有給休暇を5日以上取らせないと罰せられる?対策を解説
企業は従業員に年に5日以上の有給休暇を取得させることが義務付けられています。
5日以上の有給休暇を取得できない場合は、使用者に対し、30万円以下の罰金が科せられることになり、企業イメージにも悪影響です。
この記事では、有給休暇取得義務化の経緯と、企業が守るべきこと、違法行為をしないための対策について説明します。
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※労働基準法の年次有給休暇|基礎知識から法改正にともなう変更点まで解説
有給休暇の年5日取得義務化とは?
有給休暇の取得義務化とは、国民の有給休暇の消化率が悪いため法律で取得を義務づけることで労働者の権利を保護しようとするものです。
この義務化により、企業は条件を満たす従業員に対して、年5日の有給休暇を取得させる必要があります。
有給休暇とは?
有給休暇とは働いたのと同じだけの給料がもらえる休暇日で、労働基準法第39条で付与が義務づけられています。
有給休暇は入社日から起算して6ヶ月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した社員に付与されます。
付与される日数は勤続年数によって異なり、入社半年時点では年間10日ですがその後6年で20日まで増える規定です。
しかし、伝統的な社風の日本企業では、休暇を取るとサボっているとみなされたり、休まず働くことが望ましいという雰囲気があったり、同僚に迷惑をかけるから休みにくい雰囲気があったりします。日本人の有給消化率は低いままであり、制度が形骸化してしまっていたのです。
これを問題視した国は、働き方改革の一環として、2019年の4月に労働基準法を改正し、有給休暇の取得を義務化しました。
これにより、付与日数が10日以上の従業員に付与日から1年以内に年5日以上の有給休暇を取得させなかった企業は、法令違反となります。罰則もあり、30万円以下の罰金が科されます。
法令違反で罰金となると企業イメージにも大きな影響が出るため、法律に則って運用する必要があります。
※【徹底解説】働き方改革関連法の概要や改正点、対応方法や施行スケジュールなど
時季指定義務と時季変更権
改正後の労働基準法では、年に5日以上の有給休暇取得義務だけではなく、時季指定義務も盛り込まれています。時季指定義務とは、5日間の有給休暇取得の時季を企業が指定する義務のことです。これは労働者の有給休暇取得を促進することを目的にしたものです。
有給休暇には時季変更権というものもあります。時季変更権とは従来の労働基準法でも存在した概念で、労働者の有給休暇申請に対して、時季をずらして取得させられる権利をいいます。これは繁忙期などに企業の業務に影響が出ないようにするためです。
時季指定義務と似ていますが、時季変更権は労働者の保護ではなく企業側の利益の保護が目的である点で異なります。
これらの義務や権利が存在したとしても、企業が勝手に労働者の有給休暇の時季を決定できるわけではありません。
時季指定義務や時季変更権を行使する際には、有給休暇申請した労働者の意向を尊重し、十分な聴取と話し合いの上で実施しましょう。
キーワード | 概要 |
---|---|
時季指定義務 | 5日間の有給休暇取得の時季を企業が指定する義務 |
時季変更権 | 労働者の有給休暇申請に対して、時季をずらして取得させることができる権利 |
労働者が有給休暇を5日未満しか取得していない場合の対応方法
すでに労働者の有給休暇取得日数が5日以上の場合は、有給休暇取得義務の基準を満たしているので、それ以上取得させる必要はありません。
しかし、10日以上付与された労働者が5日未満しか有給休暇を希望していない場合は、残り日数の取得時季を指定する義務が企業にあります。
たとえば労働者が3日しか有給休暇を取っていないとすると、残り2日を付与日から1年以内のどこかの時季で取るように促す義務が発生します。
仕事が遅れるなどの理由で労働者が難色を示す場合には、業務量を調整するなどの対応が求められるでしょう。
有給休暇を取ると人事評価に影響すると労働者が思い込んでいる場合もあります。有給休暇の取得は義務であり、評価には影響しないことを説明する必要もあるでしょう。
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義務化の対象となる労働者は?
