【法改正】2025年以降の人事・労務関連の新ルールを解説
例年、人事・労務分野の法改正は実施されていますが、2025年は非常に多くの法改正の施行が予定されており、担当者には就業規則や労務管理に関する対応が求められます。
この記事では、人事・労務担当者が早い段階で知っておきたい、2025年以降の法改正のあらまし、実務上求められる対応などを解説します。
※【育児介護休業法改正】2024年5月に可決した2025年の変更点をわかりやすく解説
2025年~2028年までに施行される法改正一覧
まずは、2025年から2028年までの間に、どのような法改正が実施される予定なのか、年度ごとに確認していきましょう。
<2025年>
施行日 | 改正内容 | 対象 |
4月1日 | ①⾼年齢雇⽤継続給付の⾒直し | すべての企業 |
4月1日 | ②子の看護休暇の見直し | すべての企業 |
4月1日 | ③育児中の労働者に対する「所定外労働の制限(残業免除)」の対象を拡⼤ | すべての企業 |
4月1日 | ④育児のためのテレワーク導⼊の努⼒義務化 | すべての企業 |
4月1日 | ⑤育児休業取得状況の公表義務の拡⼤ | 従業員数300人超企業 |
4月1日 | ⑥介護休暇を取得できる労働者の要件緩和 | すべての企業 |
4月1日 | ⑦介護離職防⽌のための個別の周知‧意向確認と雇⽤環境整備等の措置が義務化 | すべての企業 |
4月1日 | ⑧介護のためのテレワーク導入の努力義務化 | すべての企業 |
4月1日 | ⑨次世代育成⽀援対策の推進‧強化 | 従業員数100人超企業 |
4月1日 | ⑩⾃⼰都合離職者の給付制限の⾒直し | すべての企業 |
4月1日 | ⑪出生後休業支援給付の創設 | すべての企業 |
4月1日 | ⑫育児時短就業給付の創設 | すべての企業 |
4月1日 | ⑬障害者雇⽤の除外率の引き下げ | 除外率適用企業 |
10月1日 | ⑭⼦どもの年齢に応じた柔軟な働き⽅実現のための措置等が義務化 | すべての企業 |
10月1日 | ⑮仕事と育児の両⽴に関する個別の意向聴取‧配慮が義務化 | すべての企業 |
10月1日 | ⑯教育訓練中の⽣活を⽀えるための給付の創設 | すべての企業 |
<2026年>
施行日 | 改正内容 | 対象 |
7月1日 | ⑰障害者の法定雇⽤率の引き上げ | すべての企業 |
<2028年>
施行日 | 改正内容 | 対象 |
10月1日 | ⑱雇用保険の適用拡大 | すべての企業 |
2025年から2028年までの法改正を数えてみると、実に18件もの法改正が実施されることになります。
それでは、上記を踏まえた上で、それぞれの法改正の内容について確認していきましょう。
①⾼年齢雇⽤継続給付の⾒直し(2025年4月1日施行)
高年齢雇用継続給付金は、法改正にともない、以下の通り給付率が変更されます。
給付率の見直しは、2025年4月1日以降に高年齢雇用継続給付金を受給開始する方から適用されます。
2025年3月31日以前から高年齢雇用継続給付金を受給している方は、従前通りの給付率で給付されます。
法改正前 | 法改正後 |
賃金の最大15% | 賃金の最大10% |
そもそも、高年齢雇用継続給付金は、以下の条件を満たす労働者に給付される給付金です。
- 雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
- 60歳以上65歳未満であること
また、法改正前のルールでは、「60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満」になった労働者に対して、賃金の最大15%が給付されました。
しかし、この法改正にともない給付率が減少してしまうと、シニア社員の収入が減ってしまうことが予想されます。
15%の給付率を想定した賃金水準を維持してしまうと、当然ながらシニア社員はこれまでよりも5%少ない収入でやり繰りしなければならず、自社から優秀な社員が離れてしまうことにも繋がりかねません。
さらに、「65歳までの高年齢者雇用確保措置の経過措置終了」や、2021年4月1日施行の法改正による「70歳までの高齢者就業確保措置」の努力義務化などが影響し、将来的にこの給付金が廃止されることも検討されています。
よって、企業にはシニア社員の賃金水準を抜本的に見直すことが求められます。
参考:厚生労働省「高年齢雇用継続給付について」
②⼦の看護休暇の⾒直し(2025年4月1日施行)
子の看護休暇は、育児介護休業法の法改正にともない、以下の通り制度が変更されます。
比較項目 | 改正前 | 改正後 |
名称 | 子の看護休暇 | 子の看護休暇等 |
