育成就労制度と技能実習制度の違い|移行スケジュールについても解説

育成就労制度と技能実習制度の違い|移行スケジュールについても解説
目次

2022年から2023年まで、およそ1年にわたって行われた有識者会議の結果、技能実習制度廃止が決定しました。

それに代わる制度として、3年間の育成期間で特定技能1号水準の人材に育成することを目的とした「育成就労制度」が創設される予定です。

この記事では、育成就労制度について、技能実習制度との違いや移行スケジュールにも触れつつ解説します。

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育成就労制度とは?

育成就労制度とは、従来の外国人技能実習制度に代わって、新たに創設される予定の外国人雇用制度です。

技能実習制度は運用において様々な課題が生じており、厳しい職場環境に置かれた技能実習生が失踪してしまう例も相次いでいました。

そのような事情もあって、より外国人材が日本で働きやすくなるような制度を作るため有識者会議が行われ、2023年11月30日には法務大臣に最終報告書が提出されました。

国際的に理解が得られ、日本が外国人材に選ばれる国になるためには、技能実習制度を見直さざるを得なかったものと推察されます。


政府による方針決定

2024年2月9日には、首相官邸で「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」が開かれ、育成就労制度の方針が決定されています。

方針の具体的な内容は、育成就労による3年間の就労後、より高い技能水準であることを示す在留資格「特定技能1号」への移行を目指すというものです。

特定技能1号の就労期間は1年を超えない範囲内で期間を定められ、更新により最長5年を上限としているため、育成就労+特定技能で理論上は最大8年の就労が可能となります。

また、育成就労と特定技能の受入対象分野も同一になり、これまでのように
「技能実習生が分野によって特定技能への移行ができない(技能試験を別途に受けなければいけない)」
状況が改善される見込みです。

本人意向による転籍制限も技能実習制度に比べて緩和されている反面、人材確保の観点から、受入れ先企業においては、当面の間、一定の条件(人材育成を継続する必要性や、待遇の向上等)を満たす場合には、1~2年の間で転籍制限期間を設定することも許容されることになっています。

転籍を認めることは、職場に溶け込もうと一生懸命努力はしたものの、働き続けることに難しさを感じている人材がいなくなってしまうような状況を防ぐことにつながるでしょう。

その一方で、就労前における一定水準の日本語能力(日本語能力検定N5以上)が求められるなど、本制度の利用にあたっては、外国人労働者側にも新たな条件が課されています。

技能実習制度の改正の経緯や、新制度のポイントについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

技能実習制度の廃止はいつから?改正の経緯から新制度のポイントまで解説

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育成就労制度と技能実習制度の違い

技能実習制度と比較して、育成就労制度にはどのような特徴が見られるのでしょうか。
大まかにまとめると、次の6点において違いが見られます。

項目/制度

技能実習

育成就労

目的

国際貢献(他国への技術移転)

人材の確保と育成

職種

88職種・161作業

特定技能と同じ分野になる予定

移行条件

資格等で定量化できるレベルの日本語能力は問われない

受入前の段階で一定の日本語能力が求められる

転籍(転職)

基本的に認められない

所定の条件を満たせば可

受入れ人数枠

受入企業の常勤職員の人数による

分野ごとの上限が決まる可能性有

支援・保護体制

外国人技能実習機構による支援・保護

体制を強化した新しい機構へと改組

以下、それぞれの制度の違いについて、重要な点を6つご紹介します。


制度の目的が違う

そもそも、技能実習制度とは、開発途上国への技術移転や、日本で働く外国人材の育成を目的とした「国際貢献」が制度創設の理念です。

技能実習制度において、技能実習生は最長5年間(1号技能実習で最長1年以内、2号、3号技能実習でそれぞれ最長2年以内)日本で働けますが、それはあくまでも技術を学ぶためであって、企業が労働力を確保するためではありません。

