人材育成計画の立て方|計画書を作成する際のポイント・注意点も解説
採用難易度が上昇する中で、優秀な人材を中途採用で確保しようと思っても、なかなか良い人材が見つからないケースは珍しくありません。
そこで、自社で働く人材の育成に力を注ぐ企業が増えてきています。
この記事では、自社の人材を成長させる人材育成計画の立て方について、計画書を作成する際のポイント・注意点に触れつつ解説します。
人材育成計画を立てる際に必要不可欠な要素
これから人材育成計画を立てようと考える前に、いくつか担当者が押さえておきたい要素が存在します。
以下、人材育成計画を立案する上で、必要不可欠な要素をいくつかご紹介します。
企業理念・ビジョンを盛り込む
人材育成において、企業にとって役立つ人材を育成する視点を忘れてしまうと、単純な人材のスキル向上に留まってしまうおそれがあります。
どんな部署でも働ける「ポータブルスキル」を身につける観点からは、スキル向上は役に立つ要素かもしれませんが、企業・組織が必要とする人材に育つかどうかは不透明です。
そこで重要なのが、人材育成計画の立案時に、自社の企業理念・ビジョンを盛り込むことです。
育成担当者が育成目標を立てる上で、企業理念・ビジョンを無視することは、その後の計画に重大な影響をもたらすおそれがあるため注意しましょう。
特に、新入社員育成計画の立案時は、社としての「人材育成の目的」を明確にする上でも、企業理念・ビジョンが重要なポイントになります。
※パーパスとは?MVVとの違いやメリット、運用方法まで徹底的に解説
企業理念・ビジョンを育成計画に盛り込む場合の一例
例えば、以下のような企業理念・ビジョンを持つ、オンラインアシスタントサービスを手掛けるA社があったとします。
<企業理念>
働く場所にとらわれず「様々な立場の人が自分の能力を活用できる」こと
<ビジョン>
全国各地でリモートワーカーを増やし、それぞれのワーカーの人生と働き方を充実させること
このような企業の場合、A社が社員に対して「リモートワークで通用するレベルのスキル」を求めるのは必然です。
任せる業務内容によって、詳細は異なりますが、概ね以下のような能力が社員には求められるでしょう。
○文章作成・計算能力だけでなく、チャットにも対応できるタイピングスキル(速度)
○自分が任されている業務につき、分からないことを自力で調べられるリサーチ能力
○Webカメラ・クラウドサービスなどを使ってのコミュニケーション能力
上記に加えて、各自の専門分野に関する知識・経験も求められますから、自社で役に立つ人材を育成しようと思ったら、幅広い知識・スキルを身につけてもらわなければなりません。
また、リモートワーク主体の環境において、管理職は他の社員のマネジメントにも携わることになります。
工程を確認しながら、担当者の遅れが目立つ仕事については、サポートに回る必要もあるでしょう。
同じ職場で話をしていれば、難なく解決しているような問題であっても、オンラインであるがゆえに状況が把握できず、その分解決に要する時間が増えることもあります。
企業理念・ビジョンに沿わない育成計画を立ててしまうと、自社で本当に必要とする人材を育成することはできませんから、計画の骨子には必ず盛り込むようにしましょう。
理想的な人材像を具体化する
人材育成計画に限らず、計画を立てる際は、いわゆる「絵に描いた餅」にならないよう、内容を具体的にする必要があります。
将来、自社で働いて欲しい人材像があやふやなまま計画を立てても、計画倒れになる可能性が高いからです。
しかし、あまりに理想を追求しても、非現実的な人材像ができあがってしまいます。
理想的な人材像を具体化する際は、自社で「どんなことができる人材ならよいのか」を明確にすることが大切で、理想から逆算して育成方法・育成ターゲットについて考える必要があります。
先ほどのA社を参考に、よく具体化された人材像の例を考えると、以下のようなイメージになるでしょう。
○提供する業務をリモートで担当できる(仕訳/給与計算/データ入力等)
○クライアントと直接やり取りを行い、他スタッフのサポートなしで、所定の時間内に業務を完遂できる
○クラウドサービスを使って自宅で各工程のチェックができ、手が回っていないところをサポートできる
