人材の流出を防ぐには?リスクや原因・防止対策について解説

人材の流出を防ぐには?リスクや原因・防止対策について解説
目次

自社で育った人材が同業他社に流出してしまうと、企業は自社の人材を失うだけでなく、同業他社を利するリスクも生じます。

二重の意味で深刻な損失を被らないためには、人材流出の原因を正しく知り、防止対策を早急に講じることが大切です。

本記事では、主に経営者・人事担当者向けに、人材流出のリスク・原因・防止対策について解説します。

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人材流出とは

人材流出とは、自社で働いていた人材が何らかの理由により退職し、他社に流出してしまう(他社で働く)ことをいいます。

多くの企業が人材流出を重要な課題と捉え始めた背景には、終身雇用制度の実質的な崩壊があります。

終身雇用制度を当然のものと考えていた時代、新卒で入社した社員が他社へと転職するケースは、それほど多くはありませんでした。

基本的に、日本ではいままで「社員が定年まで勤めること」を前提条件として人材を採用していたことから、人材流出が問題として表面化する企業はごくわずかだったものと考えられます。

しかし、環境の変化が激しい時代を迎え、日本でも「入社した社員を定年まで雇用し続ける」ことは難しくなってきています。

2019年に行われた経団連の定例記者会見で、第5代経団連会長の故・中西宏明氏は「終身雇用について終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている」とコメントしています。

労働者側も、より働きやすい環境・ワークライフバランスの充実・やりがいのある仕事などを求めるようになり、働き方の価値観が多様化してきました。

その結果、労働者の転職に対する抵抗感が薄らぎ、企業が人材流出のリスクにさらされる状況が生まれたものと推察されます。

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人材流出によって引き起こされるリスク

人材流出を放置しておくと、企業に様々なリスクをもたらします。
以下、具体的なリスクをいくつかご紹介します。

  1. ノウハウ流出リスク
  2. コスト増加リスク
  3. 後継者不在リスク
  4. 顧客流出リスク
  5. 組織力低下リスク

ノウハウ流出リスク

自社で働いている人材は、機密情報とは別に、各々の職場で獲得したスキルを持っています。

個人的に業務を遂行する上で必要なノウハウはもちろんのこと、企業が蓄積してきたノウハウを従業員が活用するケースも珍しくありません。

中には、同業他社が気付いていないノウハウもあることから、こういったノウハウの流出は、自社の体制を弱め他社の体制を強めるリスクがあります。

あるいは、社内の人材が別会社に転職した結果、自社の弱点が露呈する可能性も考えられます。

自社が大きなダメージを受ける前に、機密保持・競業禁止に関する取り決めを整備しておかないと、やがて取り返しのつかない事態を招いてしまうかもしれません。


コスト増加リスク

どんな社員を自社で雇った場合でも、人材教育に一定の時間を要するものですし、採用までのコストも馬鹿になりません。 

自社で手塩にかけて育てた人材が、職場を離れてしまうことで、これまでその人材に費やしたコストが無駄になってしまいます。

自社に在籍していた期間が短い社員であっても、採用コストは発生しているわけですから、やはり一定額の損失は発生しています。

さらに、離職率が高くなると求人掲載が常態化し、応募者を集めるのに更なるコストがかかります。

つまるところ、自社で働く社員の退職は、大なり小なり自社のコスト増加リスクを生じさせます。

社員が1人辞めるだけでも、新しい人材を雇う採用コスト・人材教育の教育コストが発生するため、人材の定着率が高い企業と低い企業を比べた場合、自ずと定着率の低い企業は不利になるでしょう。


