大企業が導入する早期退職制度とは?|制度の目的やメリット、注意点も分かりやすく解説!

大企業が導入する早期退職制度とは?|制度の目的やメリット、注意点も分かりやすく解説!
目次

近年、大企業を中心に早期退職の制度を取り入れる会社が増えています。
定年前に従業員が自主的に退職するのが当該制度の特徴ですが、企業側はどのような意図で導入するのでしょうか。

本記事では早期退職制度の概要や目的、メリットやデメリットについて解説します。

また、制度を開始する際に必要なステップや注意点も紹介しますので、早期退職制度の導入を検討中の方は確認してみてください。 

定年退職の現状とこれから|年齢引き上げや継続雇用制度についても解説


早期退職制度の概要

早期退職制度は、社員に対して定年前に退職を促す制度です。

福利厚生の一環で設けられているケースが多く、退職者は普通に定年退職するよりも手厚い優遇措置を受けられます。

退職の強要ではありませんので、定年まで勤めたい社員はそのまま勤務が可能です。


早期退職制度の意図や目的とは?

早期退職制度の目的の一つとして、社員のキャリア形成のサポートがあります。
社員にとっては、定年より早く退職することで、その先のセカンドキャリアを早い時期から形成できます。
そのため、当該制度は社員の人生設計をサポートする制度の一つと言えます。

また、会社側にとっては組織活性化の目的があります。
一定以上の年齢の方に退職してもらい、代わりに若い社員を採用することで組織の活性化を促せます。

  • 社員のキャリア形成のサポート
  • 会社側は、人材の入れ替わりによる組織活性化が図れる


希望退職制度との相違点について

当該制度に類似した施策として「希望退職制度」がありますが、主な違いは下記のような点です。

  • 希望退職制度は、会社の経営不振等のリスクに備えるための退職者募集制度
  • 早期退職制度は恒常的に募集しているが、希望退職制度は期間限定で募集を行う
  • 希望退職制度の場合、多くのケースで退職勧奨も実施される

なお、希望退職制度の場合は会社都合退職と認定されるため注意が必要です。
早期退職と同様に退職金の割り増しや再就職先の紹介等の優遇措置はあります。


選択定年制との相違点について

早期退職制度が「選択定年制」と異なる点は、定年までの勤務が前提ではないことです。
選択定年制は、60歳~65歳までの間で退職のタイミングを自分で選択できます。

一方で、早期退職制度は定年前に退職しますので、定年までは勤務しなければいけないという前提がありません。

選択定年制は早期退職を促す制度ではなく、定年の年齢を決めてもらう制度ですので注意しましょう。


2024年の早期・希望退職の傾向と今後の動向

東京商工リサーチの調査によれば、直近2024年の上場企業の早期・希望退職の対象者は3,600人を超えました。

2023年の早期退職者は年間で3,161人でしたので、1-2月の2ヵ月のみで昨年の数値を上回っています。 

なお、早期退職募集をしている企業の64%が黒字企業です。
したがって、単なる人員削減目的ではなく、業績回復を契機に大手企業が構造改革を始めたと見られています。
業種別では情報通信、電気機器、食料品の企業が多くなりました。
 
※参考:Yahooニュース「2024年1‐2月 上場企業の「早期・希望退職者」募集 大型化で昨年1年間を超える3,613人」

インフレ型経済への移行で持続的な賃上げが焦点となり、日本企業が雇用人員の適正化を一段と進めていることが要因にある。

予測では、このままのペースで増加すると早期・希望退職者は1万人台になるとされています。
今後も雇用の流動化を促す大企業や政府の動きは活発化していくでしょう。


早期退職制度を導入した場合のメリット

早期退職制度を導入した場合のメリットには、下記のような点があります。制度を導入する前にチェックしておきましょう。

企業側が得られるメリット① 人件費負担の軽減
② 組織の若返りや新しいノウハウの取得
社員が得られるメリット① 退職金が割増される
② 早い時期にセカンドキャリアを形成できる


企業側が得られるメリット

早期退職制度で企業側が得られるメリットは以下のとおりです。

① 人件費負担の軽減

早期退職制度では、一定の勤続年数や年齢等を条件に希望退職者を募ります。
高齢の方や勤続年数が長い方は特に人件費が高い傾向にあるため、退職してもらえれば企業の人件費負担は軽減できるでしょう。

② 組織の若返りや新しいノウハウの取得

早期退職を行うとともに、若手やこれまでは社内にはいなかった人材などを雇用すれば、組織の若返り化や新しいノウハウの取得に繋がります。

企業の競争力向上を目指している場合は、導入を検討しましょう。


社員が得られるメリット

一方、社員が早期退職制度で得られるメリットには以下の点が挙げられます。

① 退職金が割増される

多くの会社では、早期退職制度により退職した従業員に対して退職金の割増を行っています。
そのため、普通に定年まで勤めて退職するより支給金額を多く受け取れるメリットがあります。