逆に、先の例を抽象的なものにすると、人によって解釈が変わってしまうおそれがあります。
○一人でリモート対応ができる
※(どこまで仕事を任せてよいのか分からない)
○クライアントとコミュニケーションがとれる
※(業務すべてを自分で担当するのか、担当者につなぐだけなのか不明瞭)
○クラウドサービスを自宅で利用できる
※(自分のセクションの基本操作ができればよいのか、他の社員とも連携する必要があるのかイメージしにくい)
基本的に、何らかの指摘すべきポイントが見つかる人材像は、十分に具体化できていないものと考えた方が自然です。
人材像を具体化するポイント
説得力のある人材像を具体化するためには、ロールモデルとなる社員に注目して、その社員がどのようなスキルを持っているのか考えるとスムーズです。
同時に、これから育成しようと考えている人材へのヒアリングを実施し、育成する側・される側の認識の差を埋めていきます。
プレイヤーとして末永く働き続けたいと考えているのか、それともマネジメントを経験したいのか、人材によって将来の希望は様々です。
自社の希望を押し付けるのではなく、人材が納得できる育成計画を立てることが大切です。
技能レベルが現在の人材にマッチしている
スキル習得も含め、育成を計画している人材に対しては、無理がかからないような計画を立てなければなりません。
特に、技能レベルが現在の人材にマッチしていることが大切で、例えば「技能レベル3の人材」が「技能レベル10の仕事」について教育を受けたとしても、十分な理解は期待できないでしょう。
経理職であれば、日商簿記3級レベルの人材が、会計学・原価計算についての深い知識を問われる業務を任されても、部分的な理解にとどまる可能性が高いでしょう。
営業職の場合、いきなり飛び込み営業の手法を教えることが、すべての人材にとってマッチするとは限りません。
人材育成計画を立てる際は、これから育成する人材のレベルに合わせて、カリキュラムを組むようにしましょう。
適切なレベルの技能を選び、人材育成計画を立てた場合、人材側がモチベーションを保ちやすくなります。
また、できないことが少しずつできていく感覚を身につけるうちに、やりがいを感じる社員も多いはずです。
技能レベルと人材の能力がマッチしていれば、身につける技能の種類も取捨選択しやすいですから、人材の長所を業務に活かしやすくなるでしょう。
個々の人材の長所を見出すには?
個々の人材の長所を見出すためには、他の人材との違いに着目することが大切です。
他者の目は、自分が気付きにくい能力・適性・クセなどを発見するのに、重要な役割を担います。
例えば、書類業務やデータ入力は素早いものの、他の社員とのコミュニケーションに消極的な人材がいたとします。
こういった特徴を持つ人材については、コミュニケーション能力の改善を試みるよりも、得意分野を活かして一人で仕事できる環境を整えた方が効率的です。
逆に、社内外を問わず誰とでも仲良くなれる人材がバックオフィス部門で働いていた場合、外の世界を見られるような仕事を任せた方が、会社への貢献度を高められるかもしれません。
それぞれの人材にマッチする人材育成計画を立てるためには、例えば360度評価を報酬決定に反映させない形で導入するなど、上司・部下・同僚など様々な社員の視点を統合できるような仕組みがあるとよいでしょう。
目標を細かく設定する
人材育成計画における目標につき、経営に関わる大きな目標を掲げることはもちろん大切ですが、大きな目標はそのまま設定せず、細かく分解して段階ごとに設定することが重要です。
一口に経営目標の達成に向けた人材育成といっても、部署・業務内容・人材のレベルなど、諸々の条件によって人材が達成すべき目標は変わってきます。
一歩ずつ小さな目標をクリアして、最終的に理想の将来像に達するような目標を設定すると、人材は目標達成のたびに達成感を味わえるため、長期に渡りやる気を維持できるでしょう。
実際に目標を細分化する際は、まず「人材が身につけるべき能力の程度」を洗い出します。
企業(上司)が求めている能力から、現在の能力を差し引いた部分が、将来その人材が身につけなければならない能力といえます。
次に、小さな目標から大きな目標への道筋を立てていきます。
