労働条件通知書と雇用契約書の違い|記載事項や兼用・交付についても解説
こんにちは、人事・採用担当者のためのお役立ちサイト ヒトクルのヒトクル編集部です。
新入社員が入社するにあたり、多くの企業では労働条件通知書、または雇用契約書を発行しますが、厳密にはそれぞれの書類の意味合いが違います。
この記事では、主に雇用契約書の導入を自社で検討している人事・採用担当者向けに、労働条件通知書と雇用契約書の違いや記載事項、交付のタイミングや対象者について解説します。
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労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、企業が労働者と雇用契約を結ぶにあたり、交付が義務付けられている書類です。
主な記載事項としては、賃金・労働時間・休暇などに関することがあげられます。
詳しくは後述しますが、労働条件通知書に明記する内容は、大きく以下の2つとなります。
- 絶対的明示事項:法的に明記することが定められている内容(雇用条件によって記載内容が異なる)
- 相対的明示事項:口頭による通知でも問題ない内容
労働条件通知書の取り扱いについて、企業が特に注意しなければならないのは、その効力の強さです。
労働条件通知書は法的に交付義務のある書類であり、企業に比べて立場が弱い従業員を守る意味合いもあるため、間違っても未交付のまま労働者を働かせないよう注意しましょう。
なお、2019年の法改正に伴い労働基準法施行規則も改正され、労働者が希望した場合は、労働条件通知書で明示する内容をFAX・電子メール・SNS等でも明示できるようになりました。
よって、後述する雇用契約書につき、電子契約に切り替えることも可能になります。
雇用契約書との違いについて
雇用契約書とは、労働契約書とも呼ばれ、労働者を雇用する際に企業と労働者との間で取り交わす契約書の一種です。
簡単にまとめると、労働条件の中でも「重要な事項」を取り決め、書面化したものと言えます。
企業と労働者との間で、労働契約の内容を明らかにするため用いられる契約書であり、日本人だけでなく外国人労働者と雇用契約を結ぶ上でも重要です。
一般的な記載内容としては、給与・就業場所・時間に加えて、業務内容・昇給・退職に関することも記載されます。
また、新卒採用・外国人採用においては、例えば「大学等を卒業したら雇用する」・「ビザを取得できたら雇用する」といった、停止条件付雇用契約の条文を書き加えることも重要です。
一般的には、2部を作成して署名・押印した後、企業・労働者それぞれで保管します。
また、労働条件通知書と雇用契約書には、以下のような違いがあります。
書類の種類 | 交付について | 義務について |
---|---|---|
労働条件通知書 | 企業から労働者へ 交付するもの ※(一方通行のやり取り) | 交付は義務 |
雇用契約書 | 労働条件(契約条件) に対する双方の合意を示す ※(企業、労働者それぞれのための書類) | 法律上、 作成する義務はない |
上記の表について補足すると、雇用契約書の交付義務は、労働基準法や労働契約法では定められていません。
雇用契約書を作成する根拠となるのは民法で、第623条の規定に基づいて交わされます。
しかし、法的に作成義務があるわけではないので、企業が用意しなかったとしてもペナルティはありません。
それでも、企業・労働者ともにお互い納得済みで就労することを証明する書類であることから、ある意味では労働条件通知書よりも重要な書類と言えるかもしれません。
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法的に必要とされる理由について
労働条件通知書を交付する根拠は、労働基準法第15条に記されており、各種労働条件は書面などで明示しなければならないことが定められています。
そして、企業にとって労働条件通知書の存在は、単純に労働者に対して労働条件を説明する以上の意味を持ちます。
仮に、明示された労働条件が事実と違う場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます。
万一、企業側による労働条件の明示違反が明らかになった場合、30万円以下の罰金に処せられます。このように、労働条件通知書の不備は、企業側に与えるダメージが大きいため、慎重に作成しましょう。
