企業が出した内定は取り消しできる? 認められる事例と進め方を解説
企業から一度出した内定の取り消しは認められているのでしょうか?
結論から言うと、企業都合による内定取り消しは、契約の一方的破棄に当たるため、合理的理由が認められない限り無効となります。
内定の取消しができるのはどのようなケースなのか、合理的理由で取り消しができる事例、取り消す際の進め方などを解説いたします。
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内定の取り消しとは
労働契約の開始日前であっても、企業と採用人材との間で労働契約が成立している、という事実をお互いに確認するため、「内定」を出すのが一般的です。内定取り消しは、この「内定」を、何らかの形で取り消す行為を指します。
内定者が入社を取りやめたい場合、内定辞退を選びます。期間の定めのない雇用契約は、「解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する」と民法で認められているため、法的な問題はありません。別の企業から内定をもらったり、内定者の気が変わったり、といった理由で内定を辞退する例がみられます。
逆に企業側は、労働契約法・労働基準法に則って採用活動を進める必要があります。すでに労働契約が成立している内定者にたいして、一方的な内定取消しはできず、合理的な理由がある場合は認められるケースがあります。
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内定のルールを確認
内定とは、
- 自社への就職を望む人材の採用決定
- 既存人材の昇進を内々で決定
など、雇用や役職などの決定を指します。
本人しか事実を知らず、表だって発表していないケースもありますが、採用や昇進の決定を伝え、内定者が受諾した時点で、労働契約が成立します。
そのため、企業側からの内定を取り消す場合、解雇と同じ扱いになります。
まだ企業で働いていなくても、一方的な取り消しはできません。
内定通知書は必要?
採用予定の人材に入社決定を通知する場合、内定を口頭で伝える、もしくは内定通知書を通じて連絡するのが一般的です。内定通知書や内定受諾書がかならず必要、という訳ではありませんが、内定を出しました、受諾しました、といった記録が残るように、書面で進めるのがおすすめです。
内定後のトラブルを避けるためにも、入社に関連する内容をきちんと記した内定通知書を用意しておきましょう。
※内定承諾書とは|内定通知書との違いや作成方法・返信用封筒についても解説
内定と内々定は何が違う?
内定と似ている言葉に内々定があります。混同しないように、違いを覚えておきましょう。
内定は、多くの企業で10月に出します。これは、政府(文化省・厚労省・経済産業省)の依頼により経団連が、年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請事項として、卒業・修了年度の10月1日以降を内定日にすると、定められているからです。
この10月以前に採用の事実を本人へ伝えるのが、内々定です。
内々定は、内定通知書といった書面は使用せず、メールや口答で伝えるのが一般的です。
内定取り消しが認められる7つの事例
採用予定の人材へ内定を出した後でも、企業側からの取り消しが認められる事例があります。どのようなケースが取り消しの対象になるのか、7つの例をみてみましょう。
1.学生が卒業にいたらなかった
企業が内定を出した学生が、何らかの事情で大学を卒業できなかった場合、企業が定める大学卒業の要件を満たせなくなります。
留年してしまい所定の入社日に入社できない、入社する前に学校を辞めてしまった、などの理由で“内定者が大学卒業資格を取得できる見込みがない”という場合は、内定取り消しが可能です。
2.採用活動中に虚偽の内容があった
履歴書や職務経歴書の内容に間違いがあったり、面接で嘘の経歴を話していたり、採用活動において虚偽の事実が見つかった場合は、企業側から内定を取り消しできます。採用に影響を与える重大な嘘に気付いたら、内定後でも速やかに取り消しを通知しましょう。
3.内定者に健康上の不安がある
