ダブルワークや掛け持ちの社会保険はどうする? 加入条件や手続きなどを解説

ダブルワークや掛け持ちの社会保険はどうする? 加入条件や手続きなどを解説
目次

正社員とアルバイト、掛け持ちフリーター、本業とフリーランスなど、ダブルワークをしている方が増えています。

このとき気になるのが、社会保険や確定申告はどうするのか、という点です。

社会保険に入りたくない場合の対処法、二重加入の場合の手続き、確定申告や税金のことなど、安心して仕事をするために、事前に情報を集めておきましょう。

ダブルワークの従業員を雇用する企業側も、スムーズな採用や社会保険加入手続きを進めるために、どのようなケースで二重加入になるのか、企業としてどのような手続きが必要なのか、という点を知っておくと安心です。

今回は、社会保険の加入条件となる年収、社会保険に加入するメリット・デメリット、確定申告が必要になるケースなどについて、詳しく解説いたします。


ダブルワーク時の社会保険の基礎知識 

ダブルワークをする前に、社会保険の加入条件や手続き、二重加入について知っておくと安心です。

まずはダブルワークをする場合の、社会保険の基礎知識をチェックしてみましょう。


社会保険の加入条件

社会保険には、ダブルワークをしている人も、そうでない人も、同じように加入条件が定められています。

ダブルワークをしている、もしくは今後始める場合は、それぞれの職場で加入条件を満たしているかどうか、確かめておきましょう。


社会保険の加入条件(従業員が50人以下の会社)

  • 会社が社会保険の適用事業所である
  • 2か月間を超える勤務見込み
  • 1週間の勤務時間が常勤(正規雇用者)の3/4以上
  • 1ヶ月の勤務日数が常勤(正規雇用者)の3/4以上

上記のいずれかに該当する場合は、社会保険へ加入します。


社会保険の加入条件(従業員が51人以上の会社)

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月収が88,000円以上(残業代や賞与は除く)
  • 2ヶ月を超える雇用見込みがある
  • 学生ではない(休学中や夜間学校生は除く)
  • 企業の従業員数が101人以上
    (2024年10月以降は、従業員数が51人を以上企業も含まれる)

パート・アルバイトは、上記条件をすべて満たした場合に、社会保険加入の対象になります。

複数の勤務先で週に10時間程度、月額5万円程度を受け取っている、というような場合、労働時間や収入は合算されないため、社会保険の対象にはなりません。


社会保険の手続きには何が必要?

社会保険の加入条件を満たしている場合、以前の健康保険からの脱退手続きが必要です。

家族の社会保険に加入していた、という場合は、社会保険の担当者へ、脱退の旨を伝えましょう。

国民健康保険に加入していた場合は、自治体の窓口で脱退手続きを行います。

【国民健康保険脱退に必要なもの】

  • 新しい保険証、もしくは社会保険の資格取得証明書
  • 今まで使用していた国民健康保険の保険証
  • 本人確認書類(運転免許書、マイナンバーカードなど)
  • 印鑑

これらを準備して、資格の喪失日から14日以内に手続きを済ませましょう。

社会保険への新規加入手続きは、勤務先の担当者が進めます。

個人情報書類や扶養者がいる場合の書類などを提出後、保険証が交付されます。

発行されるまでの間は、会社から「健康保険被保険者資格証明書」を受け取ることで、3割負担で医療機関を受診できます。


社会保険へ二重加入になる場合の手続き

ダブルワークの勤務時間によっては、それぞれの会社の社会保険へ二重で加入する必要があります。

社会保険料は、それぞれの会社での給与の合計額によって決定されそれぞれの給与から、それぞれの会社の給与額と合計額の案分比天引きされます。

持てる健康保険証は、何社掛け持ちしていても1社です。

どの会社の保険証を持つのかは個人で選択できますが、収入が最も多い企業の社会保険を選ぶのが一般的です。

ダブルワークで社会保険へ二重加入になる場合は、本来は、自分で手続きが必要です。

被保険者資格取得手続きをされていることが前提となるため、まずは、会社に相談しましょう。

ダブルワークで社会保険へ二重加入になってから10日以内に、日本年金機構へ以下の書類を提出してください。

  • 健康保険 厚生年金保険被保険者所属選択/二以上事業所勤務届

ダブルワークの際に必要な手続きの確認、書類のダウンロードは、日本年金機構のサイトで案内されています。

日本年金機構/複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き

人事担当者が覚えておくべきポイント

採用した人材が社会保険加入の対象者である場合、従業員からWワークの申し出が合った場合は、その他企業で社会保険に加入する予定があるかどうか、事前に確認しておきまし。

社会保険へ二重加入になる場合、上記で解説した手続きが必要であることを伝え、必要に応じて書類準備などのサポートを実施しましょう。


ダブルワークをすると税金はどう変わる?