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企業側があえて「雇用契約書」を作成するメリット
労働者に労働条件通知書を交付していれば、法的には問題ないため、あえて雇用契約書を作成する必要性は薄いのではないかと考える人もいるでしょう。
しかし、会社と従業員とのやり取りにおいては、やはり雇用契約書を作成した方が確実です。
雇用契約書が証明するものは「お互いの納得」
労働基準法上は、労働条件通知書の交付、またはメール等の電磁的方法で通知することにより、義務を全うしたことになります。
しかし、雇用契約書は「従業員と企業の双方が契約内容に合意した」ことを示すものなので、お互いに取り交わした際の「納得感」が違います。
もし、企業と従業員との間に労使トラブルが発生した際、企業からの一方的な交付だけだと、将来的に、
「自分は(労働条件通知書を)もらっていない」
「契約内容と労働条件通知書の内容に違いがある」
という申し立てが生じ、大問題に発展してしまうおそれがあります。
企業と労働者が取り交わす雇用契約書には、お互いの署名・捺印があるため、間違いなく契約内容に納得して働いていることの証明になります。
雇用契約書の署名が直筆だった場合、例えば筆跡鑑定などの方法を使って、本人が書いた文字であることを証明できるでしょう。
押印があれば、従業員から印鑑証明をもらうことで、印影による証明が可能になります。よって、雇用契約を結ぶ場合は、雇用契約書の方が安心できるのです。
現場で取り交わすのは「労働条件通知書兼雇用契約書」
ここまで読み進めてきた人の中には、
「労働条件通知書と、雇用契約書は別々に作るのだろうか?」
と、疑問に感じる人もいるでしょう。
この点について人事の現場では、実務上の都合から「労働条件通知書兼雇用契約書」という形で、それぞれの書類を兼用する仕組みを設けている企業が多く見られます。
つまり、雇用契約書を作成する段階で、労働基準法で定められている「書面による労働条件の明示」も合わせて行う形になります。
労働条件通知書兼雇用契約書は、すべての企業で統一された書式があるわけではありませんが、イメージとしては労働条件通知書の末尾に、
「上記内容に同意し、確かに書面を受け取りました」
などと一文を加えて、その下に署名・捺印欄を設ける形です。
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労働条件通知書の書き方と項目
労働条件通知書に記載する内容は、絶対に書面で明示しなければならない項目と、口頭での明示でOK のものがあります。
また、有期雇用労働者を雇用する場合に明記しなければならないものもあるため、各項目について理解を深めておきましょう。
絶対的明示事項
労働条件通知書に必ず記載しなければならないのは、次の項目です。
項目 | 詳細 |
---|---|
契約期間 | 期間の定め(あり、なし)について記載する 期間の定めがある場合は、具体的な年月日も記載する |
就業場所 | 実際に働く店舗名・会社名・支店名を記載 複数の拠点がある場合は、住所まで具体的に記載 変更の可能性がある場合はその旨も記載 |
従事すべき業務の内容 | 業務内容を具体的に記載 ※(経理、総務、人事など) 業務内容の変更(配置転換)の可能性がある場合は明記 |
始業・終業の時刻 | 業務開始・終了時間を記載する シフト制に関しては、別途参照資料の添付もOK |
所定労働時間を超える労働の有無 | 残業があるかどうか「有・無」の形で記載 |
休憩時間・休日・休暇 | 休憩時間は「(○○)分」の形式で記載 休日は所定の休日について記載 休暇は年次有給休暇、代替休暇の有無、その他の休暇について詳細を記載 |
就業時転換に関する事項 | 労働者を2組以上に分けて就業させる場合は、その詳細を記載 例えば、 ・始業、終業の時刻は勤務割によって1ヶ月ごとに定めること ・勤務割は対象期間の起算日までに書類で通知すること など、勤務パターンについて記載 |
賃金に関する事項 | 賃金の締切日・支払日・支払方法を記載 |
退職に関する事項 | 定年制の有無、継続再雇用の有無について記載 自己都合退職の際の手続き(何日前までに届け出るのかなど)も記載 解雇事由と手続きについても記載 |
有期雇用労働者のケース
2015年4月に改正されたパートタイム労働法では、短時間労働者・有期雇用労働者を雇用する場合、次の4項目に関しても書面等で明らかにするよう定められています。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口(担当部署・担当者名・電話番号も記載)
