「お客様にすると、勘違いする」~新入社員を迎える前に気をつけておきたい事~vol.2
はじめまして、株式会社Reprojectの大谷と申します。私は、「思い描く、あるべき姿に生まれ変わる」を企業コンセプトに組織活性化のご支援をしております。
人材不足と叫ばれる昨今、せっかく採用した新入社員です。今後活躍してもらうためには、個人のキャリア・組織の成長の両方にプラスになるようきちんと「成長」してもらう必要があります。
本連載では、筆者の体験談をもとに新入社員を迎える際に心がけるべき意識とコツをいくつか取り上げたいと思います。
Vol1:新入社員を迎える前に気をつけておきたい事~安易な離職と指示待ち人間を生まないために~
熱心に指導すれば成長するのか?
Vol.1でもお伝えしたように、当時20代後半、部下のやる気を削ぐ勘違い上司であった私は、部下にどのように接したら良いのだろうかと模索し思い悩んでいました。
任せられた中規模支店は、「自分」が、がむしゃらに働くことで好成績を出すことはできましたが、人の入れ替わりは多く、常に気持ちを張り詰め、昼夜問わず目一杯働くという状況でした。
今考えると、ただ力づくで行っただけの張りぼての成績だったではないかと思い起こします。
そんななか、当時の私は「このままではまずいのではないか・・・」と考えはじめ、新しく入社する人たちに対して、逐一、事細かく仕事のやり方や注意すべき点を熱心に指導するということを始めました。
自分が経験してきた中で事前に注意しなければならないことを先回りして答えを教え、事細かくどのように業務を行うのかを熱心に指導していきました。
「こういう場合は、これに注意しないとダメだよ。注意しておかないとこんな失敗しちゃうからね。」
「これをやるときは、まずこれから始めて、次にこうして、その後こうして、こうして・・・」
といった具合です。
きっとこうすれば、部下も効率的に仕事をこなし、うまく回っていくはずだと考えていました。
しかしながら、結果はどうなったかというと、
「部下が仕事のやり方を逐一聞いてくる」いう更に忙しくなるという状況になってしまいました。
常に指示を求め、その都度やり方を指示しなければならなくなってしまったのです。
常に指示を仰いでくるという状況に対し、最初はその都度対応していたのですが、あまりの数の多さに「そのくらいは自分で考えて仕事してくれよ・・・」とつい漏らしてしまうと、今度は「教えてくれない」「指示してくれない」という不満の声が上がってくるということとなってしまったのです。
お客様にすると勘違いする
前述の失敗を振り返った時に、何が問題だったのかを改めて考えてみると、「新入社員を『お客様』にしてしまった」ことが原因だったのだと考えられます。
「お客様」であれば、自分で動かず、考えず、良い結果が得られることほど良いことはありませんが、新入社員は「お客様」ではありません。
良かれと思って、1から10まで事細かく準備してあげたことは、「自分で何も考えなくてもよい」というある種「甘やかした」状態にしてしまったということです。
こんな現象を表すものに「おばあちゃん子は三文安い」という言葉があります。
これは孫がかわいくて仕方のないおばあちゃんが、困ったことは何でも先回りして世話をしてあげてしまうので、やがて自分一人では何もできない人物になってしまうという、昔から起きてしまいがちな現象を示す言葉です。
前述の状況を当てはめてみると「自分が考えなくても上司(おばあちゃん)が考えてくれるから、いいや」と思ってしまったというところでしょうか。
更に、自分で考えて行った事でなければ、もし失敗したとしても「自分の責任ではなく上司のせい」という思考に陥ってしまうのも仕方のないことなのかもしれません。
つまり、部下に成長してもらうためには何でも先回りしてやってあげる「お客様」にしてはならなかったのです。
「自分で為し得た」という感覚を持ってもらう
では、部下が自分で考え行動し、成長してもらうためにはどうしたら良いのでしょうか?