ダブルワークでこれまで以上に収入が増えた場合、年収に応じた税金がかかります。

扶養の範囲内で働きたい、税金の支払いで損をしたくない場合は、注意するべき税金のラインを知っておきましょう。


住民税(年収100万円~)

自治体にもよりますが、年間収入が100万円を超えると、住民税がかかるケースがほとんどです。

均等割を選んでいる自治体の場合は、年収100万円未満でも、5,000円くらいの住民税がかかる場合があります。


所得税(年収103万円~)

年収が103万円を超えると、所得税の支払い義務が発生します。

かかるのは103万円を超えた分からです。

仮に年収が120万円の場合、差分の17万円×所得税率5%=8,500円を支払う計算になります。


ダブルワークで社会保険に入る2つのメリット 

ダブルワークで社会保険に入ると、働く人に嬉しいメリットがあります。

「入りたくない」という声もある社会保険ですが、加入すると待っている良い点を、まずはチェックしてみてください。

 

メリット1:将来受け取れる年金が増える

社会保険には、厚生年金保険が含まれています。

社会保険加入で、国民年金加えて厚生年金額がプラスされること、社会保険の支払いを企業が半分負担することから、受け取れる年金受給額が大きくなります。

差し引かれる社会保険の金額が大きいように感じますが、社会保険料を支払っている間は、より将来に備えられます。 

さらに、老齢厚生年金だけでなく、障害厚生年金、遺族厚生年金などもあるため、病気やケガで働けなくなってしまったり、厚生年金加入者の加入者が亡くなった場合の備えにもなります。


メリット2:給付金を利用できる場合がある

社会保険の被保険者になると健康保険に加入するため、さまざまな給付金支給の対象になります。

  • 傷病手当金
  • 出産手当金

など、国民健康保険では受け取れない給付金がたくさんあります。

病気やケガ、出産の場合、社会保険が役立ちます。


ダブルワークで社会保険に入る3つのデメリット

ダブルワークで社会保険に入ると、労働者側のデメリットもあります。

どのような面に注意して、加入を検討するべきなのか、マイナス面も見ておきましょう。 


デメリット1:給与の手取りが減る

社会保険に入ると受け取る年金が増えたり、給付金を活用できたり、というメリットがあります。

一方で加入後は、社会保険料が収入から差し引かれるようになります。

これまでは、働いた分だけ給与を受け取ってきた、という場合、手取り収入を見て驚いてしまうかもしれません。 

ダブルワークの場合は、双方の会社から社会保険料が引かれます。

社会保険の支払いによって生活がどう変わるのか、適用後の給与や現在の家計を、事前に計算しておくと安心です。


デメリット2:加入手続きが面倒 

ダブルワークで二重に社会保険へ入る場合、自分での手続きが必要です。

電子申請もできますが、電子申請でも手続きに時間がかかること、電子申請がうまくできない、苦手な場合は、郵送や窓口での手続きになるため、より作業が大変になります。

加入手続きはダブルワークを始めたタイミングのみですが、掛け持ちをはじめてから10日以内に申請する必要があり、仕事が忙しい場合は時間を作る必要もあります。

働き方によっては、確定申告の義務も生じます。

複数の職場の申告をしなければいけないケースもあり、やるべき作業が増える可能性がある点を覚えておきましょう。


デメリット3:副業バレの可能性がある

会社員をしながらアルバイトをしていた結果、社会保険加入の対象になった、というような場合、被保険者から日本年金機構へ書類を提出します。

書類の提出によって、社会保険料の支払いをそれぞれの企業が負担するため、もう一つの仕事があること、もう一つの仕事で得ている収入が明るみになってしまいます。


ダブルワークは確定申告が必要? 

ダブルワークをする場合、確定申告が必要になるケースがあります。

先ほど、社会保険の加入で副業がばれる可能性がある、という点に触れましたが、社会保険未加入でも、確定申告によって住民税の金額が増え、副業が知られるケースがあります。

確定申告の手続きはどのような場合に必要なのか、ルールを見てみましょう。


確定申告の必要が無いケース

ダブルワークで得ている収入が20万円以下の場合、確定申告は必要ありません。

ワンストップ特例が適用されないケースで、ふるさと納税の控除を受けたい、医療費控除を受けたい、という場合は、収入が20万円以下であっても、申告が必要です。

確定申告は必要ないものの、住民税の申告が必要になるケースもあります。

住民税の非課税枠を年収が超えそうな場合は、市町村へ届け出てください。

確定申告をしている場合は、その情報が自治体へ共有されるため、改めて市町村へ住民税の申告する必要はありません。


確定申告が必要な3つのケース

確定申告が必要なのは、主に3つのケースです。

 

