健康経営とは|取り組み方や導入の背景・メリットなどわかりやすく解説

健康経営とは|取り組み方や導入の背景・メリットなどわかりやすく解説
目次

労務管理の観点から組織課題を解決する手段として、従業員の健康を軸にして経営戦略を立てる「健康経営」は、多くの企業で注目されています。

この記事では、実務レベルでどのような取り組みが必要になるのかイメージできない経営者・人事担当者の方向けに、導入の背景・メリットに触れつつ、健康経営についてわかりやすく解説します。


健康経営とは

健康経営とは、従業員等の健康管理を経営課題としてとらえ、健康増進に向けた施策を戦略的に実施することを言います。

企業理念をベースに、健康管理に貢献する具体的な取り組みを進めることで、自社で働く従業員の活力向上・生産性向上につなげるねらいがあります。

経済産業省では、健康経営を「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つと位置付けています。

特に優良な健康経営を実践している大企業・中小企業等の法人は、健康経営優良法人認定制度によって認定されることで、求職者や関係企業・金融機関などから評価されやすくなります。


健康経営の提唱者とは

健康経営という概念そのものは1992年から存在しており、提唱者はアメリカの臨床心理学者であるロバート・ローゼン博士です。

博士の著書「The Healthy Company」は、1994年に日本でも翻訳書が発売されています。

出版当時、企業経営は業績を優先する形で進めるのが一般的なことで、従業員の健康が企業の業績向上につながるという見方は少数派でした。

日本のバブル崩壊は1991年からスタートしましたが、書籍が発売された1992~1994年は、まだまだハードワークを推奨していた企業が多数派だったものと推察されます。

日本人が健康経営の存在を知るのは、概ね2000年代に入ってからであり、海外ではそれよりも早い段階で健康経営が注目されていたことになります。

※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。


健康経営と健康管理の違い

日本においても、労働者の健康についてまったく配慮がなかったわけではなく、多くの職場で健康管理は実施されてきました。

例えば、労働者の安全・衛生に関する基準については、労働安全衛生法で具体的に定められています。

労働安全衛生法をわかりやすく解説|2023年改正内容を踏まえたポイントとは

労働者の安全・健康の確保や快適な職場環境の形成は、企業活動の継続にとって不可欠なものです。
ケガ・病気なく労働者が働けるよう、企業には労働者を守る責務があります。

健康経営は、このような健康管理につながる概念として誤解されることも少なくありませんが、本質的には健康管理とベクトルが異なります。

極端な話、健康管理は従業員を「コスト(費用)」としてとらえていますが、健康経営では従業員を「リソース(資源)」としてとらえています。

健康経営推進という形で、従業員の健康増進につき投資を戦略的に行うことが、巡り巡って収益につながるという発想から健康経営は提唱されています。

いうなれば「攻めの経営」を実現する手段の一つとして、健康経営に注目する企業が増えているのです。


健康経営が日本で注目されている背景

健康経営について、経済産業省・各自治体などが推進する動きを見せているのは、日本という国の社会的課題が関係しています。

以下、健康経営が日本で注目されている背景について解説します。


生産年齢人口の減少

日本では少子高齢化が進んでおり、15~64歳までの生産年齢人口は、1995年の8,716万人をピークに減少しています。

内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、2021年10月1日現在における日本の生産年齢人口は7,450万人となっており、2050年には5,275万人にまで減少することが見込まれています。

数字だけを見る限り、20数年のうちに日本の生産年齢人口は1,000万人以上減少しているため、多くの企業では労働力の確保に注力せざるを得ない状況です。

日本人労働者が見つからず、海外の人材を雇用しようと考えている企業も少なくありません。

2018年には、特に人材不足が深刻な分野につき、一定の技能・日本語能力を有する人材を就労させることができる在留資格「特定技能」が創設されています。

2019年4月から受入れがスタートしており、今後も外国人労働者の数は増えていくものと予想されますが、中小企業が外国人材を雇用するためには、越えるべきハードルがたくさんあります。