具体的には、【目標達成に要する能力<個人目標<経営目標】の順番で目標が大きくなっていくため、例えば以下のように段階を設けて目標を考えていきます。
目標 | 具体的な内容 |
小目標 (目標達成に要する能力) |
・Web会議の時間短縮を実現する段取り力(事前準備やカメラに頼らないコミュニケーションの実現)
・オウンドメディアのコンテンツ充実(Web営業力強化) ・オンラインツールを使ったスケジュール管理(取引先とのやり取りのリモート化推奨) |
中目票 (個人目標) |
・月残業時間10時間削減
・交通費削減(前年同月比30%減) |
大目標 (経営目標) |
・本社経費10%削減 |
段階ごとの目標は、具体的にできる部分を「徹底的に具体化する」よう心がけましょう。
例えば、中目票で残業時間を削減することにしたのであれば、どのようにして削減するつもりなのか、小目標で具体的な行動を考えていきます。
また、聞き手によって解釈が変わる単語・言葉がある場合は、行動を具体的に計画内で定義・説明します。
可能であれば、目標達成に向けたルートは、複数用意するのが理想です。
人材育成を成功させる「計画書」の重要性について
人材育成計画は、経営者や上司の頭の中で考えるだけでは不十分であり、計画を可視化できて初めて効果を発揮します。人材育成計画書、または人材育成計画表のように、書面で人材育成のプロセスを管理している企業も少なくありません。
以下、人材育成の成功には欠かせない、計画書の重要性について解説します。
人材育成計画書はとても重要な書類
新入社員と企業は、職務内容や労働条件などを確認する意味も含め、互いに雇用契約書を交わしますが、人材育成計画書も「人材育成」という観点では似たような意味を持つ書類です。
人材育成計画書は、育成する側・される側が成長のイメージを共有するために作成する書類ですから、互いに教育の進度・方向性に問題はないかどうか確認する上で重要です。
頭の中にある人材育成計画に基づいて人材育成を進めたり、書類を作成しても中身が適当だったりすると、人材育成に携わる双方が混乱しやすくなります。
書類として計画書を作成することで、結果的に人材育成の負担を減らし、人材が誤った方向に成長するのを防ぐことができます。
また、人材育成計画書を書き起こすことで、複数の教育担当者が、所定のカリキュラムに沿って指導することも容易になります。
指導の方向性も随時確認できるため、進捗や求めるスキルを把握しやすいのもメリットです。
PDCAサイクルによる育成の実践が容易
企業・個人の目標達成でよく用いられるPDCAサイクルは、人材育成にも活用できるシンプルなフレームワークとして知られています。
人材育成計画書があると、PDCAサイクルによる人材育成を実践しやすくなります。
PDCAサイクルを人材育成計画に当てはめた場合、次のようなプロセスが想定されます。
- Plan(計画) :人材育成の計画を立案する
- Do(行動) :計画に基づいて業務を遂行し、能力を身につけていく
- Check(確認):育成の進捗を確認して、どこまで達成できたのか明らかにする
- Action(改善):未だ達成できていない部分の原因を探り、今後の達成に向けて改善策を講じる
PDCAサイクルの中で人材育成を進めることにより、計画に基づいた継続的な育成をスムーズに進めやすくなります。
育成される人材が、計画者の思惑通りに育成が進んでいるのかどうか、確認が容易になるからです。
特に、育成の進捗確認・改善策の内容把握という観点では、人材育成計画書が理想的な成長の羅針盤となってくれるでしょう。
人材育成計画を立てる際に役立つ資料
組織としての人材育成ノウハウが十分でない企業にとって、人材育成のプロセスをスムーズにイメージするのは難しいかもしれません。イメージを言語化し、計画書という形で作成するには、一定の労力が要求されます。
しかし、ヒントとなる情報は数多く存在しており、特に厚生労働省が公開している人材育成の情報は非常に有益です。
以下、人材育成計画を立てる際に役立つ資料をご紹介します。
職業能力評価基準
職業能力評価基準とは、仕事をこなすために必要な以下の要素を、業種別、職種・職務別に整理したものです。
○知識
○技術・技能
○成果につながる職務行動例(職務遂行能力)