健康診断の結果、業務に大きな影響を与えるような病気が内定者に見つかった場合、就業が難しい、という理由での内定取り消しが可能です。入社日までに十分治療できる病気、就業に支障が出ない程度の病気を理由にした、内定取り消しはできません。
4.内定後に内定者が逮捕された
内定後に内定者が刑事事件を起こした、逮捕・起訴された、というような場合、重大な事由として内定取り消しの対象になります。裁判所でも、内定取り消しが認められたケースがある事例です。企業イメージを守るために、逮捕者や事件を起こした者は採用を見送り、内定取り消しを通知しましょう。
5.内定取り消し理由に該当している
企業から内定を出す場合、万が一に備えて内定受諾書や入社承諾書、誓約書などに内定取り消しとなる事由を記載するケースがみられます。
これらの書類を交わしていて、内定者が内定取り消し理由に該当する行為をした場合、企業側からの取り消しが可能です。
6.候補者が内定に至っていない場合
内定通知書を送付したけれど、候補者からの受諾がまだの場合、内々定の状態で採用についての詳細が決定していない場合など、労働契約が結ばれたとは言えない段階であれば、企業側から取り消せます。
とはいえ、内々定であると会話をしたり、内定の意思を確認したり、といった段階まで進んだ状態から一方的に取り消しては、企業の印象が悪くなります。
どのような理由で取り消しになったのか正しく説明する、正当な理由を提示する、といった丁寧な姿勢で、候補者へ連絡し理解を得ましょう。
7.企業の経営が厳しく整理解雇に該当する場合
候補者へ内定を出した後、企業の経営が厳しくなるケースがあります。この場合、整理解雇の条件をクリアしている場合は、内定を取り消せます。
整理解雇の条件は4つあります。
①人員整理が必要な正当な理由がある
内定を取り消す場合、経営上の理由でどうしても人員削減が必要、という理由の提示が必要です。
②解雇回避努力義務を怠っていない
従業員の解雇や内定取り消しを回避するために、役員報酬をカットしたり、希望退職を募ったり、配置転換を実施したり、といった努力を行ってもまだ採用が難しいケースです。
できる努力をすべてしたけれど内定者の雇用が難しい、という場合は、内定の取り消しが可能です。
③内定取り消しの合理性がある
整理解雇を進めるに当たり、他の職員と内定者を比較して、内定者を選んだ方が合理性があると判断された場合、内定取り消しの事由になります。入社前でどんな人材か分からないから、昔から働いている仲間の方が大切だから、といった主観での判断は認められません。
④内定取り消しの手続きが妥当である
一方的に内定を取り消すのではなく、内定者の解雇が妥当であるかどうか、社内で十分に協議する必要があります。内定者が納得できるよう真摯に伝える、といった努力も求められます。
●整理解雇の条件
人員整理が必要な正当な理由がある | 経営上の理由でどうしても人員削減が必要、という理由の提示が必要 |
解雇回避努力義務を怠っていない | 役員報酬をカットしたり、希望退職を募ったり、配置転換を実施するなど、できる努力をおこなっていること |
内定取り消しの合理性がある | 他の職員と内定者を比較して、内定者を選んだ方が合理性があると判断された場合 |
内定取り消しの手続きが妥当である | 社内で十分に協議し、内定者が納得できるように手続きをふむこと |
これら4つの条件を満たしている場合は、内定取り消しの対象になります。
整理解雇は、前年度よりも業績が悪かった、少し赤字になった、といった深刻な影響を与えないレベルの経営難では適用されません。このままでは企業の存続が難しい、給与の支払いを継続できなくなりそうなど、追い込まれた状態の時に選ぶ最終手段だと覚えておきましょう。
内定取り消しの方法を確認
やむを得ず内定を取り消す場合、トラブルを起こさないためにも、正しい手順で進める必要があります。内定者側に問題がなく、企業の経営事情などを理由に内定を取り消す場合に求められる、相手への配慮や準備、進め方を解説いたします。
内定の状態を確かめる
内定を取り消す前に、自社と候補者との間に内定という労働契約が結ばれているかどうか、確認しておきましょう。内定を伝えたけれど口答のみの内々定状態、候補者から内定の受諾が届いていない、といった場合は、法的な問題なく内々定を取り消せる場合があります。
内定受諾書などに採用内定取り消しについての約束がある場合は、取り消しの理由が該当するかどうか、事前に確かめておきましょう。
