あなたの会社は大丈夫?採用・人事担当者が知っておくべき2022~2024年の法改正まとめ
新型コロナウイルスの影響や少子高齢化による労働人口の減少を背景に、企業では働き方が大きく変化してきています。それに伴い、2022年には多数の労働関連の法改正が施行されました。
しかし、2023年以降も企業側が対応すべき規定が数多くあります。そこで今回は、採用・人事担当者が把握しておくべき2022年の法改正、そして2023年・2024年の法改正についても概要を解説していきます。
2023年4月 | 働き方関連法 | 月60時間超の割増賃金率の引き上げが中小企業へ拡大 |
2023年4月 | 育児介護休業法 | 従業員が1000人超の企業の育児休業取得状況の公表が義務化 |
2023年4月 | 働き方改革関連法 | 医師の年間の時間外労働を960時間までに上限規制する規定など |
2023年4月 | 働き方改革関連法 | 建設業の労働時間が原則で1日8時間、週に40時間までに規制 |
2023年4月 | 運送業の働き方改革 | ドライバーの年間の時間外労働を年に960時間までに規制 |
2024年10月 | 年金制度改正法 | 社会保険適用事業所の範囲拡大し、従業員数50人超の企業も対象。 |
2022年の法改正まとめ
まずは2022年に施行された法改正を確認しておきましょう。まだ自社で対応できていない部分はないか、改めて確認してみて下さい。
① 育児・介護休業法の改正(2022年4月~)
→ 産後パパ育休の創設や取得回数が改正、育児休業を取得しやすい環境整備の義務化 など
※知らないとトラブルに?育児・介護休業法の改正ポイントと対応方法について
② パワハラ防止法の改正(2022年4月~)
→ 大企業だけでなく中小企業も適用開始
※パワハラ防止法の概要と取り組むべき対策について【中小企業も要注意】
③ 女性活躍推進法(2022年4月~)
→ 行動計画提出の対象企業拡大、女性活躍の情報公開を規定の条件で行う など
※2022年女性活躍推進法の改正や企業に必要な取り組みを解説!
④ 職業安定法の改正(2022年10月~)
→ 求人情報の的確な表示の義務化、個人情報の取り扱いルールの刷新 など
※【職業安定法改正】2022年10月1日からの変更点・注意点のポイントを解説
⑤ 社会保険の適用対象者の拡大(2022年10月~)
→ 適用対象者の拡大や資格要件の変更 など
※社会保険の適用拡大で人事が覚えておきたい基本事項と対策をおさらい
2023年の法改正まとめ
それでは次に2023年に予定されている法改正を見ておきましょう。主なものとしては下記の2つの法改正があります。
中小企業の月60時間超の割増賃金率の引き上げ(2023年4月~)
まずは働き方改革関連法の改正に伴う、割増賃金率の引き上げです。
これまでは大企業が対象だった月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率(50%)が、2023年の4月からは中小企業にも適用されます。そのため、計算方法の確認を含めて今のうちに準備しておく必要があるでしょう。
なお、月60時間以内の労働に関してはこれまでと同じ25%が適用となります。算出方法は1カ月の起算日からカウントし、時間外労働の時間が累計で60時間を超えた時点より、50%以上の割増賃金率で計算します。
月60時間を超えた状態で深夜労働も行うと、さらに25%の深夜割増賃金率が加わりますので、合計で75%の割増賃金率になることを覚えておきましょう。
当該規定の施行によって、時間外労働が多い中小企業は特に負担が増大します。
なるべく業務の効率化を進め残業を減らす取り組みが必要でしょう。また、計算方法も複雑になるため労働時間の適正な把握も不可欠です。勤怠システムの整備も行っておきましょう。
育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月~)
続いては育児介護休業法の改正による育児休業取得状況の公表の義務化です。
育児介護休業法自体は2022年4月に改正されましたが、当該規定は2023年4月からの段階的な適用となっています。対象となるのは従業員が1,000人超の企業であり、下記2つのいずれかを年1回公表する義務があります。
① 男性の育児休業の取得率
② 育児休業等及び育児目的休暇の取得率
なお、公表を行う年度の前事業年度が取得率の算定期間となります。公表の仕方は、自社のホームページや厚生労働省運営のWebサイト「両立支援のひろば」など、誰でも見られる形で公表します。
育児介護休業法は2022年から改正され、休業の分割取得や休業開始日の柔軟化、産後パパ育休制度の創設など、数多くの規定が新たに定められました。
就業規則の改定はもちろん、自社の従業員に制度に対する理解や周知を広めることも事業主の義務となったので、今のうちに対応していきましょう。
※男性育休のメリットとは?|法改正の概要や目的、必要な準備も分かりやすく解説!
