ジョブ型雇用とは?日本型の雇用との違いやメリット・デメリットを解説

ジョブ型雇用とは?日本型の雇用との違いやメリット・デメリットを解説
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近年、注目されている言葉に「ジョブ型雇用」というものがあります。これは欧米で導入されている雇用制度で、日本とは全く異なるものです。

現状の日本には生産性や国際競争力の面で課題があり、それを解決する制度だとして期待されています。本記事ではジョブ型雇用について解説します。

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ジョブ型雇用とは?

ジョブ型雇用とは必要な職務内容をまず洗い出し、その職務を遂行できるスキルを持った労働者を採用する雇用方法を言います。

従来、日本ではジョブ型雇用はごく一部でしか行われておらず、一般的ではありませんでした。日本では職務内容に応じた採用ではなく、新卒一括採用が一般的だったからです。日本が昔から導入していたこのような雇用システムを「メンバーシップ型雇用」と言います。


ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用(日本型雇用)との違い

ジョブ型雇用制度とメンバーシップ型雇用制度の違いはさまざまです。主な違いとしては以下が挙げられます。

・ ジョブ型は職務に対して人を配置、メンバーシップ型は人に職務をアサイン 

・ ジョブ型は業務内容が厳格に定められる、メンバーシップ型は定められない 

・ ジョブ型は移動や転勤は原則命令できない、メンバーシップ型はできる 

・ ジョブ型は同じジョブ内での昇給が無い、メンバーシップ型はある 

・ ジョブ型は雇用の流動性が高い、メンバーシップ型は低い 

・ ジョブ型は産業別労働組合、メンバーシップ型は企業別労働組合 


ジョブ型雇用にありがちな誤解

ジョブ型雇用にはいくつかの誤解されやすいポイントがあります。主な誤解ポイントとしては以下が挙げられます。


●ジョブ型雇用従業員は給料が上がらない

ジョブ型雇用は昇給が無いと言われていますが、それは間違いです。ジョブ型雇用でも給料は上がっていきます。

昇給が無いのは同じジョブ内に限った話です。つまり、同じ仕事内容であれば同じ賃金なので、20年続けているベテランだからといって給料が上がったりはしません。

しかし、よりハイレベルな職務が遂行できるスキルを身につけて、ジョブチェンジすれば給料があがります。ジョブ型雇用はあくまでも仕事の内容と賃金が決まっていて、そこに人を割り当てる方式だからです。


●ジョブ型雇用は成果主義である

ジョブ型雇用はかつて日本においてブームになった成果主義と混同されることがあります。しかしジョブ型雇用は成果主義とは異なります。

成果主義は自分で目標を定め、その目標が達成できていたかどうかで人事査定が決まる方式です。しかし、ジョブ型雇用にはそもそも一部のエリートを除いて成果や目標という概念がありません。あるのは職務です。あらかじめジョブディスクリプションに規定されている職務を遂行できていればそれで問題ないのであり、職務遂行に対して成果とか目標を設定して審査したりはしません。


●ジョブ型雇用は新しい雇用制度である

ジョブ型雇用は世界的に見れば特に新しい雇用制度ではありません。メンバーシップ型雇用を導入している国は日本など少数の国しかなく、世界ではジョブ型雇用のほうが圧倒的に多いです。

ジョブ型雇用のほうが世界では一般的な雇用システムと言えるでしょう。特に欧米諸国はほとんどがジョブ型雇用を導入しています。


ジョブ型雇用が注目されている理由

近年の日本でジョブ型雇用が注目されている理由について解説します。


日本の国際競争力の低下

ジョブ型雇用が注目されている理由の1つは日本の国際競争力が低下している点です。IMD「世界競争力年間」によると日本の国際競争力は1990年に1位だったのが2020年では34位に低下しています。

この競争力低下の原因の1つと言われているのがITへの対応の遅れです。IT化のために必要な高度IT人材が不足しており、日本企業のIT化は難航しているのです。その原因がメンバーシップ型雇用にあると言われています。なぜならメンバーシップ型だとスペシャリストが育ちにくいからです。


働き方の多様化

コロナ禍は日本人の仕事の概念を激変させました。それまで出社が当たり前だったのが、テレワークが普及し、ワークライフバランスに優れた柔軟な働き方が模索されるようになりました。

しかし、このような働き方の変化で、過渡期ならではのさまざまな摩擦も明らかになってきました。その1つが評価制度の不公平さです。テレワークをしている社員と出社している社員では得られる情報の密度や人事評価の面で、どうしても出社組のほうが有利になりやすい側面があります。

なぜなら、メンバーシップ型雇用では「働きぶり」に応じた評価が大きな比重を占めるので、働きぶりが見えやすい出社組のほうが有利なのです。これを是正するために、評価が働きぶりに依存しにくいジョブ型雇用が注目を浴びるようになりました。