そのような事情から、現在自社で働いてくれている人材が末永く健康に働けるよう、人手不足に備えて健康経営に取り組む企業が増えてきています。


避けられない職場の高齢化

生産年齢人口が減少する中で、企業が事業を続けていくためには、これまでとは違う何らかの施策を講じる必要があります。

DX化による業務効率化や、ライフステージにとらわれない女性社員の就業体制構築など、解決策として考えられている施策はいくつか存在します。

シニア人材の就労機会を増やすこともその一つに数えられ、2025年4月からはすべての企業で「65歳までの雇用確保」が義務付けられました。

制度上の理由からも、職場の平均年齢は高齢化が進むものと予想され、高齢になるほど従業員の健康状態にも不安要素が増えていくことでしょう。

高年齢層が健康・快適に働ける職場環境の構築を実現するために、健康経営への取り組みを進めることは、日本での事業継続において重要なファクターと言えます。


リスクマネジメント

かつての日本企業では、成果を出すためなら家庭も顧みず長時間労働をいとわない、会社に忠誠を誓う「企業戦士」が評価される傾向にありました。

しかし、社員が長時間労働の果てに自殺してしまうような、深刻な労働災害・事件が増えたことで、企業が労働者の働き方について社会的責任を問われるケースも増えてきています。

労働災害が起こってしまうと、企業イメージを著しく損なうだけでなく、労災認定されることで労災保険の保険料率が上がってしまうデメリットがあります。

従業員が、企業を相手取って裁判を起こす可能性もあり、労働基準監督署の監査対象になるリスクも高まります。

社員が健康に働ける環境を構築できれば、労働災害のリスクを減らすだけでなく、求職者に対してクリーンな職場のイメージを伝えることができます。

健康増進に向けた取り組みの実施は、ケガや病気による欠勤リスクを下げることにもつながるため、業務効率の向上・医療費削減にも貢献します。

このように、健康経営への意識を持つことは、経営におけるリスクマネジメントの観点からも重要です。


労働者の価値観の変化

SOMPOホールディングス株式会社が2021年に実施した「仕事に対する価値観の変容に関する意識調査」によると、「コロナ禍での働き方の変化により、何を以前よりも重視したいと思うようになったか」という質問に対して、多くの人が「プライベートの活動」・「暮らし」・「家族」と回答しています。

新型コロナ禍を経て、労働者の価値観にも変化が生じており、それまでよりもプライベートな時間を重視するようになったことが見て取れます。

事実、従業員が休めず、長時間労働が常態化している環境においては、プライベートの充実は望めないでしょう。

仕事と生活の両立を実現するためには、従業員自身の努力だけでなく、従業員が個人の時間を確保できるよう、企業の側で働きかける必要があります。

健康経営への取り組みを実践することで、仕事と生活の両立がスムーズに進めば、従業員のエンゲージメント向上にもつながり、結果として業績向上・利益増大も期待できます。


企業が健康経営に取り組むメリット

企業が健康経営に取り組むと、従業員だけでなく、会社全体にポジティブな影響を与えられるでしょう。
以下、具体的なメリットをいくつかご紹介します。


離職率低下(定着率向上)

健康経営は、従業員が「心身共に健康に働ける」環境の構築を目指す取り組みです。
誰もが健康的な状態で働けると、従業員満足度の向上にもつながり、離職率低下や定着率向上が見込めます。

少なくとも、職場環境を理由に退職を検討する人材は、ごく少数にとどまるものと推察されます。
逆に、健康状態が思わしくなく、慢性的に不調を抱える従業員が多いと、欠勤者が増える傾向にあります。

