社員の定着に必須?|リテンションの概要やメリット、代表的な取り組み事例を解説!
リテンションマネジメントという言葉をご存知でしょうか。人材の流出が深刻化し、問題視されている中で注目を集めている施策です。社員の定着率を高めるために実践する企業が増えていますが、具体的な取り組み方が分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事ではリテンションの概要や注目される背景、導入目的やメリットについて解説します。また、実際の取り組み事例も紹介しますので、社員の定着率を高めたい方は参考にしてみて下さい。
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リテンションの概要
リテンションとは、人事用語で言うと人材流出の防止を意味します。直訳の意味では「維持」「保持」といった意味がありますので、社員に継続的に働いてもらうための施策を指す言葉でもあります。なお、マーケティング業界では「既存顧客との関係を維持」の意味でも用いられる用語です。
近年、人事業界では採用競争力の確保や人材不足の解消の手段として、このリテンション施策が注目されています。また、採用コストは企業にとって負担が非常に大きいため、リテンションを行い採用効率の改善を図る工夫は必須と言えます。
リテンションには様々な方法がありますので、自社にとって最適な施策を検討しながら取り組みを行ってみましょう。
リテンションが注目される背景
リテンションが注目されることになった背景には、主に以下の要因があります。
① 少子高齢化、団塊世代の退職による人材不足
現在の日本では、少子高齢化や過去に主要な働き手であった団塊世代の退職で、労働人口が減少し人材不足になっています。慢性的な労働力の不足に悩まされ、生産性が大きく低下している企業も増加している傾向にあります。
したがって、こうした状況ではリテンションを積極的に行い、長く社員に働き続けてもらう取り組みを行うことが不可欠なのです。
② 転職の一般化と早期退職の増加
さらに、近年では転職に対する抵抗がなくなり一般化してきた点も要因として挙げられます。これまでの日本では、定年まで勤務する終身雇用制度の概念が基本でしたが、直近では転職でキャリアアップを図る事例も増えています。
また、若年層の早期退職が非常に増えている点も背景の一つです。貴重な労働力を社内に留保するため、リテンション施策を行うケースが増えているのです。
リテンションを導入する目的
リテンションの目的には主に下記の3つが挙げられます。前述の背景も理解した上で、正しい目的意識を持ちながら施策を進めましょう。
① 優秀な人材を社内に留保して活躍を促す
リテンションの目的の一つとして、人材の留保が挙げられます。仮に採用活動で優秀な人材を確保できても、就業環境や条件が悪ければ離職してしまい大きな損失となります。したがって、リテンションで優秀な社員が他社に行かないように防止する努力が不可欠です。
なお、離職の防止には既存の就業環境や勤務条件などを見直す取り組みが必要です。リテンションをしっかりと行えば、自社内で長期的に働く社員が増加しますので、優秀な人材が多く育ちます。
ぜひ、社内で社員がどのような環境を求めているのか、どういった理想を持って働いているのかを分析して、魅力的な職場環境に整備しましょう。
② 採用・育成コスト削減や生産性向上
従業員の離職率が低下すれば、採用活動を頻繁に行う必要がなくなります。また、人の入れ替わりも少なくなるため、新しい社員の育成に掛かる手間やコストも削減できます。リテンションには、こうした採用・育成コストの削減効果が見込めます。
特に、管理職や次期経営を担うリーダー候補の社員の育成には時間が掛かります。管理職や中堅社員が頻繁に離職してしまう環境では、組織をまとめて競争力を高める人材がいなくなってしまいます。
逆にしっかりとリテンションによる施策が機能すれば、社内に組織の中核を担う社員が増加し、育成効果も出て生産性の向上が期待できます。既存社員からの紹介を通じた採用、帰属意識の向上などの結果も見込めますので、積極的に施策に取り組んでみましょう。
③ 長期的な人材育成の実現
日本では現在、人材の流動化が活発化しているため、いかに社内で優秀な人材に長く勤務してもらうかが重要です。しかし、社員が頻繁に離職してしまう環境では、優秀な人物が自社内に存在せず、長期的な人材育成計画や経営戦略の立案が困難になってしまいます。
リテンションにしっかり取り組めばこのような事態を回避できるため、長期的な人材育成計画の立案や実行、経営戦略の策定も行いやすくなります。企業の成長には不可欠と言える施策ですので、社内で必要な取り組みを企画して実行しましょう。
なお、優秀な社員を留保するポイントとしては、対象となるペルソナを設定することです。その人物が求めるキャリアや、理想のライフスタイルを実現できる社内環境に改善して、魅力的な職場である点をアピールしましょう。
リテンションで見込める5つのメリット
リテンションを実施すると、以下の5つのメリットが見込めます。
① 採用・育成コストの削減
企業で採用活動を行う際には、求人情報サイトへの登録料・人材紹介会社への手数料・会社説明会や企業紹介資料の準備費用などのコストが掛かります。大量採用を行うのであれば、非常に高額になるケースもあるでしょう。