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終身雇用制維持の困難化と経団連会長の発言

日本型のメンバーシップ型雇用は終身雇用と年功序列型賃金を前提にしています。しかし、少子高齢化と競争力低下もあり、その前提が維持できなくなってきました。

2019年以降、経団連の中西宏明前会長が、従来型のメンバーシップ型雇用の限界を指摘し、ジョブ型雇用の導入が必要であることを繰り返し訴えたのです。このことによりジョブ型雇用に注目が集まりました。

社会全体の平均年齢が若いうちは、若手の人材が多いので企業は年功序列を前提にたくさんの人材を雇うことができました。

しかし、高齢化が進んでくると、生産性の高い若手の人材は貴重なわりに少ない給料しか得られず、ITなどが苦手なわりに給料が高止まりしているベテラン人材ばかりが増えてくるといった弊害がでてきました。

そうすると会社全体が高コスト体質になり生産性が低下してくるので、経団連などはジョブ型雇用を導入して終身雇用制から転換しようとしているのです。

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ジョブ型雇用のメリット・デメリット

ジョブ型雇用にはメリット・デメリットがあります。企業側、従業員側のメリット・デメリットを以下の表にまとめました。


メリットデメリット
企業・即戦力の人材が得られる
・専門性のある人材が得られる
・業務効率化が促進される
・日本のシステムと合っていない
・柔軟な配置転換ができない
・業務効率化が促進される
従業員・自分の能力を発揮しやすい
・転職がしやすくなる
・恣意的な評価がされにくくなる
・スキルアップが自腹になる
・解雇規制緩和につながるおそれがある。

詳しくご紹介していきます。


企業側にとってのメリット

●即戦力の人材が得られる

ジョブ型雇用にすると即戦力の人材が得られます。ジョブ型雇用とは職務記述書に書かれた職務内容にマッチングする人材を採用するものであり、職務遂行のスキルが無い求職者はそもそも採用しないからです。

●専門性のある人材が得られる

ジョブ型人材はメンバーシップ型人材よりもスペシャリストが育ちやすいと言われています。なぜならスキルの高さが評価に直結するため、スキルを高めるモチベーションが上がりやすいからです。

●業務効率化が促進される

ジョブ型雇用にすると業務効率化が促進されやすくなります。なぜなら、職務記述書を書く過程で業務が洗い出されるからです。メンバーシップ型は職務の内容が規定されていないので、いつの間にか無駄な業務が発生していることが多いですが、ジョブ型は無駄な業務が少なくなります。


従業員側にとってのメリット

●自分の能力を発揮しやすい

メンバーシップ型雇用は職務を限定せずに一括採用し、その後で職務を割り当てます。したがって、中には採用されたのにあまりやりがいの持てない職務を割り当てられてしまう従業員が出てきます。その場合、従業員は非常にストレスを抱えてしまうことになります。

しかし、ジョブ型雇用ならば自分が希望する職務と会社が要求する職務をマッチングさせた上で労働契約を結びますので、不本意な業務をやらされる恐れがありません。自分の能力を思う存分発揮できます。

●転職がしやすくなる

メンバーシップ型雇用では終身雇用が前提になりますので「会社を辞めるのは何か訳ありの人」という固定観念が形成されてしまいます。したがって、転職市場があまり活性化せず、転職した人は転職してない人に対してその後のキャリアが不利になります。

しかしジョブ型雇用であれば決まっているのは会社ではなくジョブであり、同じジョブで異なる会社を渡っていくことが当たり前になるため、転職が不利になることがありません。

●恣意的な評価がされにくくなる

メンバーシップ型雇用では上司が部下の評価をし、それに基づいて給与額が決定されます。しかし、職務が明確化されていないため、評価基準が恣意的で上司の好みで決まったりします。

ジョブ型雇用では、そもそも業務の評価によって給与が決まることが無いため、上司の恣意的な基準が入り込むことがありません。ジョブ型雇用では職務記述書によって給与額が決まるからです。


企業側にとってのデメリット

●日本の社会システムと合っていない

日本の社会システムは新卒一括採用や終身雇用制を前提にして構築されており、ジョブ型雇用とは不整合を起こす可能性があります。

欧米型のジョブ型雇用では、市場環境の変化や業績の悪化によって今あるジョブが必要なくなったとしたら、そのジョブに就いている社員をリストラできます。

一方で、日本では解雇規制が厳しく、配置転換などの経営努力をしない限り解雇が認められない可能性があります。

ジョブありきで採用するのがジョブ型雇用なのに、配置転換(ジョブ転換)を前提にしてしまったらジョブ型ではなくなります。

日本では社会のシステムが変わらない限り欧米型のジョブ型雇用をそのまま取り入れることは難しく、日本型のジョブ型雇用を模索する必要があるのです。

●柔軟な配置転換ができない

ジョブ型雇用では柔軟な配置転換ができない可能性が高いです。一方、メンバーシップ型雇用は柔軟な配置転換がしやすいのがメリットです。なぜならメンバーシップ型の場合、配置転換命令に一定の強制力が認められているからです。

例えばエンジニアとして雇った社員を営業に回すとその社員は嫌がるかもしれませんね。もちろん社員が納得して働けるようにしっかりした説明は必要ですが、原則として社員は会社の命令を拒否できないことになっています。なぜなら、市場環境の変化や業績が悪化したときに、解雇ではなく配置転換で対応する前提なのがメンバーシップ型雇用だからです。