欠勤者が増えると、出勤している従業員が欠勤者の仕事を行わなければならず、やがて健康だった従業員にも健康不安が生じるおそれがあります。

特に、早期離職者が多数発生すると、新たな採用コストもかさみ、残っている従業員の負担も大きくなります。

ベテラン人材が、健康問題等で職場を離れてしまうと、人材が培ってきたノウハウの継承も難しくなるでしょう。このようなリスクを減らす上で、健康経営の実践は重要です。


生産性向上

健康経営により、従業員が心身の健康を保てるようになると、従業員が持つ本来のポテンシャルを発揮しやすくなります。

その結果、健康経営に取り組まなかった場合と比較して、生産性向上が見込めます。

欠勤・退職といった極端な例でなくても、長時間労働による疲労がたまっていたり、職場の雰囲気が悪かったりすると、仕事がはかどらず悩むスタッフも増えることでしょう。

そして、職場環境に悩みを抱えながら働く従業員が増えると、部署全体で生産性が低下してしまうことが予想されます。

ビジネスライクなやり取りだけでは、従業員同士、または従業員と経営者の間での人間関係を育てることは難しくなりがちです。

しかし、健康経営の一環として、例えばフィットネスジムで従業員同士がスポーツを楽しめるような環境が整っていると、コミュニケーションのきっかけを作りやすくなるでしょう。


社会的評価の向上

詳しくは後述しますが、健康経営は企業だけでなく国も推進の立場を取っており、健康経営に取り組む企業を認定するための各種制度も存在します。

例えば経済産業省は、健康経営に係る各種顕彰制度を創設しており、2014年から東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を選定する取り組みを開始しています。

その2年後である2016年には、地域の健康課題に即した取り組みなどをもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する「健康経営優良法人認定制度」を創設しています。

自社が認定法人になることによって得られるメリットは、以下の通り多数存在します。

  • 自社サイト・パンフレット等に使用できる、認定ロゴマークの使用許可が得られる  
  • 自治体ホームページ・広報誌等への露出の機会が増える   
  • 保険会社によるインセンティブ(保険料の割引)   
  • 公共調達の加点評価(一部地域)   
  • 奨励金・補助金に関するインセンティブ(一部地域)   
  • 銀行による融資の優遇(一部地域)


社員の健康増進に向けた活動を行っている企業として、認定ロゴマークを使用してアピールできると、知名度アップを効率的に進められます。

インセンティブも魅力的なものが多いため、自社の発展を見据えて健康経営に取り組む価値は十分あります。


応募者増

労働環境が劣悪な、いわゆる「ブラック企業」を避けたいと考える労働者は多いため、企業の情報は求職者からシビアに評価されます。

そのような中、中小企業の知名度が健康経営によって向上すると、自社が出す求人への応募者増が期待できます。

もともと退職者が少ない企業であっても、地方の中小企業の場合、大手企業に比べて知名度は低い傾向にあります。

そのため、確実に応募者を自社に取り込むためには、採用手法にも工夫が必要です。

自社の従業員が友人・知人を採用候補者として紹介するリファラル採用や、スタッフの定期的な情報発信によるSNS採用などで成果を出すためには、ベースとして企業の信頼性が高いことが求められます。

しかし、従業員の勤務先に対する評価が高くなければ、採用候補者・求職者の信頼は勝ち取れません。

その点、健康経営を実践していることを広くアピールし、言行一致した「社員を大切にする会社」であることが求職者に伝われば、他のライバル企業に差をつけられるでしょう。


取引先の増加

適切な健康経営の実践が、すべての企業にメリットをもたらすのは疑いありませんが、大企業・金融機関は特に企業のスタンスを注視しています。

例えば、中小企業に仕事を依頼する際は、自社の取引先として問題ない企業かどうか、複数の観点から評価を下さなければなりません。

取引先向けのCSR・SDGs対応ガイドラインを公開する企業も見られ、中小企業は「取引先が求めるレベルの」長時間労働・各種ハラスメント防止の取り組みが求められています。

健康経営を実践することは、CSR・SDGs対応ガイドラインを遵守することにもつながるため、結果的に取引先の増加・長期的な関係性構築が期待できます。


健康経営の実践にデメリットはないのか

健康経営の実践そのものは、会社全体として大きなメリットが期待できますが、すべての企業に当てはまるとは限りません。

以下、健康経営の各種施策を導入するにあたり、想定されるデメリットをご紹介します。


効果を十分に把握できない可能性がある

健康経営に対する投資効果は、施策を講じてすぐに把握できるものではありません。
個人単位では効果を感じにくい部分もあることから、5年・10年といった長期的な視点で取り組む必要があります。