人材育成だけでなく、社員の採用や人事評価、検定試験の基準書として、多くの場面で活用できる基準です。
職業能力評価基準の構造はツリー型をしており、【業種→職種→能力ユニット(共通・選択)→レベル】といった形で業務内容が細分化されています。
以下、それぞれの構造について解説します。
業種
厚生労働省では、職業能力評価基準の策定業種につき、以下の65業種を整備しています。
○業務横断的な経理・人事等の事務系9職種
○建設・製造・運輸等の56業種
事務系の9職種については、業種を問わずほとんどの企業に共通する職種を網羅するものとして、一つの業種扱いで紹介されています。
また、他の56業種に関しては、大きく以下の7業種から派生しています。
○建設業関係7業種(型枠工事業・左官工事業など)
○製造業関係13業種(電気機械器具製造業・自動車製造業など)
○運輸業関係2業種(ロジスティクス分野など)
○卸売・小売業関係6業種(スーパーマーケット業・コンビニエンスストア業など)
○金融・保険業関係2業種(クレジットカード業など)
○サービス業関係16業種(ホテル業・外食産業など)
○その他10業種(印刷業・アパレル業など)
職業能力評価基準を、人材育成の計画立案で参考にする場合、まずは自社が該当する業種を選ぶことになります。
職種
職種に関しては、事務系職種とそれ以外の職種で、区分形式が異なります。
事務系職種は、まず以下の9職種に分かれ、さらに後述する「能力ユニット」によって19職務に整理されています。
○経理戦略
○人事・人材開発・労務管理
○企業法務・総務・広報
○経理・資金財務・経営管理分析
○情報システム
○営業・マーケティング・広告
○生産管理
○ロジスティクス及び国際業務
次に、それ以外の56業種の職種についてですが、こちらも能力ユニットによって職種が細分化されています。
能力ユニット(共通・選択)
職業能力評価基準の構造を説明するにあたり、特徴的な区分が能力ユニットです。
能力ユニットとは、効率的な業務遂行に必要な職業能力につき、活動単位ごとに区分したものです。
また、職種に共通して求められる能力は「共通能力ユニット」・各職務の遂行において特有的に求められる能力は「選択能力ユニット」として区別されます。
クレジットカード業を例にとると、共通能力ユニット・選択能力ユニットは、以下のように分かれます。
<共通能力ユニット>
○コンプライアンス
○顧客満足の推進
○課題の設定と成果の追求 など
<選択能力ユニット(一例:信用・債権管理職種の場合)>
○カード入会審査
○既存会員審査
○信用・債権管理業務の企画・統括 など
これらの能力ユニットは、次にご紹介する「レベル」によって、職務遂行のための水準が詳細に区分されています。
レベル
それぞれのレベルを満たすのに必要な職務遂行のための水準は、能力ユニットによって異なります。
また、業種全体におけるレベル区分に関しても、能力水準が示されています。
レベルは1から4まであり、大まかには新人・一般スタッフ・管理職以上といった形でレベル分けされるイメージです。
また、業種における一般的なキャリア形成の例についても紹介されています。
職業能力評価基準を人材育成に活用するメリット
職業能力評価基準を活用することで、人材の能力を細密に分析でき、同時にそれぞれの職務で求められる能力も具体的に可視化できます。
自社で職務内容があいまいだった仕事に関しても、社内で再定義することが容易になり、どのスキルが自社にとって特に重要なのか区別するのにも役立ちます。
人材ごとに異なるスキル・資格に応じた教育を実施することで、より効率的なスキルアップが可能になるだけでなく、人材自身が自らに求められている能力を再確認できるでしょう。
キャリアマップ
厚生労働省は、職業能力評価基準のレベルをベースにした、それぞれの職種の標準的なキャリアを「キャリアマップ」として示しています。
キャリアマップと自社の資格等級制度を対比させて、時間軸上にレベルを展開すると、自社オリジナルのキャリアマップを作成するのに役立ちます。
各業種・事務系職種のキャリアマップを見ることで、以下の情報が把握できます。
○キャリアの道筋
○各レベルにおける習熟年数の目安
○道筋に沿ってレベルアップする際のキーポイントとなる経験・実績