なお、平均では月給換算で15カ月分程度を割増している企業が多いようです。

② 早い時期にセカンドキャリアを形成できる

定年の60歳まではセカンドキャリアの形成は難しい部分がありますが、早期退職制度で退職すれば早い時期にセカンドキャリアの形成ができます。

その結果、自分が歩みたい人生やライフプランを達成しやすくなるでしょう。


早期退職制度の導入におけるデメリット

早期退職制度で発生するデメリットには、下記のような事項があります。
様々なリスクや課題がある点も把握した上で、導入するかは判断しましょう。

企業側で起こりうるデメリット① 短期的な人的コストの増加
② 優秀な人材が退職するリスク
③ 生産性や人間関係の悪化
社員側で起こりうるデメリット① すぐに再就職できるとは限らない
② 年金支給額の低下や福利厚生がなくなるリスク
③ 期待していたほど割増されていない


企業側で起こりうるデメリット

早期退職制度導入で企業側に起こりうるデメリットには、以下のようなものがあります。 

① 短期的な人的コストの増加

早期退職制度では、早期退職募集に応じた希望者に割増した退職金を支払います。
したがって、一次的に支出が増加するため、会社の資金繰りが悪化してしまうリスクがあります。

特に、通常の定年退職者と早期退職希望者の退職日が重なると、多くの人員の退職金支給で経営が圧迫される危険もありますので注意しましょう。

② 優秀な人材が退職するリスク

早期退職制度では、優秀な人材が早期退職に応じてしまうリスクがあります。
そうなれば会社側としては大きな損失を被る事態となり、売上や企業競争力の低下も避けられないでしょう。

したがって、早期退職者募集の際には、応募の条件等を十分に検討しておく必要があります。
優秀な社員が該当しないように年齢や職種等に条件を設定し、貴重な人材の退職リスクに備えましょう。

③ 生産性や人間関係の悪化

生産性や人間関係が悪化する可能性があるのも、早期退職におけるデメリットです。

若返り化が図れる早期退職ですが、新しく雇用する労働者の育成が上手くいかなければ、退職した社員ほどパフォーマンスを上げられず生産性が低下します。

また、早期退職ではこれまで人間関係の調整を行ってきた人物や、部下からの信頼が厚い人物などが退職する可能性があります。

そうなれば、人間関係での様々なトラブルや、残った社員のモチベーション低下などの事態も起こりうるため注意しましょう。


社員側で起こりうるデメリット

早期退職制度の導入で社員側に起こりうるデメリットには、下記の事項が挙げられます。

① すぐに再就職できるとは限らない

早期退職優遇制度では再就職先を紹介してもらえるケースがありますが、必ずしもすぐに再就職できるとは限りません
紹介してもらった企業とは条件や希望が合わず、自分で探す必要が出てくる状況も起こり得ます。

したがって、退職する社員にはあらかじめ再就職先の候補を見つけておいてもらうと良いでしょう。

② 年金支給額の低下や福利厚生がなくなるリスク

会社で厚生年金に加入していた場合、早期退職により年金支給額が低下する可能性があります。
厚生年金の支給額は、加入期間が短くなれば減少するためです。

さらに、福利厚生面も気を付けなければいけません。社員寮や住宅手当などの充実した手当があった場合、それらも受けられなくなるため注意しましょう。

③ 期待していたほど割増されていない

早期退職制度では、通常の定年退職時と比べて割増されるケースが大半です。

しかし、その割増金額は法律等で規定されてはいませんので注意が必要です。従業員からすれば、期待していたほど割増されておらず困ってしまう事態も起こりうるでしょう。


早期退職制度を実施するためのステップ

次に早期退職制度を開始するためのステップも確認しておきましょう。一般的には以下の流れで制度は実施されます。

① 制度の対象者や条件、目的の設定

まずは早期退職制度の実施目的、対象者、条件等の設定を行います。
特に実施目的は対象者や条件等を定める上で重要になりますので、明確な理由を考えておきましょう。

対象者や条件に関しては優秀な人材が退職しないよう、綿密に検討して設定しておきます。
なお、募集時は下記事項について定めておくと安心です。

  • 募集人数
  • 募集期間
  • 募集の経緯
  • 上乗せされる退職金額について
  • 年齢
  • 部署
  • 退職予定日 

想定以上の退職者が出ないようにあらかじめ人数は決めておくと良いでしょう。
また、募集の経緯も示しておけば「経営悪化による人員削減ではないか」という懸念をなくせます。


② 労使間での協議や取締役会での決議を行う

制度の概要を定めた後は、労働者側との意見交換や協議を行います。

実際に退職する労働者側の意見も取り入れて条件に反映させれば、退職時のトラブルや問題発生のリスクを低減できます。

なお、早期退職制度の導入及び実施は、会社法第362条4項に定められている「重要な業務執行」に該当するケースがあります。したがって、協議の終了後は取締役会で制度実施の決議を行いましょう。