対象となる子の範囲 | 小学校就学の始期に達するまで | 小学校3年修了まで |
取得事由 |
|
|
労使協定の締結により除外できる労働者 | ①引き続き雇用された期間が6ヶ月未満 | ①はなくなり、②のみが継続 |
改正前と改正後の内容を比較すると、対象となる子の範囲や取得事由が拡大されていることが分かります。
そのため、就業規則の育児・介護休暇規定においては、子の看護休暇の「対象となる子供の範囲」や「取得できる理由」を変更しなければなりません。
変更後は、資料を配布したり、説明会を開いたりして、従業員への周知が必要になるでしょう。
また、労使協定により「子の看護休暇の取得対象から除外する従業員」を定めている場合は、再度労使協定を締結し直すことが求められます。
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
③育児中の労働者に対する「所定外労働の制限(残業免除)」の対象を拡⼤(2025年4月1日施行)
所得外労働の制限(残業免除)に関しては、育児介護休業法の法改正にともない、以下の通りルールが変更されます。
改正前 | 改正後 |
3歳未満の⼦を養育する労働者は、 | ⼩学校就学前の⼦を養育する労働者は、 |
所定外労働の制限とは、子供を養育している労働者が希望すれば、企業側から残業を免除される制度のことです。
法改正によって、実質的に残業できない労働者が増えることになるため、企業としても法改正に対応できるような体制を整える必要があります。
具体的には、就業規則で育児・介護休業規程につき「所定外労働の制限を請求できる従業員の範囲」を変更しなければなりません。
なお、残業免除の請求に関しては、事業の正常な運営を妨げる場合に限り拒むことも可能です。
しかし、従業員がお互いにサポートに回れる体制の構築、フォローを担当できる実力のある従業員の配置など、企業として最低限取り組まなければならないレベルの努力は求められるでしょう。
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
④育児のためのテレワーク導⼊の努⼒義務化(2025年4月1日施行)
育児介護休業法の法改正にともない、3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるように努力することが義務付けられます。
対象 | 追加内容 |
3歳未満の子を養育する労働者 | テレワークを選択できるように環境を整えることが、 努力義務化 |
また、今回の法改正では、時短勤務が困難な労働者に講じるべき代替措置においてもテレワークが追加されることとなりました。
法改正前 | 法改正後 |
|
|
業種によっては、いきなり制度をガラリと変えてしまうと混乱を招くおそれがあります。
そのため、どのような措置が企業・従業員の双方にとって望ましいのか、従業員にヒアリングを行った上で取り組み・対応を検討することが大切です。
※参考:厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
⑤育児休業取得状況の公表義務の拡⼤(2025年4月1日施行)
育児介護休業法改正により、育児休業取得状況の公表義務が以下の通り拡大されます。
法改正前 | 法改正後 |
従業員数(常時雇用労働者数)が1,000人超の企業 | 従業員数300人超にまで対象拡大 |
育児休業の取得状況については、「男性労働者の育児休業取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。
■取得割合の計算方法(①②のいずれかの方法)
※厚生労働省「2025年4月から、男性労働者の育児休業取得率等の公表が従業員が300人超1,000人以下の企業にも義務化されます」
年に1回、自社ホームページや政府が推奨する「両立支援のひろば」など一般の方が閲覧できる方法で公表することが義務付けられています。
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法 改正のポイント」
⑥介護休暇を取得できる労働者の要件緩和(2025年4月1日施行)
育児介護休業法の改正にともない、介護休暇を取得できる労働者の要件が以下の通り緩和されます。
法改正前 | 法改正後 |
<除外できる労働者の条件> | <除外できる労働者の条件> |
これをふまえ、介護休暇を取得できる労働者に関して労使協定を締結している企業は、就業規則の見直しをする必要があります。
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