○キャリアアップに関連する資格・検定等
キャリアマップが用意されているのは、以下にご紹介する事務系職種3区分と16業種です。
<事務系職種3区分>
○人事・人材開発・労務管理・生産管理・ロジスティクス
○経営戦略・情報システム・営業・マーケティング・広告
○企業法務・総務・広報、経理・資金財務、経営管理分析・国際経営管理、貿易
<16業種>
○エステティック業
○警備業
○葬祭業
○ディスプレイ業
○外食産業
○フィットネス産業
○卸売業
○在宅介護業
○スーパーマーケット業
○電気通信工事業
○ホテル業
○ビルメンテナンス業
○アパレル業
○ねじ製造業
○旅館業
○ウェブ・コンテンツ制作業
職業能力評価基準に比べると、紹介されている職種・業種が少ないため、必要に応じて近種の業種のキャリアマップを参考情報とするのもよいでしょう。
キャリアマップを人材育成に活用するメリット
キャリアマップを自社で活用するメリットとしては、キャリア形成の道筋を具体的に示せる点があげられます。
育成する側が道筋を示すことで、人材が将来のキャリアに対する目標意識を高めやすくなりますし、実現に向けた具体的な行動をアドバイスする際にも役立つでしょう。
職業能力評価シート及び導入・活用マニュアル
職業能力評価シートとは、職業能力評価基準の中で職種・職務・レベル別に定められた職務遂行のための基準につき、人材がクリアできているかどうか簡易的に評価できるシートです。
チェック形式となっているため、育成する側・される側の双方が視覚的に分かりやすく、現状の能力・次のレベルに上がるために必要な要素が具体的に把握できます。
職業能力評価シートも、厚生労働省のサイトからダウンロードすることができ、活用マニュアルも用意されています。
なお、用意されている職種・業種は、キャリアマップと同様です。
人材育成計画書作成に役立つ資料のダウンロード
先にご紹介した、人材育成計画書作成に役立つ各種資料は、以下のページから無料でダウンロードが可能です。
<職業能力評価基準>
厚生労働省|職業能力評価基準の策定業種一覧
<キャリアマップ/職業能力評価シート及び導入・活用マニュアル>
厚生労働省|キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード
自社に関係する業種・職種の資料だけでなく、類似点がある業種等の資料をダウンロードして計画を修正するなど、計画に応じて様々な活用方法が検討できます。
これから人材育成計画を立てようと考えているものの、先立つ知識がなく途方に暮れている担当者の方は、ぜひ一度チェックしてみて欲しいと思います。
人材育成計画書を作成する際の注意点
ここまで、人材育成計画の具体的な立て方や、計画立案に役立つ資料についてご紹介してきました。
その上で、以下の注意点を踏まえて計画書を作成できれば、計画が理想論に終始してしまうリスクを低減することにつながります。
計画は定期的に見直す
人材育成計画は、一度計画書ができあがったら終わりではありません。
むしろ、PDCAサイクルを回す中で、適宜見直していくものだという自覚を持つことが大切です。
計画を実行するにあたり、いつでも順風満帆の環境で育成が進むとは限らず、いったん仕事で何らかのトラブルを抱えてしまうと、途端に計画が中断してしまう可能性は十分考えられます。
その状況を放置してしまうと、育成される側のやる気にも悪影響を及ぼしやすく、計画が頓挫したことにより自分を責めてしまうおそれもあります。
逆に、当初想定していたスピードをはるかに上回るペースで計画が進んだ場合は、計画を早回しで進めた方が時間を無駄にせずに済むでしょう。
人材育成計画書は、定期的に見直すことを前提とした計画書として運用できるよう、ある程度ゆとりを持たせた方がベターです。
「なぜ」に対する答えを盛り込む
人材育成計画書は、不特定多数に向けた教育カリキュラムではなく、基本的には特定の人材の成長を目指すものです。
よって、育成プロセスの中で人材が想像するであろう質問に関しては、あらかじめ想定した上で答えを出せるようにした方が賢明です。
具体的には、以下の3点にポイントを絞り、仕事に取り組む意味を説明できるようにします。
○なぜ自分の仕事が必要なのか