上記のうち、相談窓口以外の項目が「有」だった場合でも、時期・金額の記載は必須ではありません。
相対的明示事項
企業と従業員の間で定めてる事項は、絶対的明示事項以外にもたくさんあります。
しかし、そのすべてを一つひとつ、従業員ごとに定めるのは難しいため、就業規則内で記述を求められているものが「相対的明示事項」です。
相対的明示事項に該当する以下の項目は、労働条件通知書に明記する義務はありませんが、労使トラブルの予防のためにも書面で交付するのが望ましいでしょう。
- 退職手当に関すること(適用される労働者の範囲、計算要素、計算方法、支給方法、支給時期)
- 一時金や臨時の手当(退職手当を除く)
- 最低賃金
- 労働者側に負担させる食費、作業用品など
- 安全および衛生に関すること
- 職業訓練に関すること(訓練の種類、時期、対象者、訓練中の処遇)
- 業務上および通勤中の災害補償、業務外の傷病に関すること
- 表彰と制裁について(種類、事由、手続き)
- 休職や出向、出張旅費に関すること
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労働条件通知書交付は「だれに」「いつ」行う?
労働条件通知書を交付する場合、雇用するすべての労働者が対象となります。
労働条件通知書を交付する時期は、原則として従業員の雇入れ時ですが、職業安定法改正(2018年)に伴い、次のようなタイミングでも労働条件通知書を交付する必要があります。
新卒者を雇い入れるとき
法改正前までは、内定後に新卒者には内定通知書のみが交付され、その段階で労働条件の詳細を知らされるのではなく、入社時に正式な労働条件を知るケースがほとんどでした。
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しかし、厚生労働省の職業紹介事業に係る指針には、新卒採用において当初明示された労働条件を変更することは「不適切」であること、内定までに書面で労働条件の明示を行うことが定められています。
よって、新卒者に対しては、入社前までに具体的な労働条件の案内が必要になります。
労働条件について説明する際、新卒者への対応を丁寧にすることで、自社の評価を高めることにもつながります。
求人募集時
以下のケースでは、求人票・募集要項において、労働条件を明示する必要があります。
○ ハローワーク等への求人申込
○ 自社HPによる募集
○ 求人広告の掲載等
もし、掲載上の都合ですべての内容を掲載できない場合は、求職者と実際に雇用契約を締結する前に労働条件を明示することになります。
労働条件に変更があったとき
求職者に対して明示した労働条件に変更が生じた場合は、できる限り速やかに変更内容について明示します。
面接等のプロセスで労働条件に変更があった場合にも、速やかに知らせましょう。
労働条件通知書を交付する対象者
労働条件通知書を交付する対象者は、正社員・有期雇用労働者・日雇いも含む短時間労働者を問いません。
派遣労働者に関しては、派遣元企業から労働条件通知書を交付してもらいます。また、労働条件(賃金、労働時間等)に関しても、個々の労働者で違いがあります。
よって、労働者の雇用時は、個別に内容を通知しなければなりません。有期雇用者の場合、契約更新時の内容が同じであっても、更新の都度交付は必要です。
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【まとめ】トラブルを避けるためにも「雇用契約書」は作成しておきましょう
労働条件通知書は、企業(使用者・雇用主)が労働者を雇う場合、必ず交付しなければならない書類です。
しかし、企業の側から労働者に対して交付するだけの書類なので、後々になって「言った・言わない」のトラブルに発展するリスクもあります。
労使トラブルを事前に防ぐためには、雇用契約書作成・取り交わしによって、お互いが労働条件等を理解・納得したことを書面で証明することが有効です。
雇用契約書作成は法律で義務付けられていませんが、労働条件通知書と兼用することもできますから、まだ実務に取り入れていない企業は導入をおすすめします。
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求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。