後継者不在リスク

長期にわたり自社で働いてきた人材の中には、後継者候補も少なからず存在しています。

事業責任者候補や部長クラスなど、後々経営を任せたいと考えていた人材が職場を離れることは、自社の未来を揺るがす由々しき問題です。

教育コストが無駄になるのはもちろん、新たに同レベル以上の実務経験・実力を持つ人材を採用、もしくは育成しなければなりません。

中には、スキルというよりはセンスに近い能力が問われる職種もあることから、後継者育成には相応の時間がかかるものと考えてよいでしょう。

こういった後継者不在リスクは、業績の悪化に関わる重要な問題であり、経営者が頭を悩ませるポイントの一つでもあります。


顧客流出リスク

営業担当者など、取引先や顧客との接点が多い職種の人材が退職した場合、企業が懸念すべきリスクとして顧客流出リスクがあげられます。

自社の看板で培った人脈・信頼が、たった1人の営業担当者によって失われることも十分考えられるため、企業としても慎重にならざるを得ません。

特に優秀な人材は、会社ではなく人材自身を顧客に信頼させる能力が高いため、その人材の退職後に営業所の売上が大幅にダウンすることも十分考えられます。

対策としては、競業避止義務が盛り込まれた雇用契約書を取り交わすこと、社員教育の機会を設けて「顧客の引き抜きは損害賠償請求の対象」と説明することなどがあげられます。


組織力低下リスク

組織の中で優秀かつ信頼されている人材が、何らかの理由で自社を離れてしまった場合、その分だけ残された社員への負担は重くなります。

高いスキルを持つ人材が退職してしまうと、例えば引継ぎ期間を設けたとしても、他の社員が完璧にスキルを身につけられないリスクが生じます。

他の社員の精神的支柱となっていた人材であれば、なおさら失ったときのショックは大きくなり、組織力の低下につながるでしょう。

即戦力となる人材を採用する選択肢もありますが、相応のコストがかかります。

仮に、営業職の人材に対して自社で提示できる年収が500万円だった場合、別会社で800万円を提示されれば、多くの人材が他社を選択するはずです。

企業としては、ある人材が自社を離れた際のコスト・リスクを把握した上で、優秀・希少な人材に対しては適正な待遇を実現できるような努力が求められます。


自社から人材が流出する主な原因

自社から人材が流出するプロセスは一様ではなく、社員それぞれに理由があります。
以下、人材流出の主な原因をいくつかご紹介します。


業務と報酬がアンバランス

任されている業務に対して、報酬が十分でないと感じた社員は、より良い報酬を求めて自社を離れるおそれがあります。

企業側が、職種・地域の相場から鑑みて十分な額を支払っている場合であっても、すべての社員がその金額で納得するとは限りません。

あるいは、現場や部署によって収入に差があるなど、他の社員と比較して給料が安いことに不満を感じている社員もいるでしょう。

企業としては、定期的にヒアリングを実施するなど、慎重に情報を集めて対策を講じる必要があります。


社風・文化に馴染めない

それぞれの企業には、それぞれの社風・文化があり、大事にしている点も異なります。

ある企業は社員同士の雑談を推奨する社風かもしれませんし、ある企業では仕事中の雑談は一切しない文化が根付いているかもしれません。

企業の社風・文化に馴染めない社員の中には、居心地が悪く将来職場を離れようとする人もいるはずです。

そして、社風・文化が現代の事情にマッチしていない場合、自社を離れる社員の数も増えやすく、新しい社員を迎え入れることも難しくなってきます。

この点について企業が対策を試みるのであれば、例えば匿名で投書できる意見箱を用意するなど、現職の社員はもちろんのこと、退職した社員からも不満を吸い上げられるような仕組みの構築が必要です。


入社前イメージとのギャップ

選考・採用段階で、求職者と企業との間にミスマッチが生じる主な理由の一つに、新入社員が企業に抱いている「入社前のイメージ」とのギャップがあげられます。

採用ブランディングに力を入れている企業の中には、SNSなどで現実とかけ離れた内容の投稿を行っているところもあるため、求職者の誤解を招かないようなブランディングを意識したいところです。

例えば、労働環境について「明るく楽しい職場」といったイメージでSNSに情報を投稿していたにもかかわらず、実際の労働環境が厳しい場合、ギャップを感じて離職を検討する社員がいても不思議ではありません。