採用内定者へ連絡する
企業の都合で採用内定取消となる場合、できるだけ速やかに採用内定者へ連絡しましょう。労働者にとっては、職を失う大きな問題です。社内がバタバタしていて手が回らない、など、後回しにならないように注意してください。
早く事実を伝えるために、電話での連絡が最善です。その後、採用取り消しの理由や補償についてなど、直接会って話す機会を設けましょう。内定者側から裁判を起こされてしまった、といったトラブルを避けるためにも、真摯に対応してください。
採用内定者との話し合い
採用内定を取り消す場合、企業が補償を用意する例が一般的です。話し合いでは、整理解雇にいたったなど、内定取り消しの理由を包み隠さず伝え、まずは謝罪しましょう。
その上で、内定取消にあたっての補償、損害賠償の金額を提示しましょう。補償額は、内定者が得るはずだった給与の6~12ヶ月分を目安に提示します。経営が厳しい場合も、できるだけの金額を用意しましょう。
候補者が新卒の場合、親御さんにも同席いただき、話を進めるとよりスムーズです。就職に向けて、精一杯の支援も求められます。
相手が納得しない場合、整理解雇の条件を満たしている事例であれば、企業側が主体となった解雇手続きが可能です。
一方的に手続きを進めてしまった場合、後から訴訟に発展するケースも考えられます。まずは直接相談して、内定辞退をいただきましょう。どうしても難しい場合は、整理解雇を検討しましょう。
内定取り消しが企業に与える悪影響
内定取り消しは、企業活動に悪影響を与える場合があります。どのようなマイナスが考えられるのか、取消手続きへ入る前にチェックしておきましょう。
企業のイメージが悪くなる
内定取り消しを選ぶと、内定者の心象が悪くなります。SNSやインターネットが普及している現在、「この企業に内定取り消しされた」といった情報を書かれてしまうと、評判を一気に落としてしまうでしょう。
本人が拡散しなくても、内定者の友人や知人、家族などから情報が広がり、企業のイメージがマイナスに転じる恐れもあります。企業価値を下げないためにも、内定取り消しはできるだけ控え、やむをえない場合も誠意ある対応を心がけましょう。
次年度の採用活動や今後も企業活動に支障を出さないように、企業イメージをできるだけ壊さないように、内定者ファーストで話を進めてください。
内定者から訴えられる可能性がある
内定者が内定取り消しに納得していない場合、訴訟に発展する恐れがあります。
訴えられてしまった場合、より多くの相手へ内定取り消しの事実が広まり、取引先や顧客の信頼を失う場合もあるでしょう。
内定取り消しは、内定者のイメージダウンにつながるケースがあります。内定者が改めて就職活動を進めるにあたり、自分の非ではないと証明するために訴訟を起こす、という例も考えられます。
訴訟になると、時間や費用が発生するため、できるだけ穏便に進めるための配慮が必要です。
内定取り消しにペナルティはある?
内定取り消しを選んだ場合、企業名公表制度によって、企業名を公表される可能性があります。厚生労働省が定めている制度で、以下の条件に該当する場合、企業名がWeb上で公表されます。
- 10名以上の内定を取り消している企業
- 2年連続で内定を取り消している企業
- 内定取り消しの理由を、該当者へきちんと説明していない企業
- 内定取り消しとなった採用内定者に対して適切な就職支援をしていない企業
新卒者の内定を取り消す場合、当事者への連絡だけでなく、ハローワークへの通知も必要です。職業安定局長が定める様式に従い、内定取り消しの理由、内定取り消し回避のために検討したこと、対象者へ行った説明や支援の内容などを記載してください。
まとめ
企業からの内定取り消しは基本できませんが、事例によっては取消可能です。
採用後に、内定者側の問題があったり、企業の経営が難しくなったり、といった事由がある場合は、できるだけ早めに取消しを伝え、支援に乗り出しましょう。
企業のイメージを悪くしないために、できる限りの手厚いフォロー、補償を用意して、訴訟へ発展しないように進めてください。
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求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。