離職率が高いと、従業員が退職する度に上記の様な採用コストが発生してしまいます。しかし、リテンションの施策にしっかり取り組めば、こうした採用コストを抑えられます。
また、忘れてはいけないのが社員の育成に掛かるコストです。せっかく教育研修や先輩・上司からの指導を行っても、従業員がすぐに辞めてしまっては、その分の時間や費用が無駄になってしまいます。
リテンションを行えば、離職率の低下に伴い育成の手間や費用の軽減も見込めますので、導入を検討しましょう。
② 生産性や企業イメージの向上
リテンションが機能すれば、社員一人ひとりの業務効率が高まり、生産性や提供サービスの品質向上が期待できます。長期勤務する従業員が多くなれば、社員間のコミュニケーションや業務遂行もスピーディーになります。会社全体としての事業も効率化が図れますので、収益アップが見込めるでしょう。
また、社員の勤続年数が長くなれば、その分業務に関するノウハウも蓄積されます。蓄えられた経験や知識を活かす社員が増加すれば、より付加価値の高いサービスや商品の開発、事業展開などができるでしょう。
さらに、リテンションが成功すれば企業イメージの向上にも繋がります。従業員にとって良い会社であると認知されれば、採用活動でも優秀な人材が集まりやすくなるメリットがあります。
③ 採用市場における競争力の強化
近年は採用市場における人材獲得競争が激化しています。このような状況下でも、リテンションの施策に取り組み成果が出れば、他社との採用競争でも優位になり、優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。
その理由として、リテンションには企業イメージの向上というメリットもあるためです。特に学生や転職者などの入社候補となる人材に良いアピールができるでしょう。採用でも応募が集まりやすくなる、入社意欲の高い応募者が増えるなどの効果が期待できます。
④ 従業員のモチベーションや帰属意識の向上
リテンションでは、社内制度の改善や労働環境の整備も行います。施策の実施で働きやすくなれば、従業員のモチベーションも向上するでしょう。また、会社への帰属意識が向上する社員も増加し、長期的に働いてくれる社員が増える可能性もあります。
こうしたモチベーション・帰属意識の向上から、会社全体としての離職率低下を促進する効果も期待できます。逆に、人材流出を防ぐリテンション施策に取り組まないと、社員の意識向上や意欲活性化を図れず、従業員の定着が進まないリスクが高まるでしょう。
なお、リテンション施策を行う上では、社員の能力を適切に把握して人材配置を行う「タレントマネジメント」の取り組みも不可欠です。本人と相性の悪い業務や部署、希望に沿わない環境に社員を配置してしまうと、効果は得られないため注意しましょう。
⑤ 安定的な経営戦略の展開が可能
リテンションの施策で効果が出れば、事業活動も効率化して安定的な経営戦略の展開ができます。社員の早期退職やノウハウが失われる損失、採用コストの手間や費用の削減により、事業資金にも余剰が生まれるためです。
資金に余裕が生まれれば、その分新たな事業分野や社員育成に投資ができるでしょう。また、長期的に勤務し続ける社員が増えることで、様々なスキルを持った人材も出てきます。そうなれば、配置転換や新事業への人員配置が行いやすくなり、安定的な経営を実現できるでしょう。
知っておくべきリテンションの種類とは?
リテンションは下記の2つの種類に分けられます。それぞれの特徴を把握した上で、バランスよく施策に取り入れましょう。
① 金銭的報酬
リテンションの1つである金銭的報酬は、主に金銭や福利厚生面での待遇を充実させて、社員の引き留めを図る施策です。具体的には以下のような項目を重視します。
- 報酬(給与や賞与)
- 福利厚生
- ストックオプション
- 各種手当等
- インセンティブ
特に離職の要因として大きいのは報酬面での不満です。従業員それぞれの働きや成果に応じて、透明性のある評価を行い適切な報酬を支給しましょう。
ただし、単に報酬アップや福利厚生の充実を図るだけでは、社員の離職を引き留められないケースもあります。近年では高額な報酬よりも、働きやすい労働環境や忙しすぎないゆとりのある仕事を求めて転職する労働者も多いためです。
したがって、後述する非金銭的報酬のリテンションも含めて施策を考案し、2つの種類をバランス良く実行することが不可欠です。
② 非金銭的報酬
非金銭的報酬のリテンションは、主にワークライフバランスや働きやすい環境の整備を重視する施策です。具体的には以下のような項目が該当します。
- ワークライフバランスの整備(例:フレックスタイム制や時短勤務、テレワークの導入など)
- キャリア形成の支援
- スキルアップや研修制度の充実
- 心理的安全性のある職場づくり
- 社内コミュニケーションの活性化
上記の様な非金銭面での待遇や環境整備もリテンションには重要です。特に近年は、育児を行いながら働く女性や主夫の方も多いため、ワークライフバランスを重視した勤務制度の構築は必要でしょう。
また、コロナウイルスの影響で社員間のコミュニケーションも希薄化しているため、人間関係の形成に不安を感じている労働者も多くいます。社内イベントや交流会を実施して、心理的安全性が保たれる職場づくりも行いましょう。