有給義務化の対象となる労働者は、有給休暇が10日以上付与されている者です。条件を満たしていれば、正社員に限らずアルバイトやパートタイマーも対象となります。
具体的には以下の4つのパターンに分かれます。
勤続年数6ヶ月以上のフルタイム労働者
入社後6ヶ月が経過している正社員とフルタイムの契約社員には10日間の有給休暇が付与されますので、5日間の有給休暇取得義務も発生します。
勤続年数6ヶ月以上、かつ週30時間以上勤務しているパートタイマー
有給休暇の付与には正規雇用と非正規雇用の区別はありません。パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者にも有給休暇は付与されます。この場合にも5日間の有給休暇取得義務が発生します。
ただし、条件があり、短時間労働者に有給休暇が付与されるには週30時間以上の勤務が必要です。
勤続年数3年半以上、かつ週4日出勤のパートタイマー
週4日勤務のパートタイマーの場合、入社後3年半が経過し直近1年間の出勤率が8割を超えていることが条件です。この条件を満たすことによって、10日間の有給休暇が付与され、同時に5日間の有給休暇取得義務が発生します。
勤続年数5年半以上、かつ週3日出勤のパートタイマー
週3日勤務のパートタイマーの場合、入社後5年半が経過し直近1年間の出勤率が8割を超えていることが条件です。この条件を満たすことによって、10日間の有給休暇が付与され、同時に5日間の有給休暇取得義務が発生します。
週1日勤務と週2日勤務の場合は10日以上の有給休暇は付与されないため、有給休暇取得義務は発生しません。
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有給休暇取得義務の1年間とはいつからいつまで?
改正労働基準法の有給休暇取得義務では1年間に5日間の消化が必要であることはここまでに述べました。
しかし、有給休暇取得義務の1年間とはいつからいつまでの間なのでしょうか。それは有給休暇が10日間付与された日を基準にします。
法律通りに入社6ヶ月後に付与する場合
労働基準法第39条によれば、有給休暇は入社6ヶ月後に10日間付与されることになっています。この法律通りに運用した場合、入社6ヶ月後の日にちを基準日とし、そこから1年間で5日間の有給休暇取得が義務となります。
付与を前倒しして入社日に10日付与する場合
企業によっては有給休暇の付与を前倒しして入社日に10日間付与するケースもあるでしょう。有給休暇の付与は法律で定められた基準より遅くなると違法ですが、前倒しする分には違法ではないからです。
その場合、入社日が基準日となり、そこから1年間で5日間の有給休暇取得が義務となります。
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有給休暇の取得義務を履行できなかった場合に罰則
改正労働基準法では罰則も設けられており、有給休暇の取得義務を履行できなかった場合はその法人の経営者などの使用者は罰せられます。
具体的には、履行できなかった場合「30万円以下の罰金」です。これは従業員1人あたりの罰金となる可能性があります。
たとえば従業員100人の会社で、10人が有給休暇の取得義務を履行できなかった場合は、300万円以下の罰金を経営者が払う可能性があるということです。
あくまでも罰せられるのは経営者などの使用者です。有給休暇を取得しなかったからといって従業員が罰せられることはありません。
法律は条文を杓子定規に適用するのではなく、労働者の権利がしっかり保護されているか実態で判断されます。法の穴を付いた抜け道のようなことをしても罰せられるので注意しましょう。たとえば抜け道とは以下のようなことです。
●有給休暇が付与される前日に契約解除し、一定期間後に再契約して勤続年数をリセットする
●週休2日の会社で一部の休みを平日にして有給休暇を取得させて休ませる
●従前は休日だった夏休みや年末年始を、労働日にして有給休暇を取得させて休ませる
このような行為は脱法行為とみなされ、処罰される可能性がありますので、やめましょう。
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従業員の有給休暇取得が進まない原因