また、効果検証に必要なデータの検証・集計に関しては、人材・システムへの投資も求められます。

そのため、健康投資の重要性は理解していても、健康経営に踏み切れない経営者は少なくありません。


従業員の負担軽減に配慮しなければならない

健康経営を実践するためには、経営陣のトップダウンだけでなく、従業員の積極的参加が求められます。
現在の業務に加えて、健康経営の課題にも取り組む状況は、少なからず担当者に負担をかけます。

その結果、従業員の離職が増加してしまった場合、健康経営以前に経営の立て直しが求められる事態を招きます。

従業員がストレスを感じることなく施策を講じられるよう、担当部署・従業員の忙しさに配慮して、導入の計画を立てなければなりません。


健康経営に関連する制度について

健康経営に関しては、自社内の独自の基準で取り組みをアピールするよりも、公的機関等の認定を受けた方が、各種メリットを享受しやすくなります。

以下、健康経営に関連する制度について、主なものをご紹介します。


健康経営銘柄

健康経営銘柄とは、東京証券取引所の上場企業の中から、健康経営に優れた企業を選定する制度のことです。

認定は経済産業省・東京証券取引所が共同で行い、選ばれた企業は「長期的な視点から企業価値の向上に努めている」企業として、投資家に魅力をアピールできます。

経営だけでなく現場にも目を向け、健康に関する取り組みが行われているかどうか評価するため、観点は以下の通り多岐にわたります。

  • 健康経営の経営理念・方針への位置付け  
  • 健康経営に取り組める組織体制の構築   
  • 健康経営を実践するための制度および施策の実行   
  • 健康経営に関する取り組みの評価および改善   
  • 法令順守


企業が健康経営銘柄に選定されるには、例年8~10月に行われる「健康経営度調査」への回答が必要です。
その回答結果をもとに、選定要件を満たす企業を銘柄選定候補として選出します。

