の従業員の仕事を覚えたり、自分の仕事の生産性向上を模索したりする機会が増えます。

状況によっては、復帰者が体力を要する職種・時間帯での勤務に就けなくなるケースも考えられるため、それを補うため従業員同士の連携が強化されれば、結果的に部署全体の業務効率化も期待できます。


特定のスタッフに依存しない体制の構築

多くの仕事を任されている人材が、育児休暇・介護休暇で職場を離れてしまうと、現場が回らなくなってしまう恐れがあります。

特に、これまで男性が育児休暇により職場を長期的に離脱する状況を想定していなかった職場においては、すべてのスタッフが様々な業務に従事する機会を増やすことで、特定のスタッフに依存しない体制構築に繋がるメリットがあります。

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育児介護休業法改正における実務上の注意点

2025年に改正法が施行されると、企業に新たな義務が生じるため、実務レベルで何をすべきなのか事前に把握することが大切です。 


実務上の注意点①:社内の環境整備

今回の法改正では、企業側に義務付けられた項目が多いことから、まずはそれらの義務を果たせるよう環境整備を進めていく必要があります。

特に、柔軟な働き方を実現するための措置に関しては、思い立ったらすぐにスタートできる職場ばかりではありません。

よって、改正法で認められている働き方のうち何を選ぶべきか、各部署の責任者と相談しながら無理のない措置を講じることが求められます。


実務上の注意点②:意向聴取と配慮・個別周知・意向確認

法改正により、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に関しては、今後の働き方について企業側で個別にヒアリングし、その意向に配慮しなければなりません。

その際、面談等の措置を講じる必要があるため、従業員に分かりやすいよう手続きの流れをまとめておくのはもちろん、必要に応じてオンラインで手続きができるような仕組みを構築しておくことも重要です。


実務上の注意点③:休業取得後の対応

従業員が育児休業・介護休業を取得したら、各種給付金の手続きのため、正確な給付金額の算出が必要です。

健康保険・厚生年金保険の保険料免除は、取得日数やタイミングによって免除されるかどうかが変わってくるため、人事労務ではシステム等による自動判定ができるよう体制を整えておくと、実務がスムーズに進むでしょう。


育児介護休業法関連の厚生労働省公式パンフレットもチェック

厚生労働省では、育児介護休業法のほか、男女雇用機会均等法、職場におけるハラスメントなど、労働者の雇用に関連する各種パンフレットを用意しています。

より詳細な情報を知りたい方は、以下リンクから必要なものをチェックしておきましょう。

厚生労働省|パンフレット


まとめ

2025年から段階的に施行される改正育児介護休業法は、企業にとって新たな義務が生じるため、事実上対応は不可欠なものと考えて良いでしょう。

テレワークなどの措置を実現しなければならない状況を踏まえ、企業としては早急に対策を講じる必要があります。

しかし、他社に先んじて対策を講じられれば、自社従業員の離職を防ぎ、新しい人材を確保できるチャンスが増えることに繋がります。

制度や社内規定を更新するほか、現在自社で働いている従業員向けに研修などを行い、社内全体で意識改革に努めましょう。


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ヒトクル編集部
記事を書いた人
ヒトクル編集部

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