リテンション施策の主な取り組み事例
具体的なリテンション施策の取り組み事例も確認しておきましょう。自社で実施する際の参考にしてみて下さい。
① 社員のスキル・キャリアアップ支援
社員のスキルアップやキャリア形成のサポートは、代表的なリテンション施策の一つです。社員に長期的に活躍してもらうには、新たな知識やスキルの習得も必要となるためです。
したがって、スキルアップとして社内研修や外部講師が行うセミナーなどに参加できる機会を設けると良いでしょう。特に専門性の高いスキルは組織が習得をバックアップすると、社員のモチベーションが高まります。
その他、キャリア形成の支援としてチャレンジ制度、社内インターン、メンター制度などを設けるのもおすすめです。
② 給与体系・評価制度の見直し
金銭的報酬面のリテンションを強化する上で、給与体系や評価制度の見直しも欠かせません。不明瞭で曖昧な評価基準、分かりにくい給与体系では従業員の不満も高まり、離職の増加につながるためです。
したがって、個人個人の働きや成果に応じた評価制度を構築しましょう。なお、数字には出ない業務のプロセスや努力も評価して、多角的な視野で報酬を決定することが大事です。
従業員が「納得できる評価である」と実感できれば、会社に対する信頼感や帰属意識の向上、業務に対するモチベーションアップにもつながります。
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③ 他職種・他部門への異動
他職種や他部門への異動の機会を設ける、人材交流のイベントを企画するなどもリテンションの強化に有効です。仕事や階級、価値観の異なる様々な人と仕事を共に遂行すれば、自らのキャリア形成やスキル習得への意欲向上につながるでしょう。
また、所属部署以外の社員とも交流して人脈づくりを行えば、悩みや不安を相談できる相手も増え、離職防止の効果も期待できます。ただし、本人の意に沿わない異動はかえってモチベーションを下げてしまうため注意しましょう。
能力向上に意欲がある社員には、希望をしっかりとヒアリングして適切な環境を準備する点が大事です。
④ 社内コミュニケーションの促進
リテンション施策として、社内のコミュケーションを円滑にする取り組みも有効です。社員間での交流が活発化すれば、業務連絡やチーム単位での作業もスムーズになります。その結果、社員一人ひとりが高いモチベーションを維持しながら業務に取り組めるでしょう。
具体的な施策には、定期面談や1on1ミーティングなどがあります。さらに、社内での飲み会や懇親会なども行うと、上司以外の社員とも関わる機会が増えて良い刺激になるでしょう。
リテンションでは、社員同士の相互理解や連帯感を高める取り組み、意見交換の場を設ける点が重要です。ぜひ、自社に合ったイベントや施策を行ってみましょう。
⑤ 職場環境やワークライフバランスの整備
社内制度やルール以外では、オフィス環境そのものを変更するリテンション施策もあります。例えばオフィスをフリーアドレス化して、好きな場所で業務をできるようにするのも効果的です。場所の制限がなくなれば、話したい相手と積極的にコミュニケーションを取りやすくなります。
また、社員それぞれの働き方に合わせて、ワークライフバランスの整備も行うとリテンションにつながります。時短勤務やテレワーク、フレックス制度なども導入して、育児・介護・出産などの事情を抱えた人でも働きやすい環境を実現しましょう。
※ワークライフバランスを正しく知ろう|使い方や取り組み・メリットを解説
転職者が前職を辞めた理由について
転職者が前職を辞めた理由に関しては、厚生労働省の調査で以下のような結果が出ています。
<転職入職者が前職を辞めた理由別割合(令和3年の1年間)>
【男性】
〇 1位 その他の個人的理由・・・19.1%
〇 2位 定年・契約期間の満了・・・16.5%
〇 3位 その他の理由(出向等を含む)・・・15.0%
〇 4位 職場の人間関係が好ましくなかった・・・8.1%
〇 5位 労働時間、休日等の労働条件が悪かった・・・8.0%
【女性】
〇 1位 その他の個人的理由・・・24.6%
〇 2位 定年・契約期間の満了・・・12.3%
〇 3位 労働時間、休日等の労働条件が悪かった・・・10.1%
〇 4位 職場の人間関係が好ましくなかった・・・9.6%
〇 5位 その他の理由(出向等を含む)・・・8.0%
(出典:厚生労働省、令和3年雇用動向調査結果の概況)
回答を見ると、個人的な理由や定年・契約期間満了等を除けば、男女とも「職場の人間関係」や「労働条件」の悪さが離職の大きな要因であると分かります。職場環境やワークライフバランスの改善もリテンションに重要ですので、積極的に整備を行いましょう。
リテンション施策は社員の希望を重視しながら計画的に導入しましょう!
リテンションの概要やメリット、種類や取り組み事例などについて解説しました。社内でリテンション施策を成功させるためには、まず自社で発生している離職の理由や頻度の分析も重要です。そのためには、日頃から社員が希望する環境や目標なども把握しておく必要があるでしょう。
ぜひ、社内でアンケート調査なども実施しながら、本記事を参考にしつつ効果的なリテンション施策を考えてみて下さい。
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