⑦介護離職防⽌のための個別の周知‧意向確認と雇⽤環境整備等の措置が義務化(2025年4月1日施行)
介護に直面した労働者に対しては、育児介護休業法の法改正にともない、以下の措置が義務化されます。
法改正前 | 法改正後 |
休業制度等の周知・取得意向確認の義務なし(努力義務) | 以下内容が義務化
|
これを踏まえ企業は、介護離職防止の措置について、就業規則の介護関連の規定を変更する必要があります。
雇用環境を整備したうえで、研修の実施や相談窓口の設置などをしたうえで、従業員に周知をしましょう。
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
⑧介護のためのテレワーク導入の努力義務化(2025年4月1日施行)
育児介護休業法改正により、要介護状態の家族を介護する労働者に対して、テレワークを選択できるように努力することが義務付けられます。
対象 | 追加内容 |
要介護状態の家族を介護する 労働者 | テレワークを選択できるように環境を整えることが、 努力義務化 |
介護と仕事の両立を図れるように、テレワークの導入を検討しましょう。
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
⑨次世代育成⽀援対策の推進‧強化(2025年4月1日施行)
次世代育成支援対策推進法により、100人超えの企業は「一般事業主の行動計画」の策定・届出・公表・周知が義務付けられていました。
法改正により2025年4月1日以降は、さらに育児休業取得に関する状況把握と数値目標が義務化されます。
法改正前 | 法改正後 |
労働者の仕事と⼦育てに関する「⼀般事業者⾏動計画」の策定‧届出、公表‧周知が義務 | 行動計画策定時に、以下内容が義務化される
|
従業員数100人超の企業が策定する行動計画に関しては、計画策定の際に改善しなければならない事情を分析するとともに、その結果をベースに新たな行動計画の策定・変更に繋げるという、いわゆる「PDCAサイクル」の確立が求められます。
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法 改正のポイント」
⑩⾃⼰都合離職者の給付制限の⾒直し(2025年4月1日施行)
雇用保険法等の法改正にともない、自己都合離職者の雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)の給付制限に関して、以下の通り見直されています。
法改正前 | 法改正後 |
|
|
給付制限の見直しにより、自己都合で離職した場合も原則「1か月」で失業手当が給付されます。
こちらの見直しに関しては、基本的に企業側で具体的な対応策をとる必要はありません。
しかし、従業員が離職する際の説明に関しては、その内容が変わることが予想されるます。
失業手当の給付に関する変更点について説明できるよう、担当者は知識をアップデートしておくことをおすすめします。
参考:厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
⑪出生後休業支援給付の創設(2025年4月1日施行)
子ども・子育て支援法、雇用保険法などの法改正にともない、出生後休業支援給付が創設されます。
対象者 | 給付内容 |
| 左記に加えて、最大28日間は休業開始前賃金の13%相当額を支給 別途、育児休業給付(給付率67%)は受給可能。 |
出生後休業支援給付の給付対象者は「雇用保険の被保険者」で、支給要件は「一定期間内に被保険者と配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得すること」となっています。
支給要件の“一定期間”には、男性は子供の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内が該当します。
また、配偶者が専業主婦(夫)の場合や、ひとり親家庭の場合は、配偶者が育児休業の取得要件を満たす必要はありません。
今回の法改正で、休業開始前賃金の13%相当額が支給されると、育児休業給付金と合わせて給付率は80%となるため、手取りでは10割相当の収入が確保される計算になります。
ただし、育児休業給付には支給限度額が設けられているため、従業員にはその点を説明する必要があるでしょう。
参考:厚生労働省「令和6年8月1日から支給限度額が変更になります。」
⑫育児時短就業給付の創設(2025年4月1日施行)
法改正前は、時短勤務で賃金が低下した際の支援が可能な制度がありませんでした。
しかし、子ども・子育て支援法、雇用保険法などの法改正にともない、新たに「育児時短就業給付」が創設されており、概要は以下の通りです。