それは自分自身を振り返り、困難を克服した時のことを思い出すとヒントがあるかもしれません。
誰に聞いたらよいかわからない手探り状態だったのに、自分一人の力で何とか課題を克服する方法を見つけた時、あなたは心の中でとても誇らしい気持ちになったのではないでしょうか。
この「自分で何事かを為し得た」というこの感覚は心理学用語では「自己効力感」と呼びます。
自己効力感は、その行動を実際に始めるかどうか、どのくらい努力を継続するか、そして困難に直面したときにどのくらい耐えられるか、ということを決定づける。
自己効力感を高める方法として、
成功体験 、代理体験(同じような能力の人間が努力し成功しているのを見る)、 言語的説得(励まされる)、生理的状態(心身の状態が良好なこと)の4つが挙げられる。
この中でもっとも強い効力感が期待できるのは成功体験だが、その場合、たやすく成功するのでは意味がなく、「効力感の強さには、忍耐強い努力によって障害に打ち勝つ体験が要求され、人間がものごとを遂行していく上での困難やつまづきは、成功するためには絶えず努力することが必要なのだということを教える役割を果たしている。」とバンデューラは述べている。
アルバート・バンデューラ(1925- )
自己効力感や社会的学習理論で知られるカナダ人心理学者。カナダのブリティッシュコロンビア大学を卒業後、1952年、アイオワ大学にて博士号を取得。アメリカのスタンフォード大学の心理学教授を長く務め、1974年には、アメリカ心理学会会長も務めた。
1950年代後半、当時優勢であった行動主義学習理論の中で、社会的学習理論(モデリングによる学習)を提唱したことでも知られる。
「自分の力で成し遂げる事ができた。」と感じられた時、上記で述べた「成功体験」を得た時に人は自己効力感(自信)を持つことができ、そしてもっといろんなことにチャレンジしようというさらなる熱意が湧いてきます。
しかし、先回りして「そうすると失敗するよ。こうしたほうがいいよ」と丁寧に教えてしまうと、自分自身の力で答えをみつけだすという快感を得られぬまま終わってしまい、仕事がつまらなくなり、指示待ち人間となってしまいます。
失敗しないようにと、親切心で事細かく熱心に教えようとしたことが、逆にアダとなってしまうこともあるのです。
承認し、次どうしていくかを促す
筆者の例で言えば、新卒で入社した当初、私は「電話をかける」という行為がとても苦手でとても嫌いでした。とはいえ、避けて通れる道ではなく、人材会社であるため登録している求職者の方に連絡をとり、定期的に状況をヒアリングするというのは必須の業務でした。
入社して半月経った頃、当時の上司のS支店長から「大谷君、まずはこのリストにある人に電話をしてもらって、最近の状況をヒアリングしてください。」と指示がありました。
どのように行うのかの特段の指示はなく、「大丈夫!よろしく!」とだけ・・・。
しかしながら、電話をかけるという行為自体が苦手な私は、電話をかけようとすると、緊張でどう話したらよいのかも分からず、手に汗、額からも流れ落ちる汗が止まらず、持っていたタオルが湿ってくるほどです。
新入社員研修で電話のかけ方は教わりましたが、実際に電話をすると最初はもう何を話しているのかも自分でもわからないほどしどろもどろで、1件の電話をし終えては10分ほど気持ちを落ち着けて、また次の人へ電話をするといった感じです。
しかしながら、S支店長からは特に何もアドバイスもダメ出しもなく、自分のデスクで自分の仕事をしている様子・・・。
そんなこんなで悪戦苦闘しながら、リスト全員に電話をし終えたことを伝えると、
「お疲れ様。どうだった?」
と質問がきます。
電話をかけるペースが遅くて叱られるのではないかと思っていた私は拍子抜けです。少し気持ちが楽になり、
「緊張して、もう自分で何をしゃべっているのか分からなくなってしまいました。」
と伝えると、
「そうだね。すごく緊張してたけど、頑張ってたね。次はどんなことを気をつけて電話しようか?」
と質問が来ます。
「次はもう少し落ち着いて、話が聞けるようにしたいと思います。」
と答えると、
「そうだね、次はもう少し落ち着いて電話ができるようになるといいね。」
という言葉をもらい、初日が終わりました。
そんなこんなで、どうやって電話で話したらよいのだろうか?などと色々試行錯誤をし、悪戦苦闘をしながら電話をかける日々が続いたある日、ふとあることに気づきます。
「あれ?そういえば最近、緊張せずに電話ができてるかも。『こんな風に聞いたら、うまく答えてくれるかも』って考えて話をしたことも、うまくいってるし。もしかしたら、電話業務上達してる?」と。
きっと、この時が入社して初めて私が味わった「自己効力感」だったのだろうと思います。
こんな風に、今一度自分自身を振り返ってみた時、苦労したことは必ずしも嫌な事ばかりではなかったのではないでしょうか。
「できない」が「できる」に変わったと自分で認識できた時、何か一つ自分が成長したような気持ちになったのではないでしょうか。
もし4月から新入社員に接することが決まっている方は、「答えを教える」のではなく、「どうやったらできるようになった快感」を得られるようになるのかを考えてみると良いのではないでしょうか。
次回は「トランジションサイクル」をテーマにお伝えできればと思います。
大手人材サービス会社に新卒入社。マネージャーとして、多くの新規出店、立て直し事業に従事。そこで身につけた実践力を武器に独立。組織活性化のためのビジョン明確化~課題発見~アクションプランの策定を得意とし、自らも組織コンサルタント、研修講師として様々な企業問題解決に取り組んでいる。
「思い描く、あるべき姿に生まれ変わる」が企業コンセプト。クライアントが目指すビジョンを、時間をかけじっくりと明確化させたうえで行うコンサルティングは、満足度の高さに定評がある。
株式会社Reproject代表取締役 静岡大学教育学部卒。2級キャリアコンサルティング技能士。趣味は園芸。
HP:https://re-pjt.com/