成長につながらない

転職へのハードルが低くなった現代において、従業員側の意識は企業よりも個人に依る傾向が強まっています。

自社で認められなかったとしても「他社で認められればいいや」と考えて、スキルアップ・キャリアアップの機会を増やしている人材も少なくありません。

例えば、役職者として勤務できるチャンスはどの企業でも限られていることから、マネジメント経験を積みたくて別会社への転職を検討する人もいるでしょう。

企業としては、社員すべての希望を叶えることはできなくても、自社と社員の将来につながる仕事を任せられる体制を整えたいところです。


評価が公正でない

人材流出企業の重大な特徴の一つとして、企業全体で社員の評価が公正でないことがあげられます。

人事評価制度が確立していない、社長の一存で評価が決まってしまうなど、人事評価が公正でない職場ではなかなか優秀な人材が定着しません。

評価体制が整っていたとしても、年功序列など旧態依然の体制であれば、自社に見切りをつける社員は増えることでしょう。

この点に関して不備がある場合は、外部コンサルタントの目を借りるなどして、最新の状況へとアップデートが必要です。


社内・部署の人間関係に問題がある

一人ひとりが違う性格をしていて、職場で働く理由が「この会社の社員だから」という点だけしか共通していない集団は、多くの場合衝突する未来が待っています。

人間関係の問題は、どの企業・部署においても無視できない問題です。しかもすべてを完璧にマネジメントするのはどの企業でも難しいでしょう。

この点で対策を講じる場合、社員同士が理解を深め合う時間を設けたり、チームビルディングの手法を取り入れたりするのが効果的です。

同時に、リモートワークを活用して相性の悪い職員同士の接触を避けるなど、無理に社員の性格を矯正させない選択肢も考慮すべきでしょう。


厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」から紐解く退職理由

厚生労働省の「令和3年雇用動向調査結果の概況」では、事業所・入職者・離職者に関する様々な調査結果が報告されており、転職者が前職を辞めた理由についてもまとめられています。

以下、上記調査結果における主な退職理由につき、男女別の理由の違いにフォーカスして解説します。

※参照:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」


定年・契約期間の満了

調査結果の中で、「定年・契約期間の満了」を理由に前職を辞めたと回答した人は、男性で16.5%、女性で12.3%でした。

数字の内訳を見ると、男性は60歳以上のパーセンテージが高く、60~64歳は62.9%、65歳以上は57.6%の人が定年または契約期間の満了によって退職していることから、相対的に定年退職者が多いものと推察されます。

一方女性の場合、40代以上から定年または契約期間の満了によって退職する割合が増えています。

こちらに関しては、定年退職というよりも、契約期間満了に伴う退職者が少なからず存在しているものと考えられます。


労働時間・休日などの条件が悪い

調査結果の中で、「労働時間・休日などの条件が悪い」ことを理由に前職を辞めたと回答した人は、男性で8.0%、女性で10.1%となっています。

数字の内訳を見ると、男性は20~24歳が14.2%、35~39歳が11.9%となっていて、20代は就職先に対するイメージとのミスマッチ、30代は家庭の事情や自分の今後を考えた上での選択等が背景にあったのではないかと推察されます。

女性は19歳以下が28.6%と高く、次いで25~29歳の14.8%、20~24歳の14.3%と続きます。

この結果に関しては、ライフスタイルの変化に伴う退職の可能性も考えられますが、企業側が女性に対して「採用段階で各種条件を十分にすり合わせていない」ことが一因という意見も聞かれます。


職場の人間関係が好ましくない

調査結果の中で、「職場の人間関係が好ましくない」ことを理由に前職を辞めたと回答した人は、男性で8.1%、女性で9.6%です。

こちらに関しては、詳細を掘り下げるにも個人差が大きく、一概に具体的な理由を特定するのは難しいでしょう。

ただ、年代によって退職の理由は異なるものと推察され、男性は若年者なら上司・同僚とソリが合わないなどの理由、ミドルエイジなら出世競争などが理由の一つとして考えられるかもしれません。