2024年の法改正まとめ
2024年から施行される法改正は、主に下記のような事項がありますのでチェックしておきましょう。
医師の働き方改革(2024年4月~)
2024年から始まる規定の一つ目は、医師の働き方改革です。2019年の働き方改革関連法によって、2024年4月から施行することが決まっています。医療業界は深刻な医師不足により長時間労働が常態化していることから、同制度が施行されるきっかけとなりました。
制度の内容としては、医師の年間の時間外労働を960時間までに上限規制する規定があります(地域医療暫定特例水準や集中的技能向上水準が適用される石については年1860時間以下が予定されている)。その他には、月の時間外労働が100時間を超える場合、健康確保措置として面接指導や勤務間インターバルなどの確保を行うことが義務化されました。
医療業界では時間外労働が多く、医師の勤務実態すら把握できていない医療機関も存在します。そのため、まずは勤務状況を確認して、問題があれば医師の業務負担を軽減する取り組みや制度の導入を行うことが急務と言えるでしょう。
建設業の働き方改革(2024年4月~)
続いては建設業の働き方改革です。
こちらも2019年の働き方改革関連法の改正により順次施行されることが決まり、2024年4月から適用されます。建設業も医師と同じく、人手不足などの影響から長時間労働が常態化していました。したがって、早急な規制が困難であったために5年の猶予期間が与えられていたのです。
当該制度の規定により、建設業でも労働時間は原則で1日8時間、週に40時間までに規制されます。また、時間外労働の上限規制も適用となるため、特別条項付きの36協定を締結している場合でも、年間や月単位などでの時間外労働の上限規制を守る必要があります。
なお、上記のような規定に違反してしまうと、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金となります。悪質な場合には企業名を公表され、事業継続が困難になるケースも考えられますので、規制への対応は今のうちにしておきましょう。
運送業の働き方改革(2024年4月~)
運送業の働き方改革も、前述した2つの業種と同様に2024年4月から適用開始となる制度です。
本来であれば、労働者の就労環境改善が見込まれる働き方改革ですが、こちらは規定の適用によって物流業界に問題が発生すると懸念されています。このような問題は「2024年問題」と呼ばれ話題になっています。
※【2024年問題】物流業界の働き方改革|企業やドライバーの課題・対策を解説
規定の内容は、ドライバーの年間の時間外労働を960時間までとする上限規制となります。他の業種では年間で720時間ですので規制は緩くなっています。
しかし、運送業では時間外労働で収入を確保している労働者も多いため、上限規制によってドライバーの大幅な収入減となる点が問題視されています。さらに、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率も今後は増加しますので、企業にも大きな負担が課せられます。
こうした諸問題が「2024年問題」であり、今後の動向が注視されているのです。
社会保険適用事業所の範囲拡大(2024年10月~)
最後は社会保険の適用範囲の拡大です。こちらは2020年の年金制度改正法の成立以降、段階的に適用範囲が拡大しています。
2024年10月からは従業員数が50人超の企業も対象となることが決まっています。なお、従業員数とは「働いている人の数」ではありませんので注意しましょう。基本的には厚生年金保険の適用対象者数(正社員と社会保険の適用条件を満たしているパートの人数)となります。
同制度により社会保険の加入者の増加が見込まれるため、企業側でも雇用者の労働条件や労働時間の見直しを行う必要があります。加入者の増加は、企業にとっても社会保険料負担の増加となりますので、今のうちに対策しておく必要があるでしょう。
2023年、2024年も引き続き人事担当者は法改正に目を通しておきましょう!
2022年~2024年までの採用・人事担当者が知っておくべき法改正についてご紹介しました。複雑で分かりにくい制度も存在しますが、罰則がある規定もありますので、早めに準備して対応していくことが重要です。
採用・人事担当者は、引き続き労務環境や就労条件が変わるような法改正を注視し、自社のルールや就業規則の変更などの取り組みを行っていきましょう。
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求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。
その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。 静岡県内の中小企業を主な顧客としている。
顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。