対象者 | 雇用保険の被保険者 |
要件 | 2歳未満の子を養育する目的で時短勤務をしていること |
支給額 | 時短勤務中に支払われた賃金額の10% |
育児介護休業法において、3歳未満の子を養育している労働者は、時短勤務を選ぶことができます。
その代わり、受け取れる給与額が少なくなってしまうことから、収入を減らさないためにフルタイム勤務を継続する人も一定数存在しています。
今回の育児時短就業給付は、そういった時短勤務の短所となる部分を補強する制度となるため、より多くの労働者が時短勤務を選びやすくなることが予想されます。
対象年齢は2歳未満に限られますが、制度の仕組みを正しく自社の従業員に伝えることで、従業員の離職を未然に防ぐことに繋がります。
なお、これを踏まえ企業が取り組むべき対応としては、次のようなものがあげられます。
- 制度の給付対象となる従業員への個別周知
- 社内イントラネット等による全社員への情報公開 など
参考:厚生労働省「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」
⑬障害者雇⽤の除外率の引き下げ(2025年4月1日施行)
除外率設定業種・除外率は、2025年4月1日から以下の通り変更されます。
除外率設定業種 | 改正前除外率 | 改正後除外率 |
| 25% | 5% |
| 30% | 10% |
| 35% | 15% |
| 40% | 20% |
| 45% | 25% |
| 50% | 30% |
| 55% | 35% |
| 60% | 40% |
| 65% | 45% |
| 70% | 50% |
| 90% | 70% |
障害者雇用促進法の改正により、これまで設定されていた除外率は、一律で10ポイント引き下げられることが決まりました。
また、これまで除外率が10%以下だった業種に関しては、0%(除外率制度の対象外)となります。
除外率が引き下げられると、それにともない雇用人数は増加することになるため、企業は法改正後に必要な雇用人数が何人なのか確認しつつ、新たに採用計画を立てる必要があるでしょう。
参考:厚生労働省 「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
⑭⼦どもの年齢に応じた柔軟な働き⽅実現のための措置等が義務化(2025年10月1日施行)
育児介護休業法の法改正にともない、すべての企業(事業者は)は、3歳以上~小学校就学前の子供を養育する労働者に対して、以下のいずれかの“2つ以上”選んで利用できるようにしなければなりません。
措置 | 詳細 |
始業時刻等の変更 | 以下のいずれかの措置(1日の所定労働時間を変更しない)
|
テレワーク等(10日以上/月) | 1日の所定労働時間は変更せず、月に10日以上利用できるもの |
保育施設の設置運営等 |
|
就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇) | 1日の所定労働時間は変更せず、年に10日以上利用できるもの |
短時間勤務制度 | 1日の所定労働時間につき、原則6時間とする措置を含むもの |
従業員は、上記のいずれかのうち事業者が選択した措置から、1つを選んで利用できます。
また、企業は選択した措置につき、対象の従業員に面談・文書交付などによる個別の周知・意向確認も行う必要があります。
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
⑮仕事と育児の両⽴に関する個別の意向聴取‧配慮が義務化(2025年10月1日施行)
育児介護休業法の法改正にともない、すべての企業(事業者は)は、労働者の妊娠‧出産の申出時、⼦どもが3歳になる前の適切な時期に、労働者の意向を個別にヒアリングしなければなりません。
具体的な時期や聴取内容、聴取方法は以下の通りです。
聴取の時期 |
|
聴取内容 |
|
方法 | 面談、書面交付、FAX、電子メールのいずれか
|
ヒアリングの時期に関しては、上記のほか「育児休業後の復帰時」や、「労働者から申出があった際」にも実施するのが望ましいとされます。
また、ヒアリングした労働者の意向への配慮については、次のような配慮があることが望ましいとされます。
子に障害がある場合等 | 短時間勤務制度・子の看護等休暇等の利用可能期間延長への配慮 |
ひとり親家庭の場合 | 子の看護等休暇等の付与日数への配慮 |
参考:厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
⑯教育訓練中の⽣活を⽀えるための給付の創設(2025年10月1日施行)