年間所得が103万円を超えていて、どちらの仕事も年収20万円を超えている

複数の企業で給与所得があり、収入が低い会社も年収20万円を超えている、合計の年間所得が103万円を超えている、という場合は、確定申告を行います。

年末調整は、複数企業でできないため、メイン収入を得ている会社で年末調整を行い、その他を確定申告すると、還付金を受け取れる場合があります。


年間所得が103万円を超えていて、どちらでも年末調整を行っていない

給与所得が年間103万円以上あり、どちらの会社でも年末調整をしていない場合、確定申告で余計に支払った所得税が還付される可能性があります。

年収が103万円に満たない場合は、所得税が課税されないため、確定申告作業の必要はありません。


給与とは別に報酬を受け取っている 

フリーランスとして受け取っている副業収入、不動産や投資による収入などが年間48万円を超える場合、もしくは1年間のうちに受け取っている報酬が20万円を超え、その他収入と合わせたときに103万円を超える場合は、確定申告が必要です。

フリーランスの場合、売上から経費を引いた金額で、年間報酬を計算してください。 

人事担当者が覚えておくべきポイント

ダブルワークを認めている企業の場合、年末になると従業員から年末調整やその他報酬について、問い合わせを受けるケースが考えられます。

どのような制度やルールがあるのか、回答できるように準備しておきましょう。


ダブルワークを選ぶ場合の注意点2つ

ダブルワークを選ぶ場合、社会保険などの制度をきちんと知っていないと、思わぬ税金の支払いを求められる場合があります。注意するべき2つの点をみてみましょう。


年間所得が106万円を超えると社会保険の対象になる場合がある

これまでは、社会保険の加入は年収130万円から、そう考えるのが一般的でした。

ですが現在はパート・アルバイトでも、勤務先の従業員数が101人以上、前述した条件をクリアしている場合、年間所得が106万円であっても、社会保険の加入対象になります。

2024年10月以降は、従業員51人以上の企業もこのルールの対象になるため、多くの企業で年収106万円~130万円くらいのパート・アルバイトが増えると予測されます。

加入を望まない場合、従業員数が少ない小さなお店や会社で働くなどの対処をしておかないと、予期せぬタイミングで社会保険加入者になる場合があります。


人事担当者が覚えておくべきポイント

従業員数が101人以上の会社で、パート・アルバイトを雇用する場合、年間所得が106万円の時点で社会保険加入対象になると、面接や採用時に伝えておくとスムーズです。

従業員数が51人以上の場合も、2024年以降は対象になります。

すでに雇用しているスタッフの、保険加入状況が変わる可能性があるため、周知しておきます。

2014年10月以降も「扶養内で働きたい」という希望がある場合は、対象人材の労働時間が減る可能性が高いため、新規採用や調整などの準備を進めておきましょう。


年間収入が130万円を超えると扶養から外れてしまう

収入が年収130万円を超えた場合、配偶者の扶養から外れます。

扶養の範囲であるかどうかは、ダブルワークで得た収入の合算で検討されます。

また先ほど触れたとおり、年間所得が106万円のパート・アルバイトであっても、働いている事業所の従業員数にとっては扶養から外れてしまう場合があります。

企業の規模と年収、双方に注意しながら、働き方を検討しましょう。

給与所得を得ている労働者の場合、年収150万円を超えると、手取りは減っても福利厚生や年金などの点からメリットがあると言われています。


そもそもダブルワークはOK?

ダブルワークを支援する社会制度がいろいろありますが、そもそもダブルワークを禁止している会社が少なくありません。

時代背景的に、副業を解禁すべき、という考えが増えている一方で、「企業の情報が漏れるかもしれない」「本業がおろそかになるかもしれない」といった理由で、ダブルワークが認められないケースがあります。

一例ですが、公務員は副業が原則禁止です。

副業がすべて禁止ではないけれど、同業他社はNG、という会社もあります。

メインである働き先の規則をチェックして、問題がないか確かめてから、働き先を探してみてください。


まとめ 

ダブルワークは収入を増やす良い方法ですが、社会保険の手続きが必要、支払う税金が増える、年収によっては手取りや得られる金額が減ってしまう、というデメリットがあります。

まずは今働いている会社がダブルワークOKなのか確かめて、収入によって保険や税金がどのように変わるのか、チェックしてみましょう。 

ダブルワークで社会保険へ加入することで、将来の年金を増やせる、給付金を受け取れるというメリットもあります。

自分にとってどうするのがプラスになるのか、じっくり見当した上で、仕事を増やすかどうか決定してみてください。



 

ヒトクル編集部
記事を書いた人
ヒトクル編集部

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社会保険労務士法人ローム静岡 所長 杉本雄二 
監修した人
社会保険労務士法人ローム静岡 所長 杉本雄二 

求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。 
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。