銘柄選定候補となるには、健康経営優良法人(大規模法人部門)として認定されている必要があり、その上で申請法人の上場500位以内に含まれていなければなりません。

さらに、財務指標スクリーニング・調査回答に基づく加点等が行われ、1業種につき1社という厳しい制限のもと、健康経営銘柄が認定されます。

そのため、健康経営銘柄に選ばれるためのハードルは、健康経営に関する顕彰制度の中でも、もっとも難易度が高いとされています。


健康経営優良法人認定制度

健康経営優良法人認定制度とは、健康経営に取り組んでいる優良な法人を「見える化」するための制度で、各法人の健康経営を促進するねらいがあります。

健康経営銘柄とは違い、大企業と中小企業で部門が分かれているのが特徴で、相対的にハードルは低くなっています。

健康経営優良法人として認定されることで、社会的評価が高まるだけでなく、自社の融資や公共調達における優遇も期待できます。

認定された企業は、自社の宣伝材料として健康経営優良法人のロゴマークを使用でき、採用活動や取引先確保にも有利に働きます。

また、健康経営優良法人として認定された法人の中で、健康経営度調査の結果が上位500位となった法人については、以下の特別な称号が得られます。

  • 大規模法人部門:ホワイト500   
  • 中小規模法人部門:ブライト500


大企業に比べて中小企業は数が多いため、ブライト500に認定されるのは狭き門ですが、そもそも健康経営優良法人として認定されるだけでも評価は高まるはずです。

ただし、中小企業が健康経営優良法人として認定されるためには、健康宣言事業に参加している必要があります。


健康宣言事業

健康宣言事業とは、健康保険組合・協会けんぽ等の保険者が実施する事業のことで、健康保険に加入する企業が健康宣言を策定する際のサポートを行うものです。

保険加入者である企業・従業員の健康増進のため、保険事業の一環として行われます。

健康宣言事業の名称は、各保険者によって違いがあり、都道府県で名称が異なるケースもあります。

例えば協会けんぽの場合、北海道支部では「健康事業所宣言」となっていますが、山形支部では「やまがた健康企業宣言」となっているため、確認時は注意しましょう。

なお、健康宣言事業への参加は、中小企業が健康経営優良法人として認定されるためには不可欠です。

健康宣言事業への参加は、健康経営を対外的にアピールする上で、企業が最初に乗り越えなければならないハードルと言えるでしょう。


中小企業が健康経営に取り組む流れ

実際に健康経営に取り組む場合、何から始めればよいのか、具体的にイメージできない経営者・企業担当者の方は多いはずです。

以下、最終的に健康経営優良法人に認定されることを想定した、具体的な取り組みの流れをご紹介します。


保険者への相談

最初に、自社が加入している保険者に連絡を入れて、健康経営を始めたい旨を伝えます。

具体的にどんな計画を立てて、どのように施策を実施する必要があるのか、窓口等に相談すると効率的です。

相談時点で、健康経営優良法人として認定されることを考えているなら、健康宣言事業への参加についても意向を伝えておくとよいでしょう。

登録手続きを進めるにあたり、一定の検診受診率を満たすなどの条件が設けられていることもあるため、そちらも合わせて確認しておきます。

なお、保険者によっては、健康宣言事業を行っていない可能性があります。

その場合、各自治体が実施している健康宣言事業に参加したり、自社独自の健康宣言を実施したりする方法があります。


健康宣言事業への参加・健康宣言の発信

健康宣言事業へ参加する際は、書面等での申し込みが必要になります。

多くの場合、登録用紙には「取り組むべき項目」が記載されており、必要事項を記載してFAX・オンライン等の方法で保険者に提出します。

また、自社として健康宣言の意思表示を行う際、社内外への発信方法としては「自社サイトでの発信」が効率的です。

自社サイトに健康宣言用のページを作成することで、自社の従業員だけでなく取引先や顧客も、自社の健康宣言について知ることができます。


担当者の任命および体制構築

健康経営の取り組みを進める際に、企業としてやっておかなければならないことは、担当者の任命です。

健康経営に携わる担当者は「健康づくり担当者」と呼ばれ、事業場における従業員の健康保持・増進に関する取り組みを推進するミッションを担います。

健康づくり担当者を任命することは、中小規模法人部門の健康経営優良法人において、必須項目となっています。

具体的な業務内容としては、健康経営施策の立案・実施支援のほか、経営者・産業医・保険者・健康経営アドバイザー等の関係者への適切な報告・連絡・相談があげられます。

また、すべての事業場に1人以上設置することが求められるため、本社を含めた3つの営業所があるなら、それぞれの営業所に1人ずつ担当者を設置する必要があります。

担当者を選ぶ際は、定期健康診断等の実務に携わっている人材を選ぶのがセオリーですが、リーダーシップのある人材を選任するのも一手です。


健康課題の確認

担当者が無事決まったら、自社が従業員等の健康について課題と感じている部分を洗い出していきます。

多くの企業にとって、自社にどのような健康課題があるのか把握することは、意外と難しいかもしれません。

そのため、まずは「健康宣言事業に参加するための各種項目」について確認し、それらの条件について自社が十分に対応できているかどうかチェックしていくとスムーズです。

例えば、協会けんぽ大阪支部では、健康宣言事業に参加するための必須項目として、以下のような項目を掲げています。

  • 社員の健診受診率100%   
  • 保険指導の実施率35%以上   
  • 再検査・要治療者への受診勧奨の取り組み   
  • 健康づくり担当者の設置