○なぜその仕事を所定の手順で行わなければならないのか
○仕事の全体像を俯瞰した上で、なぜその仕事が存在しているのか
これらのポイントに沿って、仕事に取り組む意味を説明できると、指導を受ける際のモチベーションも変わってきます。
また、社内において自分に求められている立場が明確になることで、責任感・やりがいも生まれやすくなるでしょう。
与えられたミッションが、自分の能力・自分に対する期待に由来するものだと分かれば、計画書に記載された目標を達成していくうちに、人材側も自然と手応えを感じやすくなるはずです。
管理職・人事間の連携を強化する
個々の社員がどんなスキルを身につけていれば、企業として大きな成果につながるのか、俯瞰的に考えられる立場の人間は限られています。
そのため、多くの企業において、人材を教育する側は管理職・人事というケースがほとんどでしょう。
管理職の目線で人材育成を考えた際、多くの管理職は社員に寄り添う形で計画を練るものと考えられます。
しかし、企業として人材育成の方針を考える上では、企業全体の成長に目を向ける立場の人事職が重要な役割を担います。
人材を育成する目的、自社の将来を見据えた人材の確保など、人事は企業の「ヒト」に関するニーズを把握しているセクションです。
企業の人材育成計画という観点から、より望ましい形で成長を促したいのであれば、人事の目を通して計画を立案するのは当然といえるでしょう。
もちろん、実際に現場で育成に携わるのは管理職の側ですから、人事としても理想を現場に下ろすだけでは十分な成果は期待できません。
人事としては、管理職が人材育成を進める中で生じた差異に気付き、都度無理のない範囲で軌道修正できるようサポートすることが大切です。
短期間での詰め込みは逆効果と心得る
社内における人材育成においては、多くの場合、仕事の合間に新しい仕事を教えたり、勉強時間を確保したりするのが一般的です。
例えば受験勉強のように、人材のペースで短期間に情報を詰め込む方法は馴染みにくく、無理やり詰め込もうとすると、通常業務に支障をきたすかもしれません。
研修・勉強会など、所定の時間を確保する必要はあるかもしれませんが、人材のスケジュールには十分配慮して計画を立てる必要があります。
人材育成を効率化するポイントは、複数の課題を網羅するのではなく、あえて課題を一つに絞ることです。
長い目で見て、今月はこの課題、来月はあの課題といったように、一つひとつ確実に計画を遂行する意識を持つことが大切です。
eラーニングを活用する
人材育成の重要性は十分に理解していても、スケジュールがどうしても合わず、管理職・人事の側で時間を確保できないというケースは決して珍しくありません。
「仕事は仕事・勉強は勉強」といったように、メリハリをつけて学びたいと考えている人材もいるでしょう。
そのような職場において有効なのが、eラーニングの活用です。
eラーニングとは、パソコン・タブレット・スマートフォンなどを利用して、インターネットを使って学ぶ学習形態のことをいいます。
新型コロナ禍において、学校の授業・講義がeラーニングで行われるケースも珍しくありませんでしたが、社会人の間でもeラーニングは導入されてきました。
近年では、働き方改革の影響もあることから、知識をインプットするプロセスではeラーニングを実施し、研修の場でアウトプットを行うといったカリキュラムを組むケースも増えてきています。
まとめ
人材育成計画を立案する際は、企業理念やビジョンに即した理想の人物像をベースに、育成する人材のレベルに応じて段階的に目標を立てることが大切です。
また、人材育成計画書を作成した上で、フレキシブルに運用できると、人材育成を効率的に進めることができます。
人材育成において欠かせない、部下とのコミュニケーションの方法については、以下の記事もあわせてご覧ください。
※部下が成長し、結果を出す「部下とのコミュニケーション」8つの方法| Leaders Method
もし、人材育成のノウハウが乏しいことを理由に、人材育成計画の立案を見送らざるを得ない状況の場合は、外部から人材育成の経験がある人材を採用するのも一手です。
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