従業員の有給休暇取得はなぜ進まないのでしょうか?有給休暇取得を進めるために、代表的な原因を見てみましょう。
全体的な有給休暇取得率の管理がされていない
経営者に有給休暇取得の法律の知識やリテラシーがなく、全体的な有給休暇消化率の管理がされていないことが原因の1つとして挙げられます。
適切に有給休暇取得を管理するには、従業員の有給休暇取得状況を可視化しなければなりません。
しかし、人事担当が個人的にエクセルで管理しているだけだったり、各部門の管理職に任せっきりだったりして、全体で有給休暇をどれだけ取得しているのか、取得が遅れている従業員はいないか、有給休暇の残り日数は何日かなどを把握できていない企業も多くあります。
労務管理システムを導入するなどして取得状況を可視化しなければ、有給休暇取得率の管理はできません。
管理職の意識が低い
企業によっては従業員自身が有給休暇を取りたがらない場合もあります。とくに成果主義の会社では仕事を頑張るほど評価に繋がりやすいため、従業員自身がなかなか休みたがらない傾向にあります。
有給休暇を適切に取るように管理職が従業員に啓発・指導を行う必要がありますが、管理職の意識が低い場合はそれが進みにくいです。
管理職の中には「自分から休みたくないと言っているのだから問題ないだろう」と甘く考え、形だけの指導に終始している人もいます。
そのような管理職が多いと有給休暇の取得が進みません。
1人当たりの業務量が多すぎる
単純に忙しすぎて有給休暇が取得しづらい場合もあります。いつまで経っても仕事が終わらないと、休もうという発想になりにくいのです。
業務量の多い会社は、従業員が早く仕事を終わらせてもすぐに追加の作業を要求する場合も多く、会社の風土として「休むことは悪だ」という雰囲気になりがちです。
このような良くない雰囲気を変えていくのは時間も手間もかかります。
従業員同士の暗黙のルールがある
経営者や管理職が有給休暇の取得を啓発しても、従業員同士の暗黙の牽制のし合いによって有給休暇の取得がしづらい雰囲気になっていることがあります。
もし有給休暇を取得する人がいたら他の従業員は「迷惑をかけられた」と認識し、有給休暇を取った従業員を「空気の読めない人」扱いしたりします。
「病気などの不可抗力なら仕方ないが、遊びで有給休暇を取るのはダメだ」など先輩従業員が善意で誤った指導をしてしまう場合もあるでしょう。
このような状態を可視化するには有給休暇取得率のデータから判断することが大事です。極端に取得率が低い部門があればそれは取得しづらい雰囲気によるものかもしれません。
その場合は、経営者や人事担当者が有給休暇取得義務を従業員にていねいに説明するなどの対策が必要になるでしょう。
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年次有給休暇取得義務を履行するための対策
改正労働基準法の有給休暇取得義務に対応するには、運用方法を工夫する必要があります。
年次有給休暇取得計画表を作成
まずは有給休暇の取得計画を立てましょう。有給休暇消化義務を満たすには計画的な取得が不可欠です。
あらかじめ計画表を作ることで、有給休暇を取得しづらい職場の雰囲気が醸成されるのを防止する効果もあります。
取得計画は1年単位だけではなく、ある程度細かいスパンで立てましょう。四半期ごとや月次での計画も必要です。一定のペースで取得しなければ年度の後半で一気に取得することになり、経営に悪影響を及ぼすからです。
計画年休制度の導入
有給休暇所得率を向上させるには計画年休制度を導入すると良いでしょう。計画年休制度とは、労使協定を結ぶことで、企業が従業員に対して、事前に有給休暇の取得日を決められる制度です。
決められる日数は有給休暇の付与日数から5日間を引いた日数です。10日間の有給休暇が付与されていれば、5日間は計画年休で使えます。
一律で管理できるので、手間もかからず、取得率も向上しやすいのがメリットです。労使協定を結ぶ必要があり、その面では手間がかかります。従業員にとっては有給休暇の取得日が決まってしまうのはデメリットであるため、反発を招きやすく、労使の話し合いも難航する可能性があります。
■計画年休制度に必要な手続き
計画年休制度の導入には以下のような手続きが必要になります。
1. 就業規則への記載
2. 労使協定の締結