にもかかわらず、日本では技能実習生を不当な待遇で働かせていた企業も少なくなく、実際に何らかの処分を受けた例もあります。

厳しい職場環境に置かれ、やむにやまれぬ事情から失踪してしまう技能実習生の存在も、国際的な問題となっています。

これに対して育成就労制度の場合、あくまでも「人手不足分野における特定技能1号への移行に向けた人材の育成、確保」が主な目的であり、長期にわたって働いてくれる外国人労働者を獲得するための制度とも言い換えられます。

人材育成の方向性に関しても、母国で活躍してもらえる人材を育てるというよりも、特定技能1号に移行ができる人材の育成が主な目的になります。

これまでの技能実習制度における“国際貢献”という観点が、技能実習生が現に経済社会の担い手となって国内の企業等の貴重な労働力として受け止められている実態があまりにもかけ離れている状況を、育成就労制度の立ち上げによって改善しようという政府の狙いが見て取れます。


受入れ可能職種が違う

育成就労制度の受入れ対象分野は、有識者会議の最終案において「特定技能と同一」とされました。

その上で、特定技能の外国人材と同様、受入機関(企業)は各業界の協議会加入が求められ、産業分類も合致していなければなりません。

育成就労制度そのものが、外国人材の特定技能1号入りを見据えた制度となっていることもありますが、現行制度と比較して非常に大きな違いと言えるでしょう。

一見、この点は良いことのようにも思えますが、弊害も存在します。

一例として、「惣菜製造業」は食料品製造の職種ですが、デパートの地下で惣菜を作っているような場合、デパート自体の産業分類としては「小売業」に分類されます。

言い換えれば、外国人労働者の行う作業が何であるかという個別的な観点で対象分野は判定していないということです。

そのため、技能実習制度では、上記の例でも問題なく実習生の受入れができましたが、育成就労制度においては許可されないおそれがあります。

その他にも、育成就労制度において受入れが許可されないおそれがある職種は数多く存在するものと推察されるところです。

ただし、将来的には特定技能の受入可能分野が増える可能性も十分考えられるため、2024年3月時点では状況を見守る必要がありそうです。


移行条件が違う

技能実習制度においては、技能実習2号・3号への移行にあたって、一定の技能レベルであることを証明する(技能検定に合格する)必要がありました。

しかし、育成就労制度では日本語能力も求められるため、技術だけが求められていた実習生と違って、総じて移行の難易度としては高くなった印象を受けます。

求められる日本語能力は、特定技能1号で日本語能力試験「N4」レベルとなり、2号になると「N3」レベルにアップします。

技能実習制度と違い、育成就労制度は国内における労働力確保も目的とした制度となっているため、日本語能力のハードルが上がっているものと考えられます。


転籍(転職)のルールが違う

技能実習制度で大きな問題になったのが、転籍(転職)が原則不可であるという点です。

職場を経験した結果、どうしても馴染めず「辞めたい」「他の職場で働きたい」と実習生自身が考えたとしても、自分の意思で転職ができないことから、職場を離れ失踪してしまう実習生も数多く存在していました。また、転籍制限の存在が、実習実施者と技能実習生との間に過度な支配従属関係を生じることにより、様々な人権侵害の発生、深刻化の背景・原因となっている旨も指摘されてきたところです。

このような問題を踏まえ、育成就労においては、やむを得ない事情がある場合のほか、一定の条件を満たしている場合には、本人の意向による転籍が可能になりました。

ただし、本人の意向による転籍を希望する場合、同じ企業で1年以上働かなければならない、日本語能力試験N5レベルの日本語能力を試験合格によって証明しなければならないなど、人材側にも条件が課せられます。