ジョブ型雇用の場合はこの配置転換命令権が認められていないので、エンジニアとして雇った社員にはエンジニアの仕事しかさせられません。したがって、柔軟な人材の運用が難しい可能性があります。


従業員側にとってのデメリット

●スキルアップが自腹になる

メンバーシップ型雇用では社員のスキルアップに会社が投資をしてくれます。しかし、ジョブ型雇用システムは即戦力を雇うものであり、スキルの無い社員はそもそも雇われません。

入社後のジョブローテーションも無いため、会社で働いていたら自然とゼネラリストになるということもありません。自分から積極的にキャリアについて考えてスキルアップに投資していないと他の労働者との競争に負けてしまう可能性があります。


●解雇規制緩和につながるおそれがある

先述したように、日本には労働法があるため、非常に強い解雇規制があります。企業がジョブ型雇用を採用するだけでは法律は変わらないため、解雇のしやすさはそこまで変わらない可能性が高いです。

しかし、それではジョブ型雇用の特色を発揮しにくいため、政治に対し企業が解雇規制の緩和を求める可能性があります。ジョブ型雇用を導入する企業のほうが多くなれば政治も対応せざるを得ないかもしれません。解雇規制が緩和されると正社員の安定性が崩壊し、人生設計に大きな影響を及ぼす可能性があります。


ジョブ型雇用の導入方法

ここでは現行の日本の法律を前提にしたジョブ型雇用の導入方法について解説します。


1.ジョブの洗い出し

まず、現状の会社の業務がどのようなジョブで成り立っているのか、ジョブを洗い出しましょう。

ジョブ型雇用で最も難しいのはおそらくこの工程です。ある程度の規模の会社になってくると事業部や部署も複数存在し、メンバーも数百人、数千人と存在するはずです。

その多数のメンバーたちがそれぞれどのようなジョブを遂行していて、今後どのようなジョブが必要なのか洗い出すのは非常に難しいです。ジョブ型雇用導入の際はこの工程が1つの壁となるでしょう。


2.職務記述書の策定

ジョブが洗い出せたら職務記述書を策定します。洗い出したジョブを書いていくだけなので簡単に思えますが、適切な抽象度で書く必要があるので意外と難しいです。

また、規模の大きな会社なら文書にまとめること自体に膨大な工数がかかります。

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3.評価制度の明確化

人事制度(評価制度)と賃金体系をどのようにするかを決めましょう。賃金は職務に応じて決まります。簡単な職務なら安い賃金で高度な職務であるほど高い賃金になります。

メンバーシップ型雇用では仕事の取り組み方や目標の達成率も評価の対象になりますが、欧米型のジョブ型雇用では職務を遂行できたかによってのみ決まります。他の要素は評価に影響しません。


4.段階的に導入する

今までメンバーシップ型雇用だったのにいきなり全てを欧米型の評価制度にすると管理職も社員も混乱するため、部分的な導入から試験的に初めて段階的に広めていくなどの方法を取りましょう。


日本での導入における注意点

日本でのジョブ型雇用導入に関していくつか注意点があります。


個人主義になりすぎないように注意する

ジョブ型雇用は1人ひとりの職務記述書で仕事が明確化されてしまうため、個人主義的な働き方になりがちです。しかし、ジョブ型雇用は個人主義を推進するものではありません。

チームとして評価する要素を入れれば良いのです。ジョブ型雇用を導入する際には個人主義を推奨しているようなメッセージを社員たちに発信してしまわないようにしましょう。


現場の社員同士の意識のズレに気をつける

急にジョブ型雇用という新しい制度が入ってくると、社員同士の意識のズレによりコミュニケーション不全が起きる場合があります。

例えば職務記述書に記載の無い業務を悪気無く頼んでしまうなどです。制度をあまり理解していない場合もありますし、職務記述書は形だけのものだと誤解している場合もあるでしょう。

意識のズレが生じないように事前にしっかりと制度の内容について説明しておくことが重要です。


完全なジョブ型への移行は考えにくいという有識者の意見もある

有識者の中には完全なジョブ型雇用への移行に懐疑的な人も存在します。新卒一括採用や1つの会社にずっと勤めることを是とすることは、企業側にも人材運用の柔軟性など多大なメリットをもたらしており、制度が変わったからと言って急にやめられないという予想です。

結局は従来のメンバーシップ型のメリットを活かしながら部分的にジョブ型にするか、ジョブ型に囚われずにメンバーシップ型雇用の矛盾点を日本独自に解決するような方向に行くと予想する有識者もいます。


まとめ

ジョブ型雇用は職務記述書に基づいたジョブに人を割り当てる方式の雇用システムです。

日本型のメンバーシップ型雇用とはかなり違うため、社会システムから改革しなければ根本的な導入はなかなか難しいかもしれません。導入する際には社員へ十分に説明をしたうえで、部分的な導入から始めるなど、きめの細かい対応が求められます。



ヒトクル編集部
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