女性の場合はより複雑な事情がからむこともあり、例えば妻が夫に職場の愚痴をこぼした結果、仕事を辞めるよう促されて退職してしまったケースもあるようです。


人材流出の防止対策を考えよう

企業における人材流出の原因は、企業の数だけ異なる問題が考えられるため、多方面から防止対策を模索することが重要です。
以下、人材流出に関する防止対策の方針として、押さえておきたいポイントをまとめました。


評価制度とその運用の見直し

社員が「会社に正当に評価されている」と感じる上で、特に重要なポイントは、評価制度が納得感のあるものかどうかです。

具体的には、昇進・昇給の度合いが社員目線で妥当に感じられ、他の従業員がある程度正しく評価されていると納得できるものでなければなりません。

当然、評価基準は詳細かつ具体的な方が望ましく、評価者によって評価が変わらないような運用が求められます。

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拘束時間の軽減

社会全体で自由な働き方が増えてきている状況において、拘束時間が長い職場は、それだけで敬遠されてしまうおそれがあります。

残業・休日出勤などは極力減らせるよう、社内の体制を改善するだけでなく、労働時間を社員の側である程度調整できる仕組み(フレックスタイム制など)を導入して、社員が魅力を感じるような働き方を提示することが大切です。


自社に合った福利厚生の充実

優秀な人材を安定的に雇用したいのであれば、福利厚生の充実も重要なポイントです。

自社の社員が何を望んでいるのかを先回りして考え、できるだけユニークな制度を設けると、社員は自社で働くメリットを明確にイメージしやすくなるでしょう。

例えば旅行代理店なら、社員に対し「5年の継続勤務ごとにリフレッシュ休暇1週間」を与えて、社員それぞれが好きなところに旅行するといった制度を設けるような方法が考えられます。

家庭の事情により働きにくさを感じている社員のため、育児・介護サポートを実現する福利厚生を導入するのも一手です。

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働き方の多様化を実現

企業が優秀な人材を手放さない上で重要なことは、社員の人生に寄り添うことです。

例えば、リモートワーク等で介護に携わる社員が働きやすい環境を構築したり、産休・育休後に社員がスムーズに復帰できる体制を整えたりできれば、社員は長い人生の中でブランクを最小限に抑えて職務に集中できます。

現場で仕事をする必要がある職種の場合、社員の要望をすべて実現できるとは限りませんが、自社としては少なくとも「多様化する働き方を受け入れる」スタンスだけは維持できるようにしましょう。

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人事配置の見直し

適切な人事配置を実現することは、経営の効率化や収益性向上につながり、個々の社員の能力が成果に結びつきやすくなるメリットがあります。

人事配置前後の効果を測定し、個々の社員の適性を把握しながら、現在の人員において最も良い配置の実現を模索したいところです。

人間関係に悩んでいる社員がいれば、事情をヒアリングして所属部署を変更することで、状況の改善につなげることも検討しましょう。

ただし、頻繁な配置変更は現場に混乱と負担を与えますから、人事と他の社員とのコミュニケーションは密にとる必要があります。


匿名アンケート実施

人事と社員が対面してヒアリングすると、なかなか本音が言えないケースも生じてきます。
この点に関しては、匿名アンケートを実施することによって、社員の生の声を集めやすくする方法などが有効です。


研修・セミナーの実施

自社実施、または外部で実施されている研修・セミナーにつき、社員が参加できるよう企業の側でサポートすると、社員がキャリアアップの観点から魅力を感じやすいでしょう。

ただ参加させて終了ではなく、学んだことを自社で活かす場を与えることも大切です。


まとめ

人材の流動性が高まると、どの企業にも人材流出のリスクが生じます。

その一方で、人材流出は企業の努力次第でリスクを最小限に抑えられる問題でもあります。

具体的な対策を講じる上で重要なことは、経営者・人事担当者が「社員の企業に対する想い」をしっかり汲み取ることです。

普段からできる限り、社員とのコミュニケーションを充実させつつ、社員が気軽に自社に対して意見しやすい環境を作ることが大切です。

より理想的な方法としては、自社に来て欲しい応募者に対して、応募段階から「自社が応募者に対して最大限メリットを提示できる」企業であるとアピールする方法があります。

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ヒトクル編集部
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