労働者が自発的に教育訓練を受けるために仕事から離れ、それを理由に収入が途絶えた場合でも、法改正前までは教育訓練中の生活支援はありませんでした。
しかし、雇用保険法などの法改正が実施されたことで、2025年10月1日からは「教育訓練休暇給付金」が創設され、以下条件に該当する労働者は給付金が受給できるようになります。
対象者 | 雇用保険の被保険者 |
要件 |
|
支給額 | 離職した場合に支給される基本手当の額と同じ |
給付日数 | 被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれか |
この制度がもたらす企業へのメリットとして考えられるのが、いわゆる「リスキリング」など従業員の新たなキャリア形成に繋がる点です。
例えば、自社で教育訓練休暇(無給)を長期休暇の一種として創設すると、従業員は給付金を頼ることで生活への不安なく教育訓練を受けられることから、結果として従業員のスキルアップ・生産性向上などが期待できます。
それを踏まえ、企業が取り組むべき対応としては、次のようなものがあげられます。
- 自社で支給対象となる従業員の把握
- 教育訓練休暇給付金の制度周知(自社の長期休暇に関する説明も含む)
- 社内における人材育成計画の見直し など
参考:厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
⑰障害者の法定雇⽤率の引き上げ(2026年7月1日施行)
障害者雇用促進法の改正にともない、2026年7月1日以降、障害者の法定雇用率は以下の通り引き上げられます。
| 法改正前 | 法改正後 |
民間企業の法定雇用率 | 2.5% | 2.7% |
対象事業者の範囲 | 40.0人以上 | 37.5人以上 |
すべての企業では、従業員数の一定割合以上の障害者を雇用する義務があり、その割合は「法定雇用率」と呼ばれます。
ここでの「従業員」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上で、1年を超えて雇用されている(見込みも含む)労働者が該当します。
また、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である場合、その労働者は「短時間労働者」となり、1人あたり0.5人として計算されます。
そして、法定雇用率が上昇するということは、これまでと同じ人数の従業員を雇用していても、雇用しなければならない障害者の人数が増えることを意味します。
例えば、現在自社で働いている従業員の数が200人だった場合、雇用人数は「200人×2.7%=5.4人」となり、そこから小数点以下を切り捨てると、最低でも5人以上の障害者を雇用しなければなりません。
参考:厚生労働省 「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
⑱雇⽤保険の適⽤拡⼤(2028年10月1日施行)
雇用保険法などの法改正にともない、2028年10月1日以降、雇用保険の加入対象となる労働者の範囲が以下の通り拡大されます。
改正前 | 改正後 |
| 1週間の所定労働時間が「10時間以上」であることに改定された |
それにともない、各種基準等についても、以下の通り変更されます。
| 改正前 | 改正後 |
被保険者期間の算定基準 | 以下のいずれかのケースを「1月」とカウント
| 以下のいずれかのケースを「1月」とカウント
|
失業認定基準 | 1日の労働時間が4時間未満にとどまる場合は失業日と認定 | 1日の労働時間が2時間未満にとどまる場合は失業日と認定 |
法定の賃金日額の下限額 | 給付率が80%となる点(屈折点)の額の1/2 | 給付率が80%となる点(屈折点)の額の1/4 |
最低賃金日額 | 最低賃金(全国加重平均)で週20時間を働いた場合を基礎として設定 | 最低賃金(全国加重平均)で週10時間を働いた場合を基礎として設定 |
このような法改正に至った背景には、雇用労働者の中で働き方・生計維持の在り方が多様化しており、そのような動きに対して雇用のセーフティネットを拡げたいという政府の思惑があります。
こちらは非常に大きな変更点の一つであることから、企業としても次のような対応が求められます。
- 雇用保険の加入対象となる従業員(パート・アルバイト)の再確認と説明準備
- 自社で負担する大まかな雇用保険料の算出
- 新しく加入する従業員の資格取得手続き準備 など
参考:厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律」
法改正(2025年以降)に対応するには何が重要?