③ 社員への周知や説明の実施

決議後は社員に向けた早期退職制度の説明活動を行います。
社内報やリーフレット、説明会などの方法で、既存社員に制度についての理解を深めてもらいましょう。

制度に関しては明確に、かつ分かりやすく説明を行うようにします。
従業員側に不信感や疑問点が残る説明ですと、リストラによる人員削減と誤認される可能性があります。

丁寧な解説や対応を心掛け、正確な情報提供を行いましょう。


④ 制度の開始と運用

制度の周知が進んだ後は、実際に早期退職制度の運用をスタートします。
なお、開始する前には就業規則の変更も忘れずに行いましょう。

手続き方法や条件、応募期間などの詳細を提示し、早期退職者の募集を始めます。

なお、制度開始後に問題点が発覚するケースもあるでしょう。

したがって、運用すると同時に制度の改善も進めていきます。
早期退職制度に関するアンケートを定期的に実施し、従業員側の意見を取り入れていくと良いでしょう。


早期退職制度の導入時に気を付けるべき注意点

早期退職制度を導入及び実施する際には、以下の点に注意しましょう。

  • 企業情報の流出に注意する
  • 制度に関する説明は正確かつ丁寧に行う 
  • 規定や制度内容を十分に作りこむ


企業情報の流出に注意する

早期退職制度では、一定の年齢や勤続年数以上の社員などが主な対象者となります。
そのため、ベテラン社員やシニア世代の社員が持つ情報・ノウハウが他社に流出しないように注意しましょう。

具体的には、社員と退職前に守秘義務や競業防止義務等の契約をしておくと効果的です。


制度に関する説明は正確かつ丁寧に行う

制度の説明を正確に行う点も意識しておきたいポイントです。ルールに関して退職希望者と認識の違いがあると、退職時にトラブルが発生するおそれがあります。

早期退職希望者とは必ず面談を行い、制度内容について正確かつ丁寧に説明するとともに、条件面で誤認がないかもチェックしましょう。


規定や制度内容を十分に作りこむ

早期退職制度を導入するためには、社内ルールや就業規則等の変更も行う必要があります。
また、退職金制度の改定や金額の計算方法も規定し、従業員に周知させなければいけません。

したがって、不備が発生してトラブルにならないよう、弁護士や社会保険労務士などにも相談しながら制度を作りこみましょう。


早期退職制度で受け取れる退職金の種類について

早期退職制度により受け取れる退職金には、主に下記の2種類があります。

① 退職一時金

退職一時金は、退職時に一括で支給される退職金の種類です。
支給時期はおおよそ退職から1~2ヵ月程度ですが、会社によって異なるため注意しましょう。

なお、退職一時金は退職所得として計算され、所得税・住民税の課税対象になります。

② 企業年金

企業年金は、企業側が拠出を行い退職する従業員に支給する年金制度です。
主に以下のような種類があります。

  • 確定給付企業年金(DB)
  • 企業型確定拠出年金(DC)

なお、こちらは税額計算上では雑所得に分類され、所得税・住民税の対象となります。


早期退職制度における退職金の金額

早期優遇退職制度により退職した場合、退職金はどの程度の金額になるのでしょうか。

2018年に厚生労働省が実施した就労条件総合調査によると、1人平均での退職給付額は以下のとおりです。

<退職事由が定年、管理・事務・技術職の場合>

〇 大学・大学院卒:1,983万円
〇 高校卒:1,618万円

<退職事由が会社都合、管理・事務・技術職の場合>

〇 大学・大学院卒:2,156万円
〇 高校卒:1,969万円

<退職事由が自己都合、管理・事務・技術職の場合>

〇 大学・大学院卒:1,519万円
〇 高校卒:1,079万円

<退職事由が早期優遇、管理・事務・技術職の場合>

〇 大学・大学院卒:2,326万円
〇 高校卒:2,094万円

※ 勤続年数20年以上かつ45歳以上の退職者

※厚生労働省「平成30年就労条件総合調査【退職給付(一時金・年金)の支給実態 】」


通常の定年退職と早期退職で比較すると、大学・大学院卒では343万円、高校卒の場合には476万円もの差があります。

また、他の退職事由と比較しても、早期退職の方が優遇され退職金も多くなっています

ただし、年金の形態や会社規模により金額は変動するため、社内の規定をあらかじめチェックしておきましょう。


早期退職制度の導入には明確な目的意識と事前準備が必要不可欠

早期退職制度の概要や傾向、メリットや注意点、導入する流れについても解説しました。
制度を取り入れる際には、明確な目的を設定しておかないと効果の検証ができません。

また、事前の準備が十分でないと、退職時に予期せぬトラブルや問題が発生するリスクも存在します。

円満に早期退職を実施するには、労働者側も制度への理解を深める必要があります。
ぜひ、本記事をよく確認しながら、従業員への説明や制度設計等の準備を行ってみて下さい。



ヒトクル編集部
記事を書いた人
ヒトクル編集部

「ヒトクル」は、株式会社アルバイトタイムスが運営する採用担当者のためのお役立ちサイトです。

「良いヒトがくる」をテーマに、人材採用にかかわる方々のヒントになる情報をお届けするメディアです。「採用ノウハウ」「教育・定着」「法務・経営」に関する記事を日々発信しております。各種お役立ち資料を無料でダウンロ―ドできます。

アルバイトタイムス:https://www.atimes.co.jp/

社会保険労務士法人ローム静岡 所長 杉本雄二 
監修した人
社会保険労務士法人ローム静岡 所長 杉本雄二 

求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。 
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。