上記に加えて、諸々の健康課題(選択項目)のうち、どれか一つ以上を選んで課題解決に取り組むことを宣言しなければなりません。

ストレスチェックの実施や運動機会の増進など、選択項目は多岐にわたるため、自社で課題と感じている項目があれば、その解消を目指して計画を立てるとよいでしょう。


計画の策定および実行

健康宣言事業の参加手続きが完了したら、いよいよ具体的な取り組みを進めていきます。

事業参加段階で満たすべき要件を満たしていればよいというわけではなく、最低限法令で定められた義務を満たした上で、計画の策定・実行に移らなければなりません。

例えば、事業主が健康診断を実施すること・労働者が健康診断を受診することは、労働安全衛生法第66条で義務付けられています。

にもかかわらず、小規模な事業所では定期健康診断の実施率・受診率が100%を切っているケースも見られ、そのような事業所では早急に対策を講じる必要があります。

将来のことを見据えて、健康経営優良法人の認定要件を満たすような計画を立てると、取得をスムーズに進められるでしょう。

認定された他社の事例を参考にして、自社で取り組めそうなものから始めるのも、社内の負担を少なくすることにつながります。


評価・改善

健康経営に関する取り組みをスタートさせたら、半年~1年など一定のスパンを経た後、実施結果を保険者に報告します。

報告のタイミングは保険者によって異なり、所定の認定を健康宣言事業において受けなければ、健康経営優良法人への申請ができないケースもあります。

評価の段階で重要なことは、実際に成果が出ているかどうか・定量的なチェックができるかどうかです。

例えば、朝礼でラジオ体操をする取り組みを行った場合、その実施回数ではなく、ストレスチェックの結果や離職率にどう反映されているのかを調査・分析することが大切です。

参加者の満足度など、モチベーションに関わる部分も重要になってきます。

すぐに目に見える成果が出ない分、PDCAを継続して回し続けることが、健康経営には求められます。


健康経営に取り組む際の注意点

健康経営に取り組み、メリットを最大限に活かすためには、いくつか注意しなければならない点があります。

以下、主な注意点についてご紹介します。


社員の「不公平感」を解消できるようにする

制度の構築や取り組みの実施にあたっては、極力すべての社員にとってメリットがある施策を講じましょう。

例えば、禁煙に関する取り組みを自社で実施した場合、もともとタバコを吸っていない社員にとっては、何のインセンティブもないことになります。

ダイエットも同様で、適正体重でない人など、該当者以外はメリットを感じにくい取り組みの場合、他の従業員から不公平だという意見が出るかもしれません。

嗜好や体型等の条件にかかわらず、従業員全員がメリットを感じられるよう、よく話し合って取り組む内容を決めましょう。


「自社の健康リスク」に注目する

他社の成功事例をチェックすることは大切ですが、それが自社の現実とかけ離れた施策の場合、せっかく取り組んでも十分な効果が期待できない可能性があります。

総じて労働時間が長い職場なら、時間外労働の削減に取り組むべきでしょうし、年齢層が高い職場なら生活習慣病・三大疾病にフォーカスした対策を立てた方がよいでしょう。

高ストレスの従業員が多い傾向にある場合は、ストレッサーの把握やメンタルヘルス対策に努める必要があります。

このように、職場によって講じるべき対策は異なるため、施策を講じる際は前例にとらわれないことが大切です。


「健康経営」という言葉には商標登録がある

「健康経営」という言葉は、NPO法人 健康経営研究会が登録商標を行っています。

そのため、自社のホームページやパンフレットなどの媒体に「健康経営」という言葉を掲載する場合は、事前に健康経営研究会へ連絡しなければなりません。

媒体等への表示を行う際は、文字を表示する箇所に「健康経営®」とRマークを付けて表示することになります。

また、同一媒体のページ末尾・パンフレットの下段・冊子の巻末等の場所に『「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。』と注記する必要があります。


まとめ

健康経営の実践は、少子高齢化が進む日本において、労働力の確保・維持に役立ちます。

すぐに成果が出る取り組みではないものの、それだけに自社の評価を高めることにつながりますから、人事・採用面で課題を抱えている企業こそ取り組みたいところです。

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ヒトクル編集部
記事を書いた人
ヒトクル編集部

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社会保険労務士法人ローム静岡 所長 杉本雄二 
監修した人
社会保険労務士法人ローム静岡 所長 杉本雄二 

求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。 
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。