就業規則計画年休制度について、就業規則に定めなければなりません。たとえば、就業規則の年次有給休暇の条文の最後に、以下のように記載します。
"前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
【参考】年次有給休暇取得促進特設サイト/厚生労働省
次に労使協定を締結します。労使協定は経営者と労働者の代表が締結します。労働者の過半数を組織する労働組合がある場合は労働組合と締結しますが、無い場合は労働者の代表を選出しなければなりません。
有給休暇を取得したがらない社員への対応
有給休暇の消化率が低い従業員へは、定期的にアナウンスと指導をする必要があります。仕事熱心な従業員ほど有給休暇を取りたがらない傾向にあるため、有給休暇を適切に取得することが会社への貢献になるのだと理解してもらいましょう。
職場を有給休暇が取りやすい雰囲気にするためにも、管理職が率先して有給休暇を取ることが大事です。忙しくて有給休暇を取りにくいなら、業務量の調整や人員の増加、従業員のリスキリングや再配置など根本的な対策を取る必要があるでしょう。
年次有給休暇管理簿の作成・保存
年次有給休暇管理簿を作成することも義務です。労働基準法ではこの帳簿の3年間の保存が義務づけられています。
年次有給休暇管理簿には以下の項目を記載しなければなりません。
●従業員の基本情報
●有給休暇の付与日
●取得した年月日
●1年間の取得日数
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効率的に有給休暇を管理するにはITツールを導入しましょう
有給休暇の日数管理は複雑になりがちです。従業員によって入社日が異なる場合も多いからです。新卒採用ならば同じ日に入社しますが、中途採用なら年度の途中から入る場合が多いでしょう。
有給休暇の取得は勤続年数を基準として決まり、勤続年数は入社日をベースとしてカウントするので、人によって基準日や付与日数、取得義務の期間が異なるのです。
有給休暇の取得状況を管理できるITツールを導入すれば、そのような複雑な管理を効率的に行えるようになります。
勤怠管理システムを導入する
効果的なのは勤怠管理システムの導入です。勤怠管理システムは主にクラウドベースで提供されるITツールで、従業員の出退勤や有給休暇の取得を効率的に管理するものです。
勤怠管理システムを使うメリット
勤怠管理システムには以下のメリットがあります。
● 法改正があったときのシステムのアップデートが自動的にできる
● 従業員が自分の有給休暇取得状況を一覧表示できる
クラウドサービスならばシステムのアップデートはベンダーが行うため、法改正のたびに自社でメンテナンスをする必要がありません。これはクラウドの大きなメリットといえます。
従業員の意識向上に有効なのもメリットです。勤怠管理システムのダッシュボードには従業員もアクセスでき、自分の勤怠状況を自由に閲覧できます。そのことで自分の有給休暇取得状況が可視化され、有給休暇取得に対する意識が高まるのです。
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【まとめ】年5日の有給休暇を取得させましょう
有給休暇取得義務化は、日本企業の働き方改革において重要な施策です。国は労働基準法を改正し、5日間の有給休暇を取得できるよう義務化しました。
これは、従業員の権利を保護し、より働きやすい労働環境を確保するために導入された制度です。罰則もあるため、企業はこの義務を履行しなければなりません。ITツールなどを活用して効率的に有給休暇を管理し、年5日の有給休暇取得義務を達成しましょう。
「ヒトクル」は、株式会社アルバイトタイムスが運営する採用担当者のためのお役立ちサイトです。
「良いヒトがくる」をテーマに、人材採用にかかわる方々のヒントになる情報をお届けするメディアです。「採用ノウハウ」「教育・定着」「法務・経営」に関する記事を日々発信しております。各種お役立ち資料を無料でダウンロ―ドできます。
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求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。