また、転籍者数の割合が一定以下であるなど、転籍を予定している企業が受入機関として適正かどうかもチェックされる予定です。

その他、育成就労として配属された後、2年以下の期間で途中帰国した場合、前回と異なる分野で改めて育成就労としての来日・就労が可能となります。


受入れ人数枠が違う

育成就労制度における外国人材の受入れ人数枠は、当面は技能実習1号のルールを引き継ぎ、受入機関側の社員数によって決定される予定です。

しかし、育成就労では特定技能と同様に「分野ごとの人数枠上限」が設定され、経済情勢等の変化に応じて適時・適切に変更されるものと考えられます。


支援・保護体制が違う

技能実習制度においては、外国人技能実習機構が管轄となっていましたが、育成就労ではより厳格な監理が可能となる新たな機構へと改組される予定です。

技能実習機構の監督指導・支援保護機能や、労働基準監督署・地方出入国在留管理局との連携を強化するだけでなく、人材受入れに関わる監理団体の許可要件などについても厳格化されるものと考えられます。

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最終報告書を読み解くポイント

育成就労制度について理解を深めるためには、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議における最終報告書」の内容を読み解く必要があります。

以下、概要版を例に具体的なポイントを絞って解説・考察します。


見直しにあたっての三つの視点(ビジョン)

最終報告書の中では、見直しにあたっての三つの視点(ビジョン)が紹介されています。

※出典元:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議における最終報告書(概要)

技能実習制度は、実習生が将来的に母国へ帰ってしまう仕組みとなっており、ある意味では日本国内でのキャリアアップが難しい制度でした。

母国に比べて行動も制限されていた点は否めず、外国人に苦手意識を持つ日本人も少なくないことから、これらの点を育成就労創設によって解消するねらいがあるものと考えられます。


見直しの四つの方向性

制度の具体的な見直しの方向性としては、最終報告書の中で次の4つがあげられています。

※出典元:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議における最終報告書(概要)

技能実習制度では、本来の目的から大きく離れた制度の運用が問題となりました。

そのような事情もあってか、外国人が働きやすい・暮らしやすい制度構築を目指した結果、新制度においては特定技能への移行条件等が比較的分かりやすくなっています。


留意事項

新制度への移行を進める一方、最終報告書では次のような点にも留意する旨の記載があります。

※出典元:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議における最終報告書(概要)

制度見直しに伴い人材確保に制限がかかり、人手不足に拍車がかかるようなことは避けるよう留意した結果、転籍等のルール等が具体化されたものと推察されます。

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育成就労制度への移行スケジュールはどうなる?

育成就労制度への移行に関しては、2024年2月9日に政府が方針を決定しているため、まずは改正法の審議が行われます。

審議の終わる時期が6月頃であると仮定した場合、早くても改正法の施行は2025年からとなり、状況によってはそれ以降の施行になる可能性もあります。

尚、改正法が施行される前に入国した技能実習生は、技能実習の在留資格のまま最長5年間は在籍できるものと思われます。

しかし、将来的に新制度に合流できるかどうかについては、今後の状況を注視する必要があるでしょう。

新制度への移行を踏まえ、外国人労働者を雇用することのメリット・デメリットについて改めて確認したい方は、以下の記事もおすすめです。

外国人労働者は雇用するべき?メリット・デメリットと3つの注意点を解説


まとめ

技能実習制度は、長年にわたり企業の人材確保における重要な制度として運用されてきたものの、実習生側のニーズに即していない部分が合った点は否めませんでした。

新制度への移行にともない、自社で外国人材の受入れが可能な体制を整えられるかどうか、企業としても再検討が必要になるでしょう。

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菅野 正太
記事を書いた人
菅野 正太

弁護士法人 永 総合法律事務所 所属弁護士

上智大学法学部法律学科 卒業
早稲田大学大学院法務研究科 卒業

中小企業法務、不動産取引法務、寺社法務を専門とする弁護士法人永総合法律事務所の勤務弁護士。
第二東京弁護士会仲裁センター委員、同子どもの権利委員会委員

弁護士法人 永 総合法律事務所HP:https://ei-law.jp/

寺社リーガルディフェンス:https://ei-jishalaw.com/