続いては、中小企業が2025年以降の法改正に対応するための重要なポイントについて、主なものをいくつかご紹介します。
中小企業が取り組むべき、実務面での基本的な対応
複数の法改正が待ち受ける中、中小企業がまず取り組むべき基本的な対応としては、次の3つがあげられます。
就業規則や人事制度の改定 |
|
働いてくれている従業員のケア |
|
法改正に向けた体制構築 |
|
法改正のための行動計画を策定・遂行する
行き当たりばったりで法改正を進めようとしても、対応が思い通りに進む可能性は低いでしょう。
法改正の内容を正しく理解しようとするのは必須ですが、それに加えて「行動計画」を策定することが、法改正の対応をスピーディーに進めることに繋がります。
具体的には、次のような流れで行動計画を策定・遂行するとよいでしょう。
①対応方針の決定 |
|
②重要な変更点の特定 | 法改正による重要な変更点を、社内調査で特定する |
③スケジュール設定・管理 | 改正施行日を見据えて、対応完了時期をスケジュールで設定し、進捗を確認する |
従業員への周知・教育
経営陣や採用担当者だけが法改正の内容を理解していても、それだけでは不十分です。
実際に勤務する従業員に対しても、法改正に関する知識を共有できるよう、以下のような形で周知・教育を実施することが大切です。
説明会の実施 | 法改正をテーマにした説明会を実施することで、従業員に具体的な改正内容や業務との関連性について説明する |
資料・教材の準備 | 改正内容に関するマニュアル・資料を用意したり、eラーニングができる教材を整備したりすることで、必要に応じて従業員が法改正に関する知識を得られるよう準備する |
サポート体制の整備 | 従業員から質問を受けた際、上司や人事担当者によるサポートが受けられるような体制を整える |
将来の改正を想定した人事制度の柔軟化
今回に限った話ではなく、法改正は今後も継続的に実施されることが予想されるため、できるだけ「将来の改正を想定した」人事制度を構築しておくと安心です。
2025年は特に人事労務面での法改正が重なるタイミングのため、これを機会に次の観点から人事制度の再構築を試みましょう。
人材戦略・キャリアパスの再検討 | プロフェッショナル人材としてのシニア層の活用や、それを踏まえた新しいキャリアパスを想定する |
多様な働き方の実現 | フレックスタイム制やリモートワークなど、従業員の多様な働き方を実現できる制度の導入を進める |
法改正への対応力向上 | 法改正の情報収集体制強化や、社内が効率的に連携するための仕組み作りなど、将来の法改正への対応力を向上させる |
まとめ
2025年から2028年にかけて施行される法改正は、ほぼすべての企業に当てはまる法改正にあたるため、対応策を取らずに済ませるのは難しいでしょう。
2024年11月時点で対策を講じていない、または法改正への対応方針を固めていない企業は、できる限り早く法改正に向けた準備を進めることが大切です。
ただし、今回の法改正は企業側主導で進めるのではなく、育児・介護従事者やシニア労働者など、法改正に直接関係する従業員の意向を確認することを忘れないようにしましょう。
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求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。