【実例】『お掃除のおばちゃん』あつかいは一切なし!客室清掃のパートが辞めないホテルで実践していることとは?
人手不足で「客室クローズ」のホテルもあるなかで
前回、前々回と、パート・アルバイトさんの早期離職を防ぐ方法について、解説しました。
※面接で自社を「盛り」すぎていませんか?面接のスタンスで早期離職を防ぐ、その方法とは?
※入社時フォローで早期離職を防ぐ方法~チェックリストを活用しよう。
今回はいよいよ、定着についてです。入社してくれたパート・アルバイトさんに、自社で長く働いてもらうには、いったいどうすればよいのでしょうか。
これを考えるために、まずは事例を紹介したいと思います。
事例はとあるホテルです。今年1月から10月30日までに日本を訪れた外国人観光客の数が、推計値で初めて2000万人を上回る(観光庁)など、ホテル需要はこれまでになく白熱しています。
おのずから客室の単価もあがり、ホテル業界は笑いが止まらない・・・かと思いきや、客室の一部を敢えて稼働させないホテルが出ています。人手不足により、客室清掃やルームサービス等が間に合わないから、というのがその理由。ホテルは、「今日売るはずの部屋」を明日、売れません。まさに苦渋の選択と言えるでしょう。
そんななか、客室清掃を行うパートさんの定着が、とてもよいホテルがあります。ある県の県庁所在地駅から徒歩3分の立地にある、古いビジネスホテルです。
以前の『お掃除のおばちゃん』扱いとは全然違う
客室清掃パートは、人気の高い職種とはいえません。では、なぜ、このホテルでは、皆が辞めずに働き続けているのでしょうか。
その理由を、このホテルで働くスタッフの一人、勤続5年のAさんに聴いてみました。すると、こんな答えが返ってきました。
「今の上司がとてもよくて、私たちのことをとても大事にしてくれるんです。かつて勤務していた職場のような、『お掃除のおばちゃん』扱いとは全然違います。上から目線なところが一つもなく、繁忙期に社長から『集中して早く掃除して、チェックイン開始時刻に間に合わせてくれてありがとう』と言われたときは、感動しました。私たち一人ひとりのことをよく考えてくれていると思うし、立場が上の方から声を掛けてもらえると、張り合いが違います。
しかも、昨年は時給も上がりました。私たちの頑張りが実って、リピートのお客さまが増え、客室稼働率が上がり、利益が高まったから、と、社長からうかがいました。すごくうれしかったですし、これだけ時給を上げてくれるのですから、期待に応えたいとも思います。設備が古く狭いので大変ですが、洗面所の排水溝など光っているものはとにかく磨きます。パート同士で話し合ったり、連携したりして、より完璧な清掃を目指しています」
派閥がないから、イジメにならない
もう一人、入社して丸一年になるBさんは、前職との違いが大きいと、話してくれました。
「前の職場は、人間関係で辞めました。イジメにあったのです。でも、ここにはありません。感情のすれ違いがあっても、派閥がないから、イジメにならないのだと思います。あと、お客さまアンケートの存在も大きいですね。
『清潔で気持ちよかった』って書いていただくのが一番うれしいし、反対に『髪の毛が落ちていた』などと書かれることがあると、ううーっ、って思います。悔しくて、残念で。
会長から『100引く1は、ゼロ』のお話を聴きました。どこか1室でも完璧でないお部屋があると、他もそうだろうと思われてしまう、というお話です。そうならないように、頑張ろうって思います」
ちなみに「お客さまアンケート」とは、客室に、はがき大のアンケート用紙を置いておき、ご宿泊のお客さまに満足度などについて書いていただくもの。これをこのホテルでは、毎月1回全社員を集めて約2時間、トップがすべて読み上げているのです。
お客さまアンケートと飲み会が潤滑油
同ホテルのマネジャーはこう話します。
「実はうちのホテルは、一度つぶれかけました。その後、今のトップに経営が変わり、以来『圧倒的な清潔感とアットホームなサービス』を目指して、全社一丸となり取り組んできました。
この『全社一丸』の柱になってくれたのが、お客さまアンケートです。最初は枚数も少なく、『狭い』など苦情ばかりだったのが、お客さまの声を全員で真摯に聴き、改善していった結果、今ではお褒めの内容のアンケートが、年間で20センチ近い高さになるくらい集まるようになりました。これがスタッフ全員の励みとなり、仲間意識を高めてきたと思います」
要するに、お客さまアンケートを中心に、全員の協力体制ができています。加えて、その協力体制をさらに高める工夫もありました。それが、客室清掃が一段落する午後2時過ぎからスタートする「パートさん全員参加の飲み会」です。これを、トップやマネジャーも参加して、定期的に開催しているのです。
マネジャーは続けます。
「すごく風通しがいいので、パート同士でお休みの融通を利かせたり、私にも気軽に相談してもらえます。そんな『お互いさま』の空気があることが、さらなる働きやすさ、ひいては定着につながっているのだと思います」
今回はパート・アルバイトさんが定着している職場の実例をご紹介しました。次回は、「どこがわかれ道?パート定着のための必須3要素とは?」についてご紹介いたします。
早稲田大学卒業。1996 年に求人広告企業アイデムに入社。同社人と仕事研究所にて、「人とマネジメント情報誌」の記者・編集者を担当後、編集長を経て、2009 年よりアイデム人と仕事研究所所長。
この間、パート・アルバイト、女性社員の採用・戦力化、CS、ES、評価・賃金・教育制度、モチベーションアップ、マネジメントなどをテーマに、数多くの企業と働く人を取材する。また『パートタイマー白書』の企画・調査等に携わり、現場情報に詳しい。
2013年に独立し株式会社働きかた研究所を設立。企業に向けて「パート・アルバイトの採用・定着・戦力化」「女性社員の活躍 」等、コンサルティング活動を行う。他に、厚生労働省等各種公的委員会の委員、専門誌への執筆、講演も多数。米国CCE,Inc.認定GCGF-Japanキャリアカウンセラー。一般社団法人エチケット・サービス向上協会理事。著書に『パート・アルバイトの活かし方・育て方~「相思相愛」を実現する10ステップマネジメント~』『なぜあの会社には使える人材が集まるのか~失敗しない採用の法則~』(共にPHP研究所)などがある。
働きかた研究所